第百話 子供たちとお出かけⅠ
ヨーファとカフィンを王城へと連れて行く前に、思いで作りも兼ねて二人と出かけることにした。
買い物をして二人にプレゼントを作るのが自分の目的で、ヨーファとカフィンには少しでも楽しんでもらえたら嬉しいと思っている。
ユフィは一緒に連れて行かないとみんなが心配なので、同行することになる。
他にも行きたい人が居ないか確認してみよう。
「他には誰か一緒にいく?」
「ん-そうですね…。大人数で行動すると動きにくいでしょうし、ワタシは待ってますよ?」
「わたくしも、自分が目立たないようにするために行動は控えておきますの」
メキオンはそう言っているが、王族ともなればそれくらいの配慮をして生活しないといけないのだろうか…。一緒にいるだけでも、その生活が大変なのがよくわかる。
「了解。他のみんなは?」
いまだ飽きることなくオセロを楽しんでいる彼女たちにも聞いてみる。
「わたし行きたいです」
「うん。じゃあポミナと──」
「余が一緒にいきますのじゃ」
「おっけー」
他のみんなは返事もしないほどに集中しているみたいだし、出かけたかったらまた今度にでも一緒に行こうと思う。
「じゃあ、まず最初に王城に行こう」
「信希様、何か御用ですか?」
「ああ、昨日すっかり忘れてたけど居住用の建物を作るのを忘れていたなって」
「かしこまりました、では馬車の準備を致しますのでお待ちを」
「いやいや、街の中を歩きながら行こう?どんなお店があるかも確認しておきたいし」
「かしこまりました」
「じゃあ、みんな行こうか。ヨーファとカフィンは疲れたら言ってな?おんぶしてあげるからね」
「「うんっ!」」
まずは王城まで行くことになるけど、さっさと用事を済ませて子供たちと遊ぼう。
昨日怪しまれてしまったから、今日は一度宿の中に入ることを忘れないように出かけることにした。
「ヨーファとカフィンは何かしたいことある?お城の用事が終わったら、オレの用事と食事はあるけど」
「ん-。何がいいかなぁー」
「オレは服が欲しい!」
「じゃあ、二人ともに服を買ってあげよう」
「ありがと!」
「ん-カフィンは…」
「ゆっくり考えていいよ。歩きながら考えよう」
城まで歩きながら、カフィンは色々なお店を見つめて何かを探しているみたいだった。
もちろん、転んだりはぐれたりしないようにオレと手を繋いでいるので安心だ。ヨーファはオレの後ろでユリアとポミナと並んで歩いていた。
──。
「ここがお城っ!?」
「そうだね、カフィンたちはここでお勉強することになるかな」
「おおぉ!」
昨日の不安そうな表情が嘘だったみたいに、カフィンはこれからの事に胸を膨らませているようだ。
「ユフィ、悪いけど取り次いでくれるかな?オレたちは門前で待機しててもいいから」
「かしこまりました、客間まではすぐにご案内できるのでご一緒にどうぞ」
「ん、ありがとう」
ユフィが門番に少しだけ話をしただけで、あっさりと城の中に入ることが出来てしまった。アポイントも取らずいきなり来たのにもかかわらず対応できるのは、昨日の出来事を知っているからだろうか。
そのままユフィに案内されるまま、オレたちは王城の中へ進んでいきあっという間に客間まで進んだ。
「まさき、ここはすごいねっ。大きくてキラキラしてる!」
「そうだね、カフィンは初めて見るものばかり?」
「うんっ」
キョロキョロと辺りを確認しているカフィンは、城や装飾に興味があるんだろうか。普通の反応はこういったものなのかもな。
ヨーファは少しだけ緊張しているような感じで、そわそわと落ち着かない様子だった。
ユフィが部屋を出て行ってから、すぐにお茶やお菓子が運ばれてきたので、それらを頂きながら話しているとすぐに大臣がやってきた。
「信希様、お越しいただきありがとうございます」
「突然ごめんね。昨日話していた孤児たち用の住居を作るのを忘れていたと思ってね」
「なるほど、建設予定の相談でしたか。すでに何名かの孤児たちが発見されていますので、城の中の部屋で広場を利用して寝泊りは出来るようにしてはいますが、出来るだけ早く住居を確保したいと思っておりました」
「そうか…、じゃあタイミングは良かったな。このあとすぐに建てちゃうよ」
「…?と、言いますと?」
「あー。御使いとやらの能力みたいなもので、そのくらいならすぐに作ることが出来るから、建てても良い所を教えてもらえる?」
「な、なんと…かしこまりました。王より采配は任されておりますので、すぐに案内できます」
「よし、じゃあ行こう。みんなはここで待っててもいいよ?」
「信希さま、みんなで一緒に行きたいのじゃ」
ユリアがにっこりと笑いオレを見つめている。普段見せない表情に、少し動揺したが彼女の気づかいはもっともなものだとすぐに理解した。
オレがユフィのことを疑っている話を、イレーナから聞いたりしていたんだろう。
「そうだね。じゃあみんなで行こう」
「「うんっ!」」
大臣はすぐに、準備できているという建設予定地まで案内をしてくれた。
「この辺りを予定しているのですが、いかがでしょうか問題があればすぐに対処するので──」
「大丈夫かな。すぐに取り掛かるよ」
準備されていた広場は、城の外壁を出てすぐの場所だった。
正門の近くではなく正門から少し回ったところの、城内から外に出る小さな入口の近くが使うことのできる広場として選ばれたようだった。
「何かご用意した方がいいものなどありましたら申し付けください」
「ん-。寝具とかは用意できるかな?流石に全部となると厳しいかもしれない」
魔力を全部使うわけにはいかないからな。魔力を込めている魔法具も持ってはいるが、出来ることなら使わないようにしたい。
「かしこまりました。寝具の用意はこちらで手配いたします」
「それから、トイレとかはどうなってる?」
「そうですね…。城の方は外部まで井戸の水を使い流して、そこから汲み上げ肥料にしているといった感じですね」
「なるほど。そっちに合流させることは出来るのかな?」
「難しいと思います。ですが、ここから匂いをさせるわけにはいきませんし…」
「なるほど、ここに井戸があればいいわけね。どのくらいまで流せばいいか教えてくれる?」
「城から離れたあちらの方まで行けば問題ないかと思います」
大臣が指さしているのは、城から最も離れているところだった。
「わかったよ。井戸が出るか確認してから始めるか」
「そんなに簡単に出来るものなのですか…?」
「多分?任せておいて」
「かしこまりました…」
不安そうな表情を浮かべている大臣は、オレの言葉を疑いながらも自分の役割を果たすために城の中へ戻っていった。
「寝具の手配を頼んだのは正解だったかもな」
「あまり信希さまの力を見られるわけにはいかないのじゃ」
「そうだよね、心配してくれてありがとう」
ユリアは、オレが力を使いすぎていることを心配してくれているみたいだった。
ローフリングでのこともあるし、信用が無いから疑われているのかもしれないが…。
──。
「うん、井戸は作れそうだ」
井戸を作るには、八メートル程度の深さを掘ると聞いたことがある。
便利に作りすぎるわけにもいかないから、この世界の常識範囲内で井戸を作っていく。
直径は七十センチほどで、深さは十メートルの穴を掘る。
穴の周囲に石を積み立てていき、穴が崩れないようにしていく。井戸が完成する頃には、穴の中に水が溜まっているのが確認できた。
最後に、簡易的ではあるが屋根と汲み上げようの滑車を付けて完成としておく。
「次は建物か…」
実際かなりの魔力が必要になるだろうから、ある程度の資材を準備したいところだ。現物の創造を使ってもいいけど、これまでの経験から言えば物質を想像するのはかなり魔力を使う。
これから作ろうとしている建物の規模だったら、ある程度の資材を用意しておかないと確実に魔力が枯渇するだろう。
「木材の確保は森まで行かないといけないから大変だな」
「信希様、木材であれば少しならば用意できると思われます。資材を扱っている商会へ連絡いたしましょうか?」
「そうだね、それほど大量には必要ないだろうけど…。伐採後の材料で丸太を四十本くらいって用意できるかな?」
「すぐに確認してまいります。用意できそうな量をすぐに運ばせます」
「うん、ありがとう」
これはもう少しだけ時間が掛かるかな…。思っていたよりも大変だったかもしれないと後悔しつつ、待ってくれているみんなのためにすぐに行動していく。
「石とか砂で外壁を作っていくか」
それこそ魔法の使いどころだな。
材料の加工であれば問題ないから、井戸で掘りだした土砂と広場の全体を少し掘り材料を作ろう。
──。
程なくして、建物の外壁部分を作ることが出来た。
「すごいっ!あっという間におうちができた!」
「まさき兄ちゃんってこんなこともできるのか!?」
「はいはい。大人しくしていような?信希さまは集中しておるのじゃ」
「「はーい」」
ユリアが子供たちの相手をしてくれているので、オレは作業に集中することが出来てかなり捗っている。
もう少しで完成する建物は、外壁と間仕切りの設置が完了している。
自分が思っていたよりも魔力を使っていないみたいで、体調も問題ないといった感じだ。
そのまま続いて排水用の水路も作っていく。
深さを二メートル程度掘り、そこから指定されていた場所まで地下を掘り進めた。地中に水分がしみ込んでいかないように、石を加工して水路を補強していく。
幅を広げ過ぎると流れなかったり問題が生じるかもしれないので、船底のような形になるように工夫してみた。
水をテストで流してみたが、問題なさそうだったのでとりあえずはこれで良しとしておこう。
ここまでの作業で出た土砂のあまりの中に、粘土のようなものも見つけたので、陶器を作れるか試してみる。便器を作れたらいいなと思っている。
「思ったよりもいい感じに仕上がったな」
もう魔法を使うのも慣れたものだ。イメージを近くするのにも時間が掛からなくなってきている。
完成した便器は、オレたちが生活している馬車に取り付いけている物よりも完成度は低いものの、この世界だったら高い水準になることは間違いないだろう。
「信希様、お待たせいたしました」
「おお、ありがとう」
そうこうしているうちにユフィが戻って来て、これから使う木材を運んできてくれた。
手配が早いのは助かるが、商会の人たちには迷惑をかけているようで心苦しい…。
「準備出来るものは品質の低いものが多かったのですが、問題ありませんか…?」
「うん、問題ないよ。このくらいだったらオレでどうにか出来ると思う」
そのままの流れで、内装を仕上げていく。
木材部分で仕上げるのは、床やベッドといったところだ。食堂なんかも作れたらいいんだろうけど、それは追々ということで問題ないだろう。
王様にもある程度助けてもらわないとな、持ちつ持たれつといったところから外れてしまいそうだ。
「もうこれほど完成しているのですね…」
「まぁ、魔法も使ってるしこんなものじゃない?」
ユフィは驚いているが、今はさっさと終わらせて子供たちと遊びたい気持ちなので、作業を続けていく。
今日から、ここで子供たちが生活できるようにするのが目的なので、トイレと寝る場所の確保と部屋の区切りを終わらせよう。
「カフィンたちはここに住むの?」
「そうなるのじゃ。信希さまはカフィンたちのために一生懸命じゃな?」
「うん!まさきすごいの!」
そこまで広い空間を用意することは出来なかったけど、四人部屋を十二部屋作った。
一応これで四十八名までは収容できることになる。
寝具は大臣が用意してくれているので、オレは二段ベッドまで作成しておく。ユフィが持ってきてくれた木材を加工して、各部屋に設置していった。
木材はまだまだ余裕があったので、そのまま屋根も作った。雨の日でも井戸まで濡れないで行けるように、入口の玄関から通じる屋根も作っておいた。
かなり魔力を使ってきている感覚が出来てたところで、ひとまずは生活できるようになったので、とりあえずはこれで大丈夫だろう。
そんな感じで初日の作業はこれくらいで終わることにした。
「よし、終わったから、みんなで買い物に行こうか」
「「はーい」」
後のことは大臣に任せておけば問題ないだろう。トイレの使い方や必要なものは、ユフィから大臣に伝えておくようにお願いした。
作業が終わり、みんなで街に行こうとしている時にはユフィは戻って来ていた。本当に仕事が早いと思う…。
二時間くらいは掛かっていたかもしれない作業が終わり、子供たちが退屈していないか心配だったが、ユリアが居てくれたおかげで助かった。ポミナも意外に子供たちと遊んでいたので、オレが居ない間に仲良くなっていたのかもしれない。
そして、王城を後にして再び街の中に戻っていく。
──。
いつもお読みいただきありがとうございます。
いよいよというか、大台の100話まで到達しました。
早かったような長かったようなそんな感覚ですが、当初はここまでの長編になるつもりではなかったのです。
もう少し短くまとまる予定だったのにもかかわらず、あれよあれよのうちにここまで執筆していました。
もう少しだけものが辺りが続くので、完結までお付き合いいただけると幸いです。
これからも更新頑張っていきますので、宜しくお願い致します。
少しだけ1話の文量が多くなりました。ご勘弁を…。