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第十二話 襲撃

 これまで安全な国の日本で生活してきたオレであれば、信じられないような感覚を覚えた。

 普段歩きなれていないという理由で済ますことができればよかったが、どちらかと言えば第六感の方が正しい表現かもしれない。

 旅路の先頭は、レストとポミナが進んでいて五歩くらい後ろをシアンと手を繋いだオレが歩いていて、十歩から二十歩あたり後ろを会話をしながらイレーナ、ミィズ、ユリアが歩いてた。

 こういった木の生い茂る林道の中を旅するのは、この世界に来て幾度か経験してきたものの、やはりある程度の『怖さ』のようなものは感じていたので説明のしようがないが、警戒のようなものをしていた自覚はある。それが功を奏したのか、遠くからものすごい勢いで突っ込んでくる『それ』の気配を感じることができた。


「ま、信希…」

「大丈夫か?油断してそうだったから触ってしまった…。イレーナ?怪我はないか?」


 咄嗟の事とはいえ、イレーナをお姫様抱っこする形になってしまっている。彼女は体が小さいことを気にしているようだったが、それをまるで感じさせないほど女性らしい体躯を感じる。だが、オレの腕が「それどころではないだろう」と説教をしてくる。


「だ、大丈夫です…。ありがとうございます」

「あれが何かわかる?」

「あ、あれはシルバーウルフです。かなり強い部類の魔物です」

「片付ける」


 オレはそう彼女に告げるとそっと降ろす。


「ま、信希!やつは危険です!逃げた方が─」


 イレーナが制止させようと声を荒らげるが、すでに信希が聞き入れることは無かった。

 凄まじい勢いで周囲の空気が震えて、思わず目を閉じた瞬間にすでに終わりの時を迎えていた。


「てめぇ…、イレーナに何しようとした」


 この世界本来の考えや常識であれば、絶対にあり得ることのない光景を彼女たちは目の当たりにする。

 シルバーウルフの体長は六メートルを優に超え、信希や彼女たちの人間程度の生物なら丸呑みにするのが当然といった魔物が、その小さな人間に首を掴み上げられてシルバーウルフは身動きすることさえできず強烈な力によってねじ伏せられている。


「どこまで行っても魔物か?ケモミミ様たちの先祖である話を少しイレーナたちから聞いているから、今回はこれで許してやる。これから先ケモミミ様たちを害するならオレの全力を持って種族ごと根絶やしするぞ」


 信希の圧倒的な殺気によって、当初の襲い掛かってきた時の様な勇ましい姿はどこにもなく、動物の本能とも呼べる恐怖を覚えたシルバーウルフは襲撃時よりも速く脱兎の如く逃げていく。


「イレーナ!?無事か?怪我は?オレが触ったところは痛くないか?咄嗟だったんだ、もしかしてヤツが体に触れなかったか!?」


 オレは雑魚の処理を速攻で終わらせてイレーナに駆け寄る。


「だ、大丈夫です…」

「イレーナ?」


──ガバッ!


 オレはその状況に理解するのにどのくらいの時間を使っただろう。あの魔物が襲ってきた時に、体が咄嗟に体が動いたのが嘘だったように硬直してしまう。


「信希、あなたが居なかったら今頃…」

「い、い、い、、、いいい、い、いいい、イレーナさ…ん!?」


 先ほど自分自身の体に怒られた『イレーナの女性らしい体躯』がオレに密着している。オレの胸元に頭を埋めているおかげで目の前にケモミミが…。

 ─だが、そんな雑念はすぐに振りほどかれる。柔らかさや女性らしさを感じていたことを忘れさせるように、彼女の体は恐怖からかふるふると震えている…。

 ハッと我に返る感覚を覚えてすぐに、オレは彼女を抱きしめる。


「すまん、怖かったな。もう少し早く気付ければよかった…」

「油断していました、話に夢中になって…ごめんなさい」


「謝らなくていいよ、イレーナが無事でよかった」

「はい…はい…」


 彼女が喋る度、呼吸をする度に、オレの体に彼女の熱が伝わってくる。だが、オレの中に醜穢な感情はなく、ただその華奢な体を守りたいと思った。


 ──。


「かっかっか!愉快愉快、流石は信希!」

「余も油断していたとはいえ、流石は信希さまじゃな。もう人間のそれではなかった」

「びゅーん!ってすごかったね!」


 先ほどのシルバーウルフの襲撃があったことから、今度は全員がなるべく固まるようにして旅路を進めていた。


「ど、どうしてこんなことに…」

「え?だってイレーナが狙われていたんだよ?あいつはもう来ないかもしれないけど、他の魔物がいるかもしれないでしょ?」

「そ、それはそうですけど…」


「次はレストの順番だったのにぃ」

「まぁまぁ、信希たっての希望なのだから、聞いてあげようじゃないか?」

「はぁーい」


 このメンバーの中では年長なのであろうか、一番の落ち着きを見せるミィズは数日も経たない間にすっかりまとめ役のような感じが染みついている。


「オレもさっきより警戒しているけど、みんなも異変に気付いたら教えてね?」

「「もちろん」」


 シルバーウルフの襲撃後に、怯えていたイレーナが落ち着くにはどのくらいの時間が掛かったのかよく覚えていない。

 ただ、彼女の震えが止まるまで、彼女が「もう大丈夫」と告げて来るまで、そして名残惜しそうに彼女がオレの腕から離れていくのを鮮明に覚えていた。

 そんな彼女を放置出来るわけがなかった。


 イレーナの手はとても柔らかく、これまでに繋がせていただいたケモミミ様とも違い、それぞれの女性たちにそれぞれの良さがあるように、それぞれのケモミミ様たちに多様な魅力を見つけることができた。


「あ、あの信希…」

「ん?」


「近くに居ますから、手は繋がなくても…」

「これはオレのわがままかもしれないけど、狙われてしまったイレーナの一番近くに居たいんだ。もしも、あの時間に合わなかったらって思うとぞっとするんだ…ダメかな?」

「…」


 イレーナはそれ以降黙ってしまった。だけど、繋いだ手は離さずに『きゅっと』握り返してくるその感覚だけで言葉が必要じゃないと、オレもすぐに理解できた。


 本当は手を繋がなくても、彼女たち全員を守ることは出来ると思っていた。これに明確な理由を付けるのは難しいが、シルバーウルフの襲撃を探知した時は『曖昧だった能力』の使い方が、今は完全に自分の意識下で行使することができているからだ。自分たちの周囲にどのくらいの範囲だろうか、1㎞ほどの魔物の動きを探知することができるようになっていた。


 イレーナと手を繋ぎたいのは、オレの欲望の部分でもあるのは否定できないがそれ以上に大丈夫と告げる『イレーナが強がっているように見えた』のが本音だ。そんな彼女を放置することなんてできなかった。


 ──。


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