三題噺(栗、牛、トランペット)
牛君はぴかぴかのトランペットを体の横に転がし昼寝をしていました。牧場はどこまでも続いており、どこかに柵があって自分が閉じ込められていることなんて忘れてしまいそうです。さっきまで食料だった青々と茂った芝生が今度は牛君のベッドになるのでした。
トランペットはとってもきれいに手入れされていて、さっきも自分の油を塗り込んで滑らかにぴかぴかにしました。触れると爪のあとがつくけれどまた拭いて吹けばいいさ。
ちょうど昼下がり。柔らかな風が牛君のほおや鼻を撫でてゆき少しこそばゆい気持ちになる。
すぐ頭上に立つ栗の木はちょうどいい日陰になっていて、ときおり風に揺れる葉っぱから差し込む光にまぶしそうに目を細めてみる。
「今日もやわらかい日だねトランペット君。ぼくの体は太陽とこの草木のおかげですっかりやわらかくなってしまったよ」
トランペットは答えない。ただその身に光る真鍮の輝きが全てを肯定しているように見えるのでした。
とそのときぽろりとうっそうとした木々の上から一つの栗が落ちてきました。
このままでは牛君の頭に刺さってしまいそうです。何とかかわそうとするのですが不意の出来事に牛君は体がこわばり一歩も動けなくなってしまっいました。
まっさかさまに落ちてくるそれをとうとう牛君はかわしきれず、それは頭の上に刺さってしまいました。
「うわぁ、何をするんだい?ぼくの体がびっくりして固くなってしまったらどうするんだい?ぼくを育ててくれているご主人に申し訳ないよ」
頭に刺さったままの栗を払いのけると海底に沈んでいるウニと同じようなフォルムの彼はいいました。
「ねぇ僕にもトランペットを吹かせておくれよ」
牛君が目をまるくする。
「なにをいっているんだいそんなにとげとげじゃトランペットなんてふけないぞ。もうそんなもの脱いでしまいなよ」
「ふんだわかってらい。僕がこれを脱いだら君は僕を食べてしまうつもりなんだろう?その手にはのらないよ」
「なんだって。君を食べる?僕が食べるのはそこらじゅうに生えている緑の葉っぱやつくしよりもピンとたったこの芝生の草たちさ、君を食べても僕の体は固くなってしまうだけさ」
「ふうん?まてよじゃあその草木たちは何を食べて生きているんだい?」
「さぁ?ぼくが草木を食べるように草木たちも何かをたべているんだろうね」
そんなことを話しているとご主人がこちらにゆっくりと歩いてきていた。逆光でご主人の顔は見えないが今日もにこにこ笑っているんだろうな。
ぴかぴかに磨き上げられたトランペットがご主人の顔をうつすのだった。