第百二十一話 責任
オレたちがこれから暮らしていく家は、あっという間に出来上がってしまった。
新居のこととレカンドのことで忘れてしまっていたが、オレがここに来ていた理由は、そもそも獣人の孤児たちが隣国から来ているということだった。
「オレは少しイダンカに行ってくるよ」
「……」
夕食の時間に、みんなが集まっているところで切り出してみたものの、なんだかみんなが黙ってしまっている。
「えーっと…」
「何か用事でもあるんですか?」
「ふむ、ワシもイダンカへ戻る必要は無いと思うが」
「信希様理由を窺ってもよろしいですの?」
「ああ、もちろん。まず、イダンカへ向かっていたという孤児たちの安否確認。それから、孤児院の整備と確認もしておこうかなって」
「なるほど」
「信希、一人で行くつもりなのか?」
「ん-、それでも良いと思ってるけど…、どっちにしても一日は掛からないでこっちに戻ってくるだろうし」
「少し心配…ですよね?」
なにやら女性陣はイレーナの言葉で、顔を見合わせて何かを確認しているみたいだ。
「別に危ないこととかは無いと思うけど?」
「「また信希が暴走するかもしれないと心配しているんだ」」
ミィズとロンドゥナは声を合わせて、オレが力を使いすぎることを指摘している。
「そ、そんなことにはならないと思うけど…今回の孤児院の建築だって、かなり力を使わなかったんだよ…?そこまで便利な物とかを作ってるわけでもないし…ねぇ?ユリア?ポミナ?」
「むー。たしかに、この家よりも遥かにこの世界の建物らしいものを建築されておったのじゃ。ですが、その速さは異常そのもの。人外のソレまさに神業と呼ぶにふさわしいものだったのじゃ」
「そうですねっ。大きな家があっという間に出来ていましたから!」
あ、あれ…?
「ほらな?」
「やはり一人にしておくのは危険か」
「そうですね。もしかして、ワタシたちの役目は、信希が暴走しすぎないように止めることが一番の役割なのではないでしょうか?」
「ちょ、ちょっと…?」
オレが何かを言おうとするたびに、彼女たちがギラリとこちらを見てくる。その度に委縮してしまい、思っていることを伝える手段を奪われてしまう。
「なるほど、それには賛成ですじゃ。それに魔力の使いすぎも問題じゃしの」
「そうですね」
「それに信希様ならば、可愛い獣人の子供たちを見て暴走する可能性も考慮する必要がございますの」
「うむうむ」
「え、えっと…」
「つまり、この中で二人。信希の両腕を捕まえておく必要があるということだな」
ロンドゥナの言葉で、この食事の場に電撃が走ったような気がした。
「付いて行けるのは二人ということ…ですか?」
「そうだな。大所帯というわけにもいくまい」
「お、オレの話を…」
「なになに!?信希ともっかいデートできるの!?」
「どうやって決めましょうか…」
「ふふ。決まっておる、オセロの総当たり戦だ。勝利数が多いものが信希と一緒に明日イダンカへ行く権利を獲得できる!」
「「おおっ!!」」
当の本人を完全に置き去りにして、彼女たちのゲーム大会は開かれるみたいだった。
──。
「じゃあ、行ってくるね」
翌朝、オレたちはイダンカへ向けて出発することになった。
昨晩行われたオセロ大会の勝利者は、ロンドゥナとレストだった。
オレの予想では、イレーナやメキオンが強いかなと思っていたのだが、この二人には勝てなかったみたいだ。ロンドゥナは年の功かもしれないが、レストの勝負勘の強さを感じる結果だった。
「はい。いってらっしゃい」
「いってきまーすっ!」
「留守は任せた。それから、家畜と畑のために野菜類の種や苗も買ってこよう」
「お願いします。信希のことも監視よろしくお願いします」
「だ、大丈夫だって…」
なんだか、すっかりオレの話を聞いてくれなくなってしまったのが悲しく感じる。
そうしてオレたちは、以前設置しておいた外壁周りへ転移する魔法具を使ってイダンカへ向かうことになる。
「転移というのは本当にすごいな」
「この便利さを知ると、移動が億劫になるよね…」
「信希っ、門はあっちだよ!」
昨晩の約束通りかは分からないが、既にオレの両腕は二人の女性によって拘束されてしまっている。
「ああ、行こうか」
二人と密着したまま、オレたちは街の中へ入って行く。
門番への身分確認も問題なく進み、簡単に街中へ入ることが出来た。
「まずは王城へ行こう」
「そうだな」
「はーい」
まずは、オレが再びイダンカに来る目的にもなっている、孤児たちの確認から始めることにした。
街の中を、オレが元居た世界で最も嫌っていたリア充全開で進んでいく。
どこかいたたまれない気持ちになりながら、オレは王城までのしばらくの間に、彼女たちと新しい家に必要な物などを話しながら歩いていた。
「思ったよりも早かったな」
「えーと、孤児院は…あっちだったはず」
オレは前来た時に、大臣から案内されていた方へと外壁を伝いながら進む。
ほんの数日の間だが、孤児院への入り口を作る工事が行われているみたいだった。
「すごいな。本当にあっという間に孤児院が完成してる」
「本当だな、ルーファー王の手腕もなかなかのものだ」
「前来た時より綺麗になってるっ!」
そして孤児院の方へ視線を向けると、オレの不安の種だったものが解消されることになる。
「無事に到着しているみたいだな」
「うん。無事みたいで良かったよ」
「結構な人数が居るみたいだな…」
孤児院の近くには馬車三台が停まっていて、獣人の子供たちが沢山周囲を囲んでいた。
「時間的に言えば、本当にベストタイミングだったのかもしれないな…」
「そうだな。レカンド様と出会ってからの時間でここまで来ているということは、本当にあそこに差し掛かるところだったのかもしれないな」
とりあえず、沢山の子供たちの安否が確認できてよかった。
「どうする?信希は何か必要だと思うか?」
「ん-…。正直な話をすると、オレが作った建物だけであの人数を収容するのは無理だと思う…」
「ふむ…」
オレたちが難しい顔をして考え込んでいると、少し離れたところから可愛い声が聞こえてくる。
「信希お兄ちゃーーんっ!!」
「ん…カフィンか!?」
ほんの数日見ていないだけのはずなのに、カフィンの笑っている表情を見るのが何とも懐かしく感じる。
「ちゃんといい子にしてるかぁ?」
「うんっ!カフィンお勉強もお掃除も頑張ってる!」
「そうか、えらいな」
「えへへっ」
ちゃんとオレとの約束通りに、ここでの生活を送っているカフィンの頭を撫でる。
「お家とか狭くない?人数が結構増えてるみたいだけど」
「シスターが『新しい家を用意してもらえる』って言ってた!」
なるほど。オレの力を借りなくても、ちゃんとルーファーたちは集めている孤児たちに合わせて準備を進めているみたいだな。
「そうか。じゃあオレの出番はなさそうだな」
「遊んでいかないの…?」
「そうだね。オレがここに居て目立つわけにはいかないんだ」
「次!次はいつ来るの!?」
ちょっとカフィンに冷たすぎるかとも思ったが、こればかりははっきりしておかないといけないことでもある。
「そうだなぁ…。オレもこれから少し忙しくなるから…」
ちゃんと約束を守れるように、カフィンたちに会いに来る時を決めておこう。
「いつ…?」
「わかった、こうしよう。これから別の国を見に行くんだ。それが一つ終わる度にカフィンに会いに来るよ」
「わかった!待ってる!」
「ああ、ちゃんといい子にしてたらお土産も持ってくるからね」
「分かった!お兄ちゃんにも言っておくね!」
「うん。お勉強頑張ってな?」
カフィンは笑顔で頷くと、孤児院の方へと戻っていく。
「ここでの生活に不便している感じではないな」
「ああ。それに、友達も沢山作れているみたいだな」
「これが信希がやりたかったことなのぉ?」
「そうだね、子供たちが幸せそうならオレも満足だ」
カフィンはこちらに振り返り、友達と思われる女の子たちにこちらを指さして手を振っている。
オレたちも手を振り返し、孤児院をあとにした。
──。
いつもありがとうございます。
もう少しの間、よろしくおねがいします!