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第百十三話 遥かなる年上

 みんなとのデートは順調に進んでいき、残すところはロンドゥナとメキオンだけになっていた。

 二人のことは、一緒に居る時間が短いことに加えて沢山の女性と一緒に居ることで、二人だけで話す機会はもちろんどういった人物なのかも表面上しか知らないと言ってもいいだろう。


「じゃあ、行こうか」

「ああ、今日はよろしく頼む」


 ロンドゥナの知っていることと言えば…、ここにいるメンバーの中で一番と言っていいくらいに強いということ。竜族でとても長命だということ。とても博識でイレーナとは別の知識を沢山持っている。

 正直のところ、これくらいしか分からないと言ってもいい…。


 出かけるにしても、手を繋いでもいいのかどういった距離感で居れば良いのかすらわからない…。


「ロンドゥナは何か入用なものはあるかな?」

「そうだな…。フォレストバジリスクの討伐後には、集落に戻るつもりでいたからな…、できれば替えの服や下着が欲しい所だな」


「なっ…、ごめん気が利かなくて…最初に服屋から行こう?」

「大丈夫だ、気にしないでくれ。生活系の浄化魔法なら使えるからな。でもずっと同じ服装というのもな…?」


「なるほど…それは良かったよ。失礼かもだけど、持ち合わせは?」

「あー。竜族は貨幣というものの概念が無くてな…」


「うん、大丈夫だよ。任せてくれ」

「すまんな」


 ローフリングで出会ったときには、少しだけの手持ちがあったみたいだけど、本当に何日かを凌ぐ程度だったのだろう。

 何気ない会話かも知れないけど、どことなく距離を感じてしまうのはまだ二人の距離が遠いからだろうか。


 自分がロンドゥナとどうなりたいのか、彼女のことが好きなのかすら良く分からない…。

 でも、彼女自身はオレに興味があるみたいだし…。


 ──。


 ぎこちない彼女との距離感に慣れるまでに、少しだけ時間が掛かってしまった。

 服と下着を選びみんなにも贈っているアクセサリーを購入してから、休憩も兼ねて軽食も頼めるカフェに来ていた。


「ロンドゥナ?、失礼かもしれないけど、竜族ってとても長命なんだよね?」

「ああ、そうだな。私なんかは千を超えている」


「は…?」

「どうした?」


 え、千って千歳ってことか?


「千年生きてるってこと?」

「そうなる」


「や、やっべぇ…」


 いやいや、すごいことじゃないか…?これまで気にしてこなかったとはいえ…。

 ここで少しだけ気になったことがある。


「千年も生きてたら、自分の子供もいたりするんじゃないの?」

「いない」


「えぇ?」

「疑っているのか…?」


 いやぁ…、自分が千年生きるなんて想像できないし、こんなことを考えるのも失礼かもしれないが、彼女の見た目となりで恋人がいないとか信じられないんですけど…。


「だって、こんなに綺麗な女性を、千年も放っておくことなんてあるのか?」

「はははっ、嬉しいことを言ってくれるな」


「いやいやいや、本当だって。見た目だけで言うならイレーナやミィズと同年代と言われても信じるだろ?」

「どうだろうな。我らは外見もだが、魔力の質や量を見たりするからな」


「なるほど…魔力とかが弱すぎると結婚できなかったりするわけ…?」

「その通りだ」


 なんともすごい話だ。竜族のことを知れるのと同時に、彼女へ聞きたいことがどんどんと溢れてくる。


「もしかして、ロンドゥナは竜族の中だと弱かったりするの…?」

「弱いから子供がいないかもと?はははっ、違う違う逆だよ」


「逆ってことは…」


 強すぎるということか…?他の男が近づけないほどに、強力な力を持っているということだろうか…。


「集落には私の力を恐れる雄ばかりでな。これまでに恋愛というものをしたこともないんだ」

「そ、それはまた…」


 どういう反応をすればいいんだろう…。

 オレの短い人生で、女性経験が無いとか言っていたのが恥ずかしくなってくるスケールの話だ。

 ここまで来ると少し気になることがある。


「そういえば、ロンドゥナ。その相手がオレでもいいわけ?以前にそんなことを言ってたよね」

「ああ、もちろんだ。私はみんなの後でも構わないからな。これまで特に何かを言うこともなかったが」


 なるほど…、他のみんなと違うなと感じていたのは、彼女がこれまでに経験してきた時間が圧倒的に違うからか。


「それは、オレがロンドゥナの力にも耐えられるってことなの?」

「何を言っているんだ。私なんて、信希の足元にも及ばない」


「え?」

「どうした?」


 たしかにオレは御使い様という役目を与えられていて、この世界でかなりの力を持っているという自覚もある。

 だが、この世界屈指の強い種族の竜族で、その中でも千年も結婚できないほど強力な力を持った彼女が、オレの足元にも及ばないというのは流石に話が飛躍しすぎてないか?


「冗談だよね?」

「本気だ」


「ち、ちなみに!竜族って結構強い種族だよね…?」

「あー。そうだな。個体数が少ないから脅威になることは少ないが、単体で見ればこの世界の中では強い部類だな」


 それってオレが怪物ってことにならないか?


「ちなみに、オレはロンドゥナの恋愛対象になるの…?」

「もちろんだ。だから一緒にいる」


 ……これまで考えてこなかったけど、ロンドゥナって結構大きな問題でも淡々と話をするよな…。


「信希の中だと、私は恋愛対象にならないか…?」


 これまでのギャップからか、いつも通りの彼女の表情がどこか不安そうな気がする。


「そういうことじゃなくて…、色々驚いたって言うか…」

「ならよかった。信希がいなかったら死ぬまで独りかと考えていたところだからな」


 ロンドゥナは冗談っぽく笑うけど、その言葉には彼女がこれまで経験してきた人生の重みを感じた。


「ねぇ、千年以上生きているってどんな感覚なの?」

「そうだなぁ…。信希たちのように、日々の新しいことに驚いたり、新鮮なことがどんどん減っていく感じだろうか?」


 そういう彼女の表情はどこか寂し気で、自分の人生には楽しいと感じられることが少ないのかと思わせる。同時に、これからロンドゥナにとって初体験になることを作れるのは、この世界にオレだけしかいないのではないかと思った。


「もっともっと、ロンドゥナが色々なことを体験出来るように、ロンドゥナでも知らないことをオレが教えてあげるよ」


 この時は、流石の彼女でも自分の元居た世界の知識は知らないだろうから、色々なことを教えてあげられるのではないかと思った。


「そ、それは…。私とも子供を作ってくれるということか…?」

「え」


 これまでに見たことの無いロンドゥナの表情が、オレの思考を加速させていく。

 確かに、聞き取り方によってはとんでもない口説き文句になっていた。

 照れているのか、これまでに崩れることの無かった彼女の頬が赤らんでいるのを見て、自分の言葉を撤回することがどんなことを意味するのかを考えて、自分の背筋が伸びて冷や汗が伝っていくのが分かる。


「……少しずつ、少しずつ進んでいこう?」

「うん…。これからよろしく…」


 ロンドゥナの女の子らしい仕草や言葉遣いを初めて聞いて、自分の初恋を思い出したのをどうすれば否定できるだろう…。

 そんな必要はないか…。年齢がどれだけ離れていても、オレが彼女に惹かれて、彼女がオレのことを好いてくれるなら、必然的にそういう展開になっていくんじゃないだろうか…。色々考える必要なんてない…はず。


 ──。


いつもお読みいただきありがとうございます。


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