第百十九話 決意
「ところで、レカンドの目的ってあったりするのか?」
「我の目的か…。天啓があった時点で、我は信希様のお役に立たない限り存在意義がなくなる。信希様の行動であれば、どんなことにでも協力するつもりだ」
一つを聞いたら、すごい情報量の返答が返ってくる…。
「なるほど…。オレはこれから神たちの依頼で、この世界を見て回ることが主な役目になるんだけど…」
「ふむ…。で、あるならば我が各地へ送れば良いのか?」
「あ、あーっと…。オレが転移の魔法具を作れてるから、移動は一瞬で終わるんだよね…?」
「なるほど。それは素晴らしい。流石は御使い様であるな」
レカンドは流石の風格といったところか、転移の魔法具があることを知っても驚いていない様子だった。もしかしたら、神たちよりもすごい存在だったりするのか…?
「オレと一緒に行動してくれている人たちにも、御使いの補助をしてくれる人が幾名かいるんだよね」
「ふむ、白狐人族に鬼人と竜人といったところか。流石だな信希様、必要な存在は既に集まっているように見受けられる」
「もしかして今の状況って、レカンドが必要なかったりするの?」
「いや、そんなことは決してない。天啓が下ったのはつい先日だ。そのことからも、今の信希様に必要な何かを我が補助する必要がある」
ここまで言い切ってくれると逆に心地良いな…。
「必要な物か…」
「今の信希様が一番困っていることはなんだろう?」
「そういえば、これからの事も考えて定住地を探しているところだな」
「なるほど。ではここに居を構えると良い」
「な、なるほど…?」
確かに、この景色を見た時に感動したのは事実だ。
だけど定住地って、こんなに簡単に見つかったり決めたりするものなのか…?
「もしも別に良い所を見つけたのなら、そちらへ行けばよい」
「確かにな…」
あれ…?もしかして決まっちゃった…?
他のみんなを置き去りにして、すごい勢いで進んでいく会話がひと段落した。同時に、みんなのことが気になって彼女たちが居る方を見ると、この景色を見ている者が数名と、オレとレカンドの会話を聞いてる人に分かれていた。
「ど、どうしよう…」
「信希が決めたのなら良いと思いますよ」
まず一番に助けを求めたのはイレーナだ。
だがその返事はいつも通りといった感じで、オレの求めていた回答ではなかった…。
「ま、まずは落ち着こう…。一旦お茶でも飲もう」
──。
「信希ぃ!ココに住むのぉ?」
「ボクもここ気に入ったよ!」
「かっかっか、落ち付くことなんてできなかったみたいだなぁ?」
こういう時の思い切りの悪さはオレの欠点ではないだろうか…。
イダンカでは自分の成長を彼女たちを通して感じていたのが、どこか遠くに行ってしまったような感じがして、自分がそこまで成長出来ていなかったのではないかとすら思う。
「決めたよ。みんな、しばらくここに住もう」
「「おおっ」」
周囲のざわつきなんて、今のオレにはただの雑音に感じた。
この世界に来てからの行動や成長が、無いものになってしまうような感覚が怖かった。
それに、ここまでのお膳立てがあるのにもかかわらず、うじうじ悩んでいるのは自分の理想とする男からは遠いような気がしたから。
「信希はここが気に入ったんですか?」
「ああ。とても綺麗な景色だと思うし、初めてここに住んでいいかもって思ったからね」
「ふふっ、そうなんですね」
イレーナの笑った表情が、ここに決めてよかったなと思わせるには十分なほどに可愛いと感じた。
「ところで信希。建物はどうするつもりだ?」
「うーん。そうだな…全部魔法で作ってもいいけど、魔力が足りない可能性もあるから、ある程度の材料を用意して──」
「なるほど、作るわけだな」
「え?ああ、そうだね?」
「そのまま馬車に住むのかと思っていた。住み心地は最高だからな」
「そういうことね。だったら、馬車の機能と間取りをそのまま家に使うことにしよう」
「まぁ、それは良いですの。新しいお家も良いですけれど、慣れている部屋も捨てがたいですの」
「あー。だったらさ、家を広くする感じでリビングダイニングからつながる部屋を増やそう」
そんな感じで、オレたちがこれから暮らしていくであろう家の計画がどんどんと進んでいく。
──。
「信希様、我はこの上の洞窟に住んでおる。御用がある場合には呼んでいただければすぐに参る」
「ああ。ありがとうね」
レカンドはそう言うと、大きな翼を広げ周囲の空気を揺らしながら飛び立っていった。
「どうしようか…。今日はまだ時間もあるし、家の材料を集めようか」
「わかった。手伝うぞ」
「ワタシは食事の準備をしておきますね?」
「うん、ありがとうね」
「ボクも手伝う!」
みんな遊ぶような感じは無く、家を作るための材料集めを手伝ってくれるみたいだった。
──。
この日は、ほとんどの時間を材料を集めるために費やすことになった。
木材と石を使って家を作ろうと思っているため、かなりの量が必要だったせいもある。それから、家の周囲では畑を作ろうという案が出て、その周囲を囲うための木材も一緒に集めているみたいだった。
大体はオレの魔法で伐採や掘削を行ったので、危険な作業自体も無かった。あとは、魔法で軽くした材料をみんなに運んでもらうといった感じで、この人数で作業しているのが信じられないくらいには必要な材料を集めることが出来た。
「そろそろご飯にしませんか?沢山出来てますよ」
「そうだな。今日はこれくらいにしておこうか」
「「はーーい!」」
──。
いつもありがとうございます!
これからもよろしくお願いします!