第百三話 研究と加工
食材の買い出しはすぐに終わった。
せっかく作ったのにあまり使われていなかった冷蔵庫の中には、いったい何日分になるのかも分からないくらいの食材が入っている。
色々な種類の食材を買ってきたので、多くの料理を楽しむことが出来そうだった。
「じゃあみんな、オレは少しだけやることがあるから自室にいるね?」
「「はーい」」
本当に一つのゲームで良く飽きないなと感心するくらいになった。
みんなはオセロに夢中だったので、オレも自分のやりたいことをするために自分の部屋に向かっていく。
「信希様、何か必要なものはありますか?」
「ああ、ユフィにはオレの近くに居るように言っていたね」
「主の言うことは守ります」
「ん-…、じゃあお茶を頼もうかな。もちろんユフィの分もね?」
「かしこまりました」
少しだけは信用していいのかもしれない。
決して油断しているわけではない。ここからもユフィの気配を辿るために魔法を使っているし、おかしな行動をしないか確認するためにもある程度泳がせるのも必要だと思った。
「さぁ、上手く行くといいんだけど…」
ヨーファとカフィンに渡すために買っていたアクセサリーを改造したい。
ルーファー王のことを信頼できなくなってから、オレの考えは子供たちに何かあったらこの世界を滅ぼしてしまうかもしれないと思っていた。
そこで、最低限オレが来るまでの時間を稼ぐために必要なものを、子供たちに渡しておこうと考えた。
「守るものと生存確認かな…」
もしもあの王様が手を出すとすれば、間違いなくこの二人だろう。オレの近くで生活して、オレが一番愛着を持っているのがこの二人だから…。
やり方はいろいろあるだろう。オレの力を利用するために、彼女たちのことをどうにかしようとすれば、自分や国のために強力な力を使えることになるからな。
オレは魔法具の作成に集中していく。
──。
結果から言えば、問題なく魔法具付きのアクセサリーを作ることが出来た。
ヨーファとカフィンはまだ魔法具を使うのも難しいだろうから、常時発動型の魔法具を作った。
先ほど購入してきたアクセサリーのアクセントになっていた部分に、魔法具用の水晶を圧縮して小さく宝石のような感じに加工してはめ込んでみた。
金属の加工も魔法を使って挑戦してみたら、思っていたよりも簡単に形になったので助かった。
肝心の魔法具には、発動に問題ないだけの魔力と、着用者を外傷から守るための魔法、それから使用者のバイタルが正常かをオレに知らせる魔法を組み込んでみた。
一番大切な外傷から守る魔法は、実際に自分で着用して実験してみたので効果は大丈夫そうだった。
「ふぅ…。何とかできたな」
「信希様、お茶の用意が出来ています」
「ああ、ありがとう。すっかり忘れて作業しちゃってた」
「集中しておられたので、待機しておりました」
結構な時間経過していたはず…、ユフィは何も言わずに後ろで待っていたみたいだ。
ぬるくなってしまっていると思ったけどまだ温かいお茶を飲みながら、神様たちと約束した魔法具も無理のない範囲で作っていく。
「信希様、これらは?」
「あー。二人に渡せるプレゼントを作ってたんだ」
「作る…?すでに完成しているようにも思いますが」
失敗したかも…、ユフィに知られると二人に魔法具を持たせていることがばれてしまう。
「ちょっとしたお守りみたいなものだよ。本当は魔法具を付けられるんじゃないかと思ったんだけど、難しかったみたい…。加工した水晶をはめ込んだだけだけど、お守りにはなるかなって」
「なるほど、信希様はお優しいですね」
「そんなことないよ。今みたいに出来ないことばかりだし、まだまだ力不足を実感させられるよ」
「そうですか…」
特に難しいことは無かったのかもしれない。
一応、誤魔化すことは出来た。これがイレーナやユリア相手だったらバレてしまっていたかもしれないけど、ユフィはオレのことをよく知らないだろうからな。
「夕飯にはまだ早いかな?」
「そうですね…、まだ夕方前なのでもう少し時間はあるかと思います」
「じゃあ、もう少しだけ魔法具を作ってるね」
「かしこまりました」
オレは再び、神様たちと約束した魔法具を作っていく。
慣れてきてはいるが、イメージを鮮明にするのに時間が掛かってしまう。それに魔力も別の魔法具から抽出する必要があるから、初めて作った時よりも複雑な工程になっている分大変といった感じだ。
それから夕飯の用意をするまでの間、オレはずっと魔法具を作っていた。
──。
「はい、二人とも。これはオレからのプレゼントだよ」
「わぁっ」
「これ貰っていいの?」
「ああ。二人とのお別れは寂しいから、何か形のある物を渡しておきたいって思ってね」
「カフィンずっと大事にする!」
「オレもずっとつける!」
「うん、二人が肌身離さず付けてくれているとオレも嬉しいな」
「「うんっ!」」
少しだけ照れくさいと感じてはいるけど、二人を安全に成長させるためには必要なことだと思った。
二人には知られていなくてもいい、これはオレが二人に出来る最低限だけど最高のプレゼントではないだろうか。
「二人ともよかったですね、ステキな贈り物です」
「うんっ」
イレーナの言葉に、付けてくれたネックレスを自慢げに見せつけている。
少しだけ不思議そうな表情をしているイレーナに、オレは違和感を覚えた。
「どうかした?」
「い、いや…」
そう言うとイレーナはオレの近くに寄ってくる。
「お二人にあげたものに魔法具を付けましたか?」
「分かるの?」
びっくりした。小さな水晶を付けてはいるが、それが魔法具ということは鑑定したりしないと分からないはずだが…。
「そうかなと思っただけです。あんな加工されたものは珍しいですから」
「そっか…」
内緒なことなので小声で話してくれたのは助かる。
けど、この世界の細工の技術は思ったよりも低いのかもしれないと思ってしまった。
選んでいる時にはそんなことを気にしないで目当てのものを探していたからな…。イレーナが付いてきてくれていて、ちゃんと相談できていればこんなことにならなかったのに…。
「二人がつけるには高価すぎるよね?大丈夫かな」
「おそらく大丈夫だと思いますよ?二人と信希のことは国王も知っていますし、御使いである信希が高価な贈り物をするというのはおかしなことではありませんし…。鑑定の魔法具を渡しているのが気になりますが…わざわざ鑑定することは無いと思います」
「なら良かった…」
オレはホッと胸をなでおろす。
自分の迂闊さに、自分で驚いてしまう。確かに鑑定の魔法具を使われたら一発でアウトだ…。バレてしまっても抑止力にはなるか…?
イレーナはその様子をまじまじと見つめていて、オレの考えていることを理解しているのか、微笑みながらオレのことを見つめていた。
「二人が立派に育ってくれるといいですね」
「ああ、これからもオレが出来ることは協力していくつもりだしな」
「なら心配いりませんね?」
少しだけいたずらっぽく笑うイレーナに、完全に見透かされるようになってしまったと、嬉しいような悲しいような気持になってしまう。
そうしてオレは、ヨーファとカフィンにしてあげられることは全部して、これが本当に一緒に居られる最後なんだと実感が込み上げてきてちょっとだけ寂しくなってしまう。
──。
いつもありがとうございます!
これからも頑張ります。
よろしくお願いします。