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第十三話 狩り

 こちらの世界に来てから、早くも三週間が経過しようとしていた。

 2つ目の町、ミィズとユリアに出会った『ラワカ』から出発して七日目、オレたちは山岳地帯に入ろうとしていた。


「ねぇ、イレーナ今の時間って多分昼過ぎくらいだよね?」

「ええ、そうですね」

「時間的にこのまま山岳地帯へ進んでも平気だったりする?」


「難しいところですね、登り始めても早い段階で野営の準備は必要ですし…。今日は平地で休んでから明日登り始める方が無難かもしれません」

「じゃあ今日は休憩にしようか?別に急いでるわけでもないし」

「そうしましょう」


 シルバーウルフの襲撃から二日ほど経ち、イレーナは以前のように立ち振る舞えるくらいに回復していた。だが、旅路の道中はオレが何も言わずとも隣を歩くようになっていた。

 手を繋いでいるわけではないけれど、これはオレにとって大きな変化だった。出会ったときから監視されているような、どちらかといえば嫌われている印象を持っていたからだ。

 襲撃時に助けたこともやりすぎたと思っていたが、あの時以降、嫌われているような感覚を感じることもなく、むしろ好意さえ寄せられているような印象を受ける。


「少し時間もあることですし、この近辺で食料にできる獣を探しますか?」

「どうしようか、食料的には不安はなさそうだけど」


「山岳地帯にはいると食料に出来る様な動物や獣が少なくなりますし、栄養も偏ると危険ですから」

「了解、探しに行ってみようか。少人数がいいかな」

「そうですね、慣れていますからワタシが行きましょう」

「オレも一緒に行くよ」

「わ、わかりました」


「みんなは野営の準備お願いできるかな」

「「はーい」」

「こちらは任せて行ってきてくれ」


 手頃な野営地を見つけ、他のメンバーたちに設置と準備をお願いし、オレとイレーナは動物を狩りに野営地周辺で探索を始める。

 シルバーウルフの襲撃からというもの、周囲の索敵には自信があったのでイレーナに相談してみることにした。


「ねえ、イレーナ?」

「はい、どうしましたか?」


「実は周囲の動物とか魔物を探知できるみたいなんだけど、これってすごいことだったりする?」

「すごい…と思いますけど…。探知系の魔法特性を持っている人を知っていますが、かなり少数だと思います」

「早速やってみるね」


「あっちに居るかも」

「進みましょう」


 ──。


「おかえりー、食料見つかったぁ?」

「ええ、信希のおかげですぐに見つかりました。すぐに解体しましょう」

「わーい!お肉お肉!」

「喜んでもらえたようで何より、狩りの腕は流石イレーナって感じだったけど」

「二人ともありがとー」


 イレーナは慣れた手つきで、狩ってきた鹿のような動物の解体を始めてくれた。


「何か手伝う?」

「いえ、大丈夫ですからゆっくりしていてください」

「わかった、ありがとうね」


 ──。


 イレーナが動物の解体をしてくれている間に、オレは他のみんなの手伝いと調理用の焚火や調理場を用意していく。

 こういった作業は元居た世界では一切触れてこなかったが、もう手慣れたもので手早く用意できるほどになっていた。


 いち早く動物の解体を終わらせたイレーナが、食事の準備を終えた時に声をかける。


「イレーナ?」

「はい、どうしましたか」

「ちょっと手を貸して?」

「は、はい。ですが血生臭いですから…」


「だからだよ」


 そう言うと、オレは彼女の手を支えて綺麗になるように思考を集中させる。

『手の汚れをキレイに…不純物を取り除く…』


 はたから見ている分には特に変化を感じることは出来ないだろうが、イレーナはとても驚いているようで─


「す、すごい…。信希、ありがとうございます」

「ちゃんとできてよかった」


 そして、時間的には少し早いが、暗くなる前に夕食の準備も完了して、みんなで食事をすることとなった。


「この煮込みには内臓系を使っていて、旅の途中に不足しがちな栄養が多く入っていますから、みなさん食べるようにしてくださいね」

「「はーい」」

「さすがだね、そこまで気が回るなんて。イレーナが一緒に居てくれて助かるよ」

「いえ、もし誰かが体調不良になったら危険ですから…」


 実際イレーナにはとても助けられている。他のメンバーが旅路経験が少なかったり、旅をする必要性がなかったりすることから、専ら先生はイレーナといった感じだ。

 オレも元居た世界での知識はある程度あるにしても、実際に旅をするとなるとほぼほぼ使い物にならないことは言うまでもない。

 ラワカで物資を充実させることができたので、虫よけのテントや睡眠がしやすくなるためのアイテムなど、調理道具など足りなかったものの大半をイレーナが選択してくれた。

荷物が多すぎても移動が大変になるだけなので、イレーナは最低限必要なものだと言っていたが、オレは結構快適だと感じていた。

 唯一問題を感じているとすれば、お風呂がないことだろうか…。日本では、毎日温かい風呂に入るのが当たり前だったが、こちらの世界ではそうも言ってられない。旅路の中で自身の体を清潔にするのは水浴びが一般的で、最悪の場合は濡れ布で体を擦るだけなんてのは当たり前らしい…。


「まぁ、贅沢は言ってられないな。お金のこともあるし」

「どうかしました?」


 隣に座っているイレーナには聞こえていたようで─


「ん、大丈夫だよ」

「お金なら心配いりませんよ」

「え?」


「先ほど仕留めたファントムディア―は、とても珍しい動物でその角や蹄は高値で取引されています」

「え、それって」

「王都についたら換金しましょう。おそらくですが、どこで売っても金貨10枚はくだらないと思います」

「え、すごくない?」


「ふふ、すごいのは信希ですよ」

「そうなの?」

「普通は見つけることなんてできませんから、個体数は多いみたいですけどね。逃げられる報告ばかりですよ」

「そ、それはまた…。でもイレーナが仕留めたからすごいのはイレーナじゃない?」


「謙遜も過ぎれば嫌味ですよ?ワタシが本気になっても見つけるのがやっとでしょう。普通は動物の死角や風下なんて、熟練の狩猟人でも考えるのは難しいですから」

「そ、そっか…。じゃあ良かったのか…?」

「ええ、そうですね」


「金貨って、たしか銀貨が十枚分だったよね?」

「その通りです」

「つまり…」

「この世界では相当な金額ですね」


 ファントムディア―だっけ、すごい動物だったみたい…。狩りをするときの知識は、漫画やアニメで得ただけの知識だったけど、この世界では高度な技術だったみたい。

 この世界に来た時の所持金が銀貨五枚の五千ゴールドだったから、一気に大金を手に入れたことになる。


 みんなの食事が終わり、近くの小川で体を綺麗にしても、時間的に寝るには少し早い時間だったので各々好きな時間を過ごしていた。


 ──。


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