第十一話 もしかしてモテ期?
あれよあれよと結構な大所帯になっていしまったが、オレとケモミミ様御一行は王都に向けて出発することになった。
やっぱりイレーナの知識はとても豊富で、どんな食料を選べば良いのか、水の質を見分ける方法など助けられることが多かった。
ミィズはともかく、ユリアが従属してから特にイレーナの機嫌が悪くなってしまっている。他のみんなは気にもしてないみたいだけど、オレが居心地が悪い…。
最初の町「ラワカ」から次の街「ツクヨシ」までの旅で、かなり仲良くなれたと思っていたんだが、ミィズの怪我を治療するために「特殊な力」を使ってからというもの、イレーナはずっと機嫌が悪いままだった。
イレーナを頼っている時には、そこまで怒っていないので話しかけるときには注意してみよう…。
「イレーナ?王都まではどのくらいの日数がかかるかな?」
「そうですね…。このペースで進むことができれば8日くらいでしょうかね。最後に山岳地帯があるので、そこを超えるのに2日は掛かると思います」
「山岳地帯…登るのは大変かな?」
「皆さん体力はあるみたいですし、想定内で登っていけると思いますよ?急こう配が多いわけじゃありませんし」
「なるほど、流石だな。ありがとうね」
「い、いえ」
今回の王都までの旅は、ラワカからツクヨシまでの道のりよりも厳しいものになりそうだな。
「ふんふーん♪」
「シアン、御機嫌だね?」
「うんっ!やっとボクの番だからねー」
「そうだね、みんなオレと手を繋いでて嬉しいの?」
「そうだよっ、ボクは信希のこと大好きだからね!」
「うん、ありがとう」
少し恥ずかしいのか、耳がパタパタと揺れているのはとってもかわいい…。そう言っているシアンは、ぎゅっとオレの手を握り直して『ニヒッ』っととても可愛い笑顔を向けてくる。
ツクヨシを出て一日が過ぎているが、出発前に約束した「旅の間に手を繋ぐ」だがシアン、レスト、ポミナがじゃんけんをして、レストが最初、次にポミナ順番は半日ごとに交代になったみたいだ。そして今日の朝からシアンの順番になったというわけで、ルンルン気分になってしまうのもしょうがないのかな?ちなみに、1人ずつ順番に手を繋ぐのは、両手を同時に塞がれると危ないし歩きづらいから、オレの提案したことだ。
「次はレストの番なのぉ」
「昼の休憩が終わったらね」
「はーい」
ポミナだが、ミィズの家からツクヨシに戻るときの積極的な様子から、かなり距離が近くなっていたと思っていたが、やっぱりおとなしい性格は根っからみたいだ。お酒を飲んでいると結構喋るみたいなんだけどね…、まぁでも、とてもかわいいのは間違いないな。
「ワ、ワタシも…」
「ん?イレーナ?」
「いやっ…何もない…」
「そう?」
「ふむ…、イレーナはもっと素直になっても良いと思うがの?」
「余もそう思うのじゃ、信希さまなら絶対に嫌とは言わないのじゃ」
「ちょ、ミィズ!ユリア!それ以上言っちゃやだっ!」
「おうおう、分かっておる」
「ふふふ、その性格を信希さまが理解できると、とても可愛がってもえるはずじゃよ?」
「や、やめてぇ…」
なんだかイレーナが、とても恥ずかしがっているみたいだ。近くでシアンの鼻歌が聞こえているので、ミィズとユリアの会話が聞こえてこないのが残念だ。
「だいじょーぶ?進むよー?」
「はいっ!大丈夫ですっ!」
イレーナはそう言うと、すぐにこちらへと歩き出す。
「ふんふーん♪どうしたんだろーねー?」
「そうだね」
「ボクは信希のこと大好きだよー」
「レストも信希好きなのぉ」
「ふたりともありがとうね?」
これだけ自分の気持ちに素直になれる人物もいるんだな…。
好意を寄せられて嬉しいのは言うまでもないが、相手がケモミミ様だからこんなにもうれしいのか…?これまでに、好意というものをあまり感じてこなかった人生だからこそ、ここまで嬉しく感じているのか、最近疑問に思っている。
「みんなは、どうしてオレが好きなの?」
思わず『そんなこと』を聞いてしまっていた。
「ん-?雰囲気かな?優しいし、そばにいるだけで幸せなのぉ」
「ボクはね、最初はご飯くれたからだったけど、今は信希の近くにずっと居たいと思ってるよっ」
「わたしも、優しいところが好きです…」
「みんなありがとう。オレもみんなのこと好きだよ」
少しだけ照れくさいけど、ケモミミ様からの好意には素直に答えたい。同志たちからも恨まれないため…。いや素直に自分自身がうれしいからかな。
「ほれほれイレーナ。早速チャンスじゃよ」
「信希さまは『ケモミミ様』にご執心の様だし押してみるのが良いのじゃ。若干だがそなたに気を使っているようじゃしの」
「お願いだから二人ともやめて…まだ心の準備が…」
「早よぅせんとワシらが先にもらってしまうぞ?」
「余は既に信希さまの奴隷じゃからの、望まれるならば捧げるつもりじゃ」
「う、うぅ…」
「初のぅ!まぁ、それも悪くない。だが後悔だけはしないようにな」
「だ、だからっ!」
「ミィズさん、それくらいで良いではないか。無理やりくっ付けるものでもあるまい」
「それもそうじゃな」
「──危ないぞっ!イレーナ!!」
「えっ─」
それは一瞬の出来ことだった。
林道を進んでいる途中に、木々の隙間が少し開けてきたところで『それ』はイレーナに向かって突撃してきた。




