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第百十話 お酒はほどほどに

 みんなとのデートを始めてから三日目になる。

 今日は酒豪ポミナとのお出かけだ。


「ポミナは行きたい所がある?」

「お酒が欲しいです…」


「分かった。酒屋を探してみようか」

「はいっ」


 出会った頃のように、少しだけ会話にぎこちなさは残っているものの、言いたいことを素直に言うくらいには距離は近づいているのだろうか。

 ポミナはみんなの中で一番つかみどころがないというか、正直彼女自身がどうしたいのか分からない女性といった感じだった。


 出会った頃の方が積極的で、距離の近づき方も一番早かった気がするだけにオレへの興味が薄れているのかとすら感じてしまう。


「ポミナはさ、結構遠慮がちだったりするのかな?」

「え…?」


 それはオレの近くに居る女性が増えていくにつれて、感じていたことでもある。


「いや、他のみんなに気を使ってたりするのかなって」

「……」


 どこか痛いところを突かれたかのような表情を浮かべているポミナに、大方正解を引き当てたのではないかと感じる。


「はははっ、今日は二人だけだから遠慮なんて必要ないし、みんなもそんなこと気にしてないと思うよ?」

「本当ですか…?」


 ポミナは酔っている時が素なのではないかと思っているが、実際に幾度も酔っていた状況があるにもかかわらず、最初のころのような積極的な行動は見られなくなっていた。


「ポミナはオレのこと嫌い?」

「…」


 返事はしないものの、首をぶんぶんと左右に振っているので、オレの予想している通りになっていく感じがする。


「他のみんなのことが苦手とか?」

「いや、特に…」

「そうだよね、苦手だったら一緒に居るのもきついだろうし…」


 彼女の過去のことについては、それほど詳しく話を聞いているわけではない。

 それから、どうしてそこまでお酒が好きなのかも気になっている。ただただ好きなだけなのかも確認してみたいと思っていたことだ。


「ポミナはどうしてそんなにお酒が好きなの?」

「どうして…でしょう?」


「分かんない感じ?」

「気にしたこと無いです…お酒があれば嫌なことを忘れられるから…?」


「なるほどね」


 ここから先は少し慎重に進めて行く必要があるだろう。

 シアンの時とはわけが違うだろうからな…。お酒の力が必要なほどに嫌なことは数えきれないほどあるだろう。だが、この世界の獣人たちには辛過ぎる過去があったりする。

 ポミナの話を聞くのは、お酒を飲んでいる時の方がいいかもしれないと考えた。


「あ、酒屋ってあそこかな?」

「みたいですっ」


 その店には色々な種類の酒が用意されていた。


「そういえば、酒の種類で好みの物ってある?」

「ぶどう酒が一番好きです」


 なんだか酒を前にしたら、いつもより元気よく会話できているような気がしないか…?

 ぶどう酒というとワインあたりだろうか。


「種類がいっぱいあったり?」

「いや、安くておいしくて一番酔っぱらい易いんです」


「そ、そっか…」


 その酒を好きな理由が完璧におっさんのソレなんだが…。ここではあえて触れないようにしておこう…。


「じゃあ軽く試飲してから、好みのやつをいっぱい買っていこう?」

「いいんですかっ!?」


 彼女の酒好きは、嫌なことを忘れられるだけじゃないと確信する。

 それだけの理由で、ここまで喜ぶことのできる人をオレは見たことが無いからだ。


「その代わり約束がある」

「約束…」


「今日買ったお酒は、ちゃんとオレの前で飲むことね?」

「それだけですか…?」


「こうでもしないと、ポミナは間違いなく飲みすぎるからね?」

「な、なるほど…」


 ちょっぴりアホっぽい所も彼女の魅力の一つだろう。

 自分がどれだけの量を飲んでいるのか、全く理解できていないようだった。


「お酒はほどほどにだよ?」

「わ、わかりました…」


 そうしてオレたちは色々なぶどう酒を試飲してから、互いが気に入った種類を一つずつ大樽で購入することにした。


「こんなにいいんですか…?」

「ああ。みんなも飲むだろうし」


 はっきり言ってしまうと、オレの金銭感覚はおかしくなりつつあった。

 未だに、ローフリングで売却した素材の代金も底を尽きていない。にもかかわらず、次から次にお金が懐に入ってくる。


「それにそろそろ街を出るだろうから、道中でもお酒は必要だろう?」

「ありがとうございますっ」


 ポミナは本当にうれしそうにオレに抱き着いてくる。

 他の女性たちと比べても力強い抱擁に、流石だなと感じてしまうが彼女の体が力強く密着してきて、それどころではなくなってしまいそうになる。


「ああ。喜んでくれたなら何より」


 オレは出来るだけ早く離れてもらうために、彼女の頭を撫でてみる。

 自分の状況に気付いたのか、さっと離れて照れくさそうにしている彼女は、これまでに見たことの無い魅力に包まれていた。


 ちゃんと、みんなを一人ずつの女性として見ると決めてから、それぞれの女性が唯一無二の魅力を持っていることに気付かされていく。


 購入したお酒を居空間収納に入れてから、ポミナと共にアクセサリーを選ぶことにした。

 彼女にはネックレスが魅力的に映えるだろうなと思っていたが、ブレスレットの中でお気に入りのものを見つけたみたいだった。少し残念ではあるが致し方ない…。


 ──。


 デートも終わり宿に停めてある馬車に戻るまでの間、ポミナは少しだけいつもと様子が違っていた。

 先ほどの試飲で軽く酔っているのかかなり積極的な様子で、腕に優しくしがみ付いてきてこちらに体を預けてきている。


「疲れてない?」

「だいじょぶです…」


 酔っぱらっている時とのギャップが、ポミナの女性らしさを際立たせているのでオレもどこか緊張してしまう。

 こういう時の決まり文句ってあるよな…。もしもその言葉を聞いたのなら──


「まさき…?」

「んっ!どうした…?」


 思わずおかしな返事になってしまう。


「わたしは、信希にどんなお礼をすればいいんでしょうか…」

「どういうこと?」


「わたしは信希に貰ってばかりです」


 そういうことか…、彼女なりに考えていることがあるんだろう。


「もしかしたらこれまでに言っているかも知れないけど、オレはみんなと居られるだけで幸せだし満足しているよ?」

「でも…お金は…?」


 彼女の悩みはもっともなのかもしれない。実際、ケモミミを拝ませてもらっているからというだけで貢いでくれる奴なんて、本当に信用できるかも怪しい所だろう。


「じゃあ、ポミナにも何か得意なことでお願いすることがあるかもしれないね?」

「得意なこと…」


 彼女はオレの言葉で、さらに悩んでしまって考え込んでいるみたいだけど、今はこれでいいのかもしれない…。

 みんなのことも、これからどんどん知っていけばいい。


 ──。


いつもありがとうございます!!

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