92 魔神覚醒・神衣を纏え!
ロキ(古ノルド語:Loki)は、北欧神話に登場する悪戯好きの神とされる。その名は『閉ざす者』『終わらせる者』の意。神々の敵であるヨトゥンの血を引いている。巨人の血を引きながらもオーディンの義兄弟となってアースガルズに住み、オーディンやトールと共に旅に出ることもあった。変身術を得意とし、男神であるが時に女性にも変化する。自身が変身するだけでなく、他者に呪文をかけて強制的に変身させたこともある。 美しい顔を持っているが、邪悪な気質で気が変わりやすい。狡猾さでは誰にも引けを取らず、よく嘘をつく。『空中や海上を走れる靴』(『陸も海も走れる靴』または『空飛ぶ靴』とも言われる)を持っている。
元は火を神格化した存在だったと考えられており、ワーグナーの楽劇『ニーベルングの指環』に登場するローゲ(元の神話におけるロキのポジションに当たる神)はその点が強調されている。ロキは武器を一切身に着けていないが、(あえて言うなら毒舌が武器)レーヴァティンという魔剣を作ったといわれている。ロキはニヴルヘイムの門の前でルーン文字を刀身に刻み込み、魔剣に仕立て上げた。どういうわけでロキがこの剣を手放したのかは謎だが、巨人スルトの妻シンモラの手にわたり、レーギャルンという大きな箱にしまい込まれてしまう。この剣が活躍した場面は一つもない。一説によるとスルトが持っている巨大な炎の剣がこのレーヴァティンだと言われるが、スルトは世界が始まった時から剣を持っていたし、ロキが誕生したのはずっと後である。
更に巨人の王ウートガルザ・ロキおよびその宮殿で相まみえるロギとは、三者同時に登場する神話が残っているので別人のようだが混同されることもあったらしく、サクソ・グラマティクスの『デンマーク人の事績』にはロキのように地下に縛られ幽閉されているウートガルザ・ロキの話がある。
だが、こういう記述もある。ロキは神々の国アースガルドに住んでいるが、本来神ではない。彼はファールヴァウティとラウフェイという巨人の子で、正真正銘巨人族。『ロキ』とは古い言葉で『火』を表し、彼は火の巨人ということになる。
巨人の子なのに、彼は「神々の一員になりたい」とアースガルドへやってきて猛烈な自己アピール。そしてまたどういうわけかオーディンに大いに気に入られて、うまうまとアースガルドの仲間入りをした。
オーディンがどうしてロキを気に入ったのかはわからないが、「自分と同じ血を感じた」と記述がある。オーディンは半分巨人の血が流れているので、そのことを意味しているのかもしれない。オーディンはロキを自分の義兄弟にし、ロキが同じ席にいなければ麦酒も飲まないと言ったらしい。
巨人でありながら神の一員となったロキ。しかし彼は根っからのいたずら者で、しかも抜け目のない頭脳の持ち主。平和な毎日は性に合わず、年がら年中騒動を起こしては喜ぶ。年月が経つにつれ、ロキの性格は徐々に変化していく。初めはお茶目ないたずらをしていたロキが、だんだんと根暗で陰湿な悪だくみをするようになる。これは、彼の中に徐々に神々に対する不満が募っていった結果だと思われ、もともと巨人族であるロキは、結局アースガルドには溶け込めず、浮いた存在だったのだろう。
ついにロキは光の神バルドルを殺害するというショッキングな事件を引き落こす。そして神々が居並ぶ席に乗り込んで、全ての神々を口を極めて罵る。この場面は『ロキの口論』と呼ばれ、北欧神話でももっとも有名な話の一つだ。
神々はロキを捕縛して洞窟に閉じ籠めるが、最後、神々の滅亡の時『ラグナロク』が訪れるとき、ロキは解放され、巨人たちを引き連れて神々を滅ぼすのだ。ロキの性格は極めて複雑。ハンサムで顔は美しいが、気まぐれで高慢、大変ずる賢く、プライドの塊のような人格である。いたずら好きで毒舌家。トラブルを引き起こすのが何よりの楽しみである。ロキには様々な特技があり、動物に変身でき、男にも女にもなれ、子供も産めるが動物の子である。超絶な毒舌など、こういう特技を使い色々とやらかす。そして、男にも女にもなるため、あるときは父にも母になるという異常な事態になる。
女巨人アングルボザとの間にはフェンリルにミドガルズオルム、更に頭から腰までは普通の女性だが、腰から下は腐り果てた姿のヘル。一目で「ヤバい」と思ったオーディンは、ヘルを冥界に追放。そのままヘルは冥界を治める女王となる。更に馬のスヴァディルファリとの間に産まれた仔馬のスレイプニル。八本足で、凄まじく速く走る。ロキはスレイプニルをオーディンに献上している。
北欧神話の真の主役はロキとまで言われる程の存在である。
そのロキ、ローズルキーと対峙するエリックとユズリハ。神衣はないが、エリックの体からは青い炎の様な神気、ユズリハからは太陽の様な橙色の神気が立ち昇っている。
「俺様の身を纏え! 魔神衣よ!」
炎の様な赤くも禍々しい魔神衣が装着される。火の巨人に相応しい魔神衣だな。そして燃え盛る炎の様な大剣の魔神器レーヴァテイン。最下層の空間の温度が上昇していくのがわかる。
「へっ、三流の魔神如きがほざくんじゃねーよ」
「口だけは達者なようだけど、さっさと実力を見せてみなさいよ。雑魚魔神」
フラガラッハとグングニルを構える二人。こいつらの方がよっぽど口が悪い。ロキの毒舌は有名だが、口では負けないだろう。
「口だけは達者なガキ共め。ならば味わえ、レーヴァテインの一撃を!」
ガキィイイイン!
「おっと」
フラガラッハでその一撃をいなすエリック。
「チッ! 中々やるじゃねーか」
「その程度か、師匠の大剣捌きに比べたらぬるすぎる。こっちからいくぜ! マルクスリオ流大剣スキル、フレイム・ブラスター!!!」
ゴオオオオオオオゥッ!!!
振り下ろした大剣から炎のレーザーの様な剣閃が発射される!
「ぐおおおおおおおっ!?」
レーヴァテインを盾の様にして光線を防御するローズルキー、だがこの隙をユズリハが見逃すはずがない!
「氷嵐融合! 合成魔法・|ホ―ロドニー・スメルチ《冷気の竜巻》!!!」
ドゴアアアアアッ!!!
隙だらけのローズルキーを冷気の竜巻が飲み込む。
ガシャアアアンッ!! ドゴーンッ!!!
迷宮の壁にめり込む程の威力で吹き飛ばされ、そのまま地面に頭から落下したローズルキー。あの凍気には絶対零度を織り交ぜていたのか。炎と冷気の温度差で魔神衣の端々が多少だが砕けた。
「ぐはっ……!? 何だ貴様らのその力は……!? 只の人間にハーフエルフだと思っていれば、神の流派に融合魔法だと……?!」
「名乗るのが遅れたな、俺はエリック。軍神マルクスリオの神格を受け継いだ人間だ!」
「私はユズリハ。愛と戦いの女神アザナーシャの神格を受け継ぎしハーフエルフよ! 神衣がなくともアンタ程度には負けないわ」
「軍神と戦女神だと……?! クカカカッ! 道理で普通ではない訳だ。面白い、ならば見せてやろう『炎と終焉を司る魔神』の力を!」
立ち上がり、神気を全力で放つローズルキー。結界を張っているこちらにまで熱が伝わって来る。凄まじい炎の神気だ。
「さあ受けろ! 真の炎を! |フュール・メイルシュトローム《極炎の巨大渦巻》!!!」
ドゴアアアアアアアアアアッ!!!
ローズルキーの両手から放たれた、極大の炎の竜巻が二人を飲み込んだ!
「「うあああああああああああ!!!」」
「エリック、ユズリハー!!!」
ドシャア!!!
神気の鎧装だけでは防ぎ切れなかった技の威力。地面に落ちた二人の装備が炎でボロボロになる。
「う……、ぐはっ!」
「がはっ! ……う、く……!」
ニヤニヤとした薄ら笑いをあげて、火傷だらけで倒れた二人をローズルキーが見下ろし勝ち誇る。
「クククカカッ! 所詮は人族、神格があろうと神衣を纏えない者が俺様に勝てるはずがねーだろうが!!!」
ドゴオオオオ!!!
「うおおおおおおおお!!! 許さん!!!」
俺の体から神気の渦が立ち昇る。レベル差があっても神衣による耐性がなくては、神の相手はやはり厳しかった。俺のミスだ、こいつは俺が粉砕してやる!
ドンッ!!! ズザッ!
ローズルキーの目の前に飛び出す。
「な、何だ貴様は!? それに何という強大な神気! おのれ、死ね! |フュール・メイルシュトローム《極炎の巨大渦巻》!!!」
「スペル・イーター!」
展開した巨大な魔法陣にローズルキーの神気と魔力の炎の渦が飲み込まれた。
シュウゥゥゥゥ……
「な、なにィ! 俺様の最大の技を飲み込んで吸収した?!」
「死ね! アストラリア流格闘術・奥義」
ズンッ! メキメキィッ!!! ズガアアアアアアン!!!
「アルティメット・ヘヴン!」
ドゴオオオオ!!! ダンッ!!!
鳩尾に全闘気と神気で強化した左拳で天井に撃ち上げる。迷宮の階層を突き破って、ローズルキーは頭から地面に落下した。左拳にあばら骨を魔神衣ごと砕いた感触がある。
「ぐは、あ……!? 何だ、この異常なパワー……は!? 貴様は神なのか?」
「テメーは俺の大事な仲間を傷つけた。この場で殺してやる」
左手で胸ぐらの魔神衣を砕く程の力で、吊るし上げる。
「カーズ! ダメです! まだ情報を聞き出してからでないと!」
「知ったことか、もう一度宙を舞え! グリフォン・フラップ!!!」
ドオオオオオオオン!!! グシャアッ!!!
再び迷宮内の宙を舞い、地面に叩きつけられるローズルキー。アリアが何か言っていたが、こいつは許さん。
「がはっ……! 圧倒的過ぎる……! 何者だ、貴様、は……?!」
「今から死ぬテメーに関係ねーよ。来い、神剣ニルヴァーナ!」
ジャキッ!
神剣を倒れたローズルキーの眼前に突きつける。これで終わりだ。
「くっ……、無念……!」
「死ね! アストラリア流ソードスキル・奥義!」
ガシッ、ガシッ!
「待て!!」
「待って、カーズ!!!」
後ろから体を押さえ付けられた。エリックとユズリハが俺の動きを封じる様にしがみ付いている。火傷だらけだが、動けたか。良かった。
「悪いが、これは俺達の闘いだ……!」
「そうよ。気持ちは嬉しいけど、私達の闘志はまだ萎えていないわ!」
「そうか……、でもその体でどうするんだ? こいつは俺がここで片づけてやる。お前達は下がっていろ」
「断る! 俺達に闘う意志がある限り、お前でも介入はさせねえ」
「ええ、まだ私達は闘える。逆境こそが成長のチャンス、それを教えてくれたのはアンタでしょ、カーズ」
「はあー、わかったよ。お前らがそこまで言うんなら。だが、ヤバいと思ったら割って入るからな」
ニルヴァーナを持ったまま、二人の後ろに下がる。丁度いい大きさの岩があったので、そこに腰掛ける。回復をかけようとしたが、二人に止められた。同じ条件で闘うらしい。
「カーズ、一撃で殺すかと思ったのさー」
いつの間にか側にイヴァが来ていた。
「何しに来たんだよ? 一応多少は痛い目見せた方がいいと思ってな。どの道殺すつもりだったし」
「うーん、あの魔神がボクのことを知っているかも知れないから。余裕があれば聞こうかと思って来たのさー。でももう終わりそうなのさ。あの二人の神格がさっきより燃えてるのさー」
「……そうだな。あいつらバトルジャンキーだから、今の方が燃えてるんだろうな」
「まあさっきのカーズもヤバかったけどねーなのさー」
「仕方ない。仲間を失うところだったんだ。冷静でいられるかよ」
「それはそうなのさー、ニャハハハ」
俺はイヴァと一緒に二人の闘いを見届けることにした。
「またしても貴様らが相手か? さっきの奴に任せておけば勝てたものを……、愚かな選択だな。貴様らでは俺様には勝てん!」
「そうだな、さっきまでの俺達ならだ」
「カーズの御陰で神格の燃やし方をこの目で見た。私達の大将が神格爆発のヒントをくれたのよ!」
「……なに?!」
「いくぜ! もうこれ以上カーズに助けられてばかりでいられるか! 俺はあいつと並んで闘うんだ! 燃えろ! 燃え滾れ俺の神格よ! 今こそ神衣を纏う時だああああああああ!!!」
「ええ、私達は共に闘い抜く! 燃えろ! 天高く羽搏け私の神格よ! 来て! 私の神衣!!!!!」
カッ!!!
「な、何ィ!? あの一瞬で神衣に目覚めたと言うのか!?」
ジャキィイイイイン!!! ピキィイイイイン!!!
エリックの体を青いプレートと頑丈な布の様なマントが覆う! ユズリハの体には黄金と赤の神々しい鎧が装着された! これが二人の神衣か……、やはり全耐性にステータスが大幅にアップしたな。
「これが……、俺の神衣なのか?! 只の鎧じゃなくて布地の様なものまで混ざっている。すげえ! 全身の痛みもない。まるで蘇ったようだ!」
「うん、これが神衣……?! 火傷の傷も消えて力が溢れて来る! この真紅に黄金の色合い、これが私の心の色なのね!」
「まさか本当に神衣に目覚める人族がいるとは……!? だが、それなら最早容赦はせん! さあ今一度喰らえ! |フュール・メイルシュトローム《極炎の巨大渦巻》!!!」
ドゴオオオオオオオオゥ!!!
|フュール・メイルシュトローム《極炎の巨大渦巻》が二人を飲み込んだ。だが無駄だな、ここでレベル差に神衣の上乗せだ、単なるそよ風だな。
ピキィイイン! ゴゴゴゴ……
「凄い、これが神衣の防御能力なのね!?」
「ああ、単なるそよ風にしか感じねえ。とんでもない防御性能だ!」
「くっ、何なんだ貴様らは!? 人族の集団がなぜここまでの力を持っている!?」
「さあな、そんなことはどうでもいいぜ。テメーは今から死ぬんだからよ!」
「そう言うことよ、人族を舐めたクソ魔神が、裁きを受けなさい!」
フラガラッハが灼熱の神気の炎を放つ! グングニルも星々の輝きの様な光を放っている!
「出るぞ、イヴァ……」
「うん、奥義なのさ……」
「喰らえ! レーヴァテインの炎を! フュール・スヴェート!!!」
先にローズルキーが振るったレーヴァテインから輝く炎が放たれる!
「マルクスリオ流大剣スキル・奥義!!!」
「アザナーシャ流槍術スキル・奥義!!!」
カカァッ!!! ドゴオオオオオオオオオオッ!!!!!
「|エクスプロージオ・カノン《灰燼に帰す炎の大砲》!!!」
「スターライト・ブレス!!!」
エリックの大剣からは全てを焼き尽くす輝く炎の大砲の様なエネルギー波が、ユズリハの槍からは無数の星々の輝きの様な光の束、かつて天界で見た二人の神の奥義が再現される!
「があああああああああ!!! おのれ、人間め!!! 覚えていろ!!!」
強烈な閃光が輝き、それに飲まれたローズルキーが、消滅する瞬間に転移で何処かに逃げたのが見えた。くそっ、往生際が悪い。さすがはアースガルズの悪神ロキ。何処かでリベンジマッチとなりそうだな。奥義を撃って息を荒くしている二人に声を掛ける。
「お疲れさん、よくあの瞬間で神衣に目覚めたな」
「ああ、お前の怒りの神気の炎が俺達の神格に共鳴したんだ。もっと燃えろってな」
「ええ、そうしたら神格からの声が聞こえたの。もっと熱く燃えなさいって」
「そうか、俺の中にはルクスとサーシャの神格もある。それがお前達の神格に共鳴を起こしたんだな」
「なるほどな……それは合点がいく」
「そうね……、同じ神格が反応したことになるってことね」
「逃げられたけどな、くそ、次はキッチリ潰すぜ!」
「当然よ、でも一気に解放したせいで、も、う、力が……」
「悪ぃ、俺も限界、だ、ぜ……」
バターン!
重なり合う様に倒れ込み、寝息を立てる二人。俺も初めて奥義をぶっ放した時は意識を失ったしな。もうこちらが片付いたのがわかったアリア達が駆け寄って来る。話し合いは戻ってからだな。あの魔神がどこに消えたかもわからない。人々に危害が行く前に潰す必要もある。
よく奮闘した二人、それぞれエリックはアジーンに、ユズリハはディードに背負われて、俺達は最下層の探索を一通り終わらせてから地上へと転移した。
やはり他の大迷宮も探索する必要があるだろうな。刺激しなければいいかも知れないが、放っておくのは危険だ。今回の様な魔神も居る可能性があるということがわかっただけでも収穫だったと言えるだろう。
今後どうするべきか考えながら、俺達は王都へと帰還した。
遂に神衣に目覚めた二人。これから更に頼もしくなりそう!




