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OVERKILL(オーバーキル)~世界が変わろうと巻き込まれ体質は変わらない~  作者: KAZUDONA
第五章 冒険者の高みへ・蠢き始める凶星達
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82  驚愕!Bランク組の実力



 イヴァと対戦相手のSランク、暗黒騎士(ダークナイト)のサウロンが一礼をしてから距離を取る。暗黒騎士ねー、まるでFF4の主人公の初期ジョブだな。フルフェイスのヘルムを被った長身。全身を黒づくめの鎧で覆っている。うーん、重そうだ。ウチの連中の装備はアリアが創ったかなり軽い服だからな。暑い季節や地方だとしんどそうにしか見えない。鑑定、レベル1180か、イヴァの半分くらいだな。あのダメージ肩代わりの魔道具はアリアが創ったものだし、普通にやり合っても問題ないだろうな。


「Bランクであっても容赦はしない。それに剣聖の称号を持つ者と闘えるなど…。本気でいかせてもらうぞ!」


 おお、結構まともな人っぽい発言だな。さてイヴァはどうするんだろうか?


「じゃあ本気でいくのさ。リミット・ブレイク(限界突破)!!! ビースト・モード(猛獣形態)!!!」


 ドゴオオオオッ!!!


 おい……、いきなりぶちかますんかい!


『おおっと、イヴァリース選手の髪の色が銀色に変わって闘志が全身から溢れ出しました! 解説のアリアさん、あれは一体何なのでしょうか?!』


『あれは自己のリミッターを外し、防御耐性を下げる代わりに大幅に攻撃能力が増すという、ウチのニャンコちゃんの戦闘モードですねー。うーん、一撃で終わりそうですねー、これはー。あの黒づくめの厨二さんには悪いですけどー(笑)』


 アリア、ニャンコ呼びは止めてやれよ。それに確かにそうだけど、相手を馬鹿にしすぎだろ……。


「いくぞ、鳴けアロンダイト! 暗黒剣武技(アーツ)! ダーク・エアスラッシュ!」


 ザシュシュッ!!!


 右肩の上に両手で構えたアロンダイトを一瞬で3回振るった。黒い衝撃波がイヴァへと放たれる。


「聖剣技・白龍天衝(はくりゅうてんしょう)


 パパパァーン!!! ドゴオオオ――!!!


 イヴァが抜刀術の構えから放ったのは白く輝く龍の姿をした剣閃。それがサウロンの武技を軽々と、まるで虫を払うかの様に消し去り、そのままサウロンへと直撃した。


「がはあああああッ!!!」


 バキィイイイン!!!


 サウロンの黒い鎧が砕け散り、彼の『ダメージ肩代わり君』が粉々になった。あーあ、やっぱこうなったか……。しかもリミット・ブレイクにビースト・モードまで使いやがった。加減しろよな……。


 ダンッ!!


 そのまま仰向けに倒れるサウロン。兜も砕けて、黒髪の中々にイケメンの素顔が現れた。マスクキャラはイケメンというのはどの世界でも同じなのか?


『勝負アリ!!! 『ダメージ肩代わり君』も粉々です! 圧倒的な一撃でイヴァリース選手の勝利です! Sランクを一蹴し、Bランクから一気に昇格です!!!』


「あーあ、終わっちゃったのさー」


 キィーン!

 

 納刀し、心底退屈そうな顔をするウチのニャンコ。そりゃそうなるだろ……。会場は一瞬で蹴りがついたことに驚き、しーんとしている。


『ほらねー。一撃だったでしょー? 『ダメージ肩代わり君』が無かったらあの人死んでますよー!』


『うむ、素晴らしい剣技! 抜刀の瞬間がまるで見えなかった。さすが我がリチェスターの冒険者!』


『いやはやこれは痛快であるな!』


 実況、マリーさん以外あいつらマジ舐め腐ってんな……。


「まあ、加減しなくていいんだしああなるよなー」


「イヴァの聖剣技っていくつあるのかしらねー?」


「順当だねー」


 エリユズにアヤ…こちらのVIP席も全く驚きもしないな。アランやレイラ達はポカーンだ。クレアはアガリアレプト戦を見てるから、うんうんと一人納得しているけど。


 倒れたサウロンをイヴァが手を引っ張って起こしてやった。鎧は砕けたけど、体に傷はついてない。やりよるな『ダメージ肩代わり君』め。


「見事だ。ここまで実力差を見せつけられては文句の一つも出ない。俺もこれから鍛え直すとしよう」


「ニャハハ、いつでも相手になるのさー。でも暗黒剣はアンデッドや本当の悪魔には通用しないのさ。だから違うジョブをお勧めするのさー」


「そうか…、帝国が大魔強襲(スタンピード)に遭ったときにアンデッドに苦戦したのはそういうことか……。ありがとうイヴァリース、俺は聖騎士(パラディン)を目指すことにしよう」


 握手を交わし、イヴァの手を上に持ち上げて勝者を称えるサウロン。いい奴だなー、さすがSランクまで上がっただけあって、人間的にも尊敬できる。まあ、相手が悪過ぎただけだな。


「「「「「おおおおおおおお!!!!」」」」」


 サウロンの清々しい態度と勝者のイヴァを称える様に、遅れて静まり返っていた観客達が大歓声を上げる。ていうか、イヴァのあの抜刀からの一撃が見えた観客が何人いるんだろうか?

 歓声を浴びながらイヴァが此方へ降りて来る。リミット・ブレイクの影響でまだ半分くらい銀髪のままだ。


「よし、取り敢えずSランクゲットだな。おめでとう、イヴァ」


「むぅー、カーズ。もうちょっと闘いたかったのさー」


「リミット・ブレイクにビースト・モードまで使うから余計に実力差が開くんだろうが、ちょっと反省しろー。串焼き買ってやらねーぞ」


「反省するのさ……」


 とぼとぼと座席に向かうイヴァをアヤやディード、アガシャに竜王兄妹が祝福する。まあここは同じランクだし、結束力が固い。稽古も一緒によくやってたみたいだし。みんなに撫でられて、笑顔を見せるイヴァ。さてまだこれからだな。

 少しの休憩が設けられて、新しい『ダメージ肩代わり君』が設置される。


『では二戦目に参ります! リチェスターのBランク、アガシャ・ロットカラー選手対、ここよりかなり西にある中央大陸(セントラル)の魔大陸、ロードスの魔族都市ヴェレニアより参加要請を受けたSランク、ジャガン・サイファーとの対戦です。では各々『ダメージ肩代わり君』に自分の血液を付けてから舞台へ上がって下さい!』


 お、次はアガシャか。まあ心配はないなあ。


「アガシャ、普通にやればいいからなー」


 装備を整えているアガシャに声を掛ける。


「はい、父上。必ず勝利をお届けします」


 此方の陣営のみんなから彼女に声援が飛ぶ。それに手を振って応えてから魔道具に血を通し、舞台に上がる両者。鑑定、ほう、相手は魔族なのか。レベル1320ね、あのハゲより強いじゃん。ジョブは…隼嵐弓手(ウインド・ファルコン)、初めて見るな。弓を手にしている時点で、狩人(ハンター)弓手(アーチャー)の上位職だろうけど。


『アガシャさんはアリアさんやカーズさんと同じ貴族姓ですけど、どういうご関係なのですか?』


『彼女はまあ言ってみれば遠い親戚の様なものですねー。そして一応カーズとアヤちゃんの養子の様な関係だと思って下さい。剣も弓も両方高い次元で扱える、神月狩人(ゴッドルナ・ハンター)という特殊なジョブです。まあ今回もワンパンですよーワンパン(笑)』


 こいつは何で毎回相手を小馬鹿にするんだよ……。まあアガシャの素性はうまく隠してるけどな。


『うむ、彼女は魔法もかなりのものだ。攻守にバランスが取れておる。ギルドのシステム上、仕方なくBランクに甘んじておる様なものだからのう』


『あの子はカーズとアヤの養子、儂にとっては孫も同然。しっかりと応援せねばならんな』


 誰も止めねえ。つーか残念王がそんなこと言ったら、アヤの素性を隠してる意味がねーだろ。アガシャのことはさすがに制約(ギアス)があるから合わせてるみたいだけどな。


『対するSランクのジャガン選手は隼嵐弓手(ウインド・ファルコン)という狩人や弓手の上位ジョブですが、アリアさんはこの勝負をどう見ますか?』


 マリーさんもう転職した方がいいんじゃないのか? 受付嬢の時より余程楽しそうだわ。


『ハヤブサの様な魔鳥を召喚して自らは距離を保って弓矢で攻撃する様なジョブですねー。まあ召喚獣は一瞬で消されるでしょうし、距離を詰められたら剣技の的です、かかしと同じですねー、乙でーす、チーン!』


「解説が酷過ぎだろ、これ……。仮にも神の所業とは思えねえ」


「まあ、アリアさんだからね……」


 アヤももう諦めの境地だな。


「ジジイもクラーチのオッサンも完全に相手のこととかどうでもよさげだしな……」


「普通はこういうのは中立なんだけどね……」


 エリユズまで諦めの境地か、仕方ないなあ。


『では試合開始!』


 マリーさんが開始の合図を告げ、両者が一礼する。


「わざわざ魔大陸ふんだりから来たってのに、Bランクの子供が相手とはな。まあ折角だ、一瞬で終わらせてやるぜ! 来い、サモン(召喚)・ブラッドファルコン!」


 地面に右手を叩きつける様にして、召喚魔法を発動した。5mはありそうな巨大な赤い魔鳥が魔法陣から姿を現す。あれで近距離攻撃をしながら遠距離から弓で射るのか。理屈としてはいい戦略だな。だが……


「ルナティック・カウンター」


 ザンッ!!!


 突進して近づいて来た鳥を、すれ違い様あっさりと一刀両断。あんなにデカいんだし、的にしてくれって言ってるようなもんだな。


「なにぃ!? 俺のファルコンがあんなにもあっさりと……!?」


「鳥は消えました。では弓で勝負しますか? このまま剣で距離を詰めて終わらせるのは勿体無いですからね」


 ジャキッ! 


 背中から折りたたまれた|ルーナ・クレッシェンテ《三日月の長弓》を抜くと、取っ手の部分が展開して長弓に変化する。


「いいだろう、だが弓の扱いで俺に勝てると思うなよ」


 左手で弓を持ち、右手で腰の矢筒から矢を取り出して(つが)えるジャガン。だがアガシャは当然矢など携帯していない。まあ使うなら異次元倉庫(ストレージ)にでも入れてるだろうしな。


「矢を持っていないのか? だったら待ってやる。さっさと矢を番えろ」


「ご親切にどうも。ですがわざわざ矢を携帯するのは邪魔になります。これが私の矢ですよ」


 番えた弓に魔力で具現化した光の矢が現れる。場内は騒然だ。


『アガシャの矢は魔力で幾らでも生成可能な上に、様々な属性で放つことができますからねー。矢の残量を気にしなくていいですし、威力も数も自由自在です。もう勝負アリでいいと思いますよー、お疲れ様でーす!』


 まあその通りだが、なぜ一々相手を煽るんだよこいつは。頭が痛てえ……。


「ちっ、ならば喰らえ弓術武技(ボウ・アーツ)、トリプルショット!!!」


 バシュシュッ!!!


 ほう、3本纏めて矢を撃つとは、結構凄いな。


「アルティミーシア流弓術スキル」


 ビンッ! ゴオオオオッ!!!


「|ルナティック・スターアロー《狂月の星矢》!」


 ああー、終わった。アガシャも手加減とかできない子だった。肩代わりの魔道具がないと粉々だ。


 ドオオオオオン!!!


「がはあっ!!!」


 狩人だけあって軽装、しかも太いレーザーの様な一矢によってジャガンの矢も蒸発する様に消えた。そしてアガシャの弓スキルが体を貫通したかの様に見えたが、


 バリィイイインッ!!!


『ダメージ肩代わり君』がちゃんと仕事をしてくれて、粉々に砕けた。ぶっ倒れたジャガンは装備が所々破損した程度だ。肉体に入るダメージだけがあの魔道具で相殺されるってことか。さっきのサウロンも防具はぶっ壊れてたしな。

 

『勝負アリ! アガシャ選手の勝利、Sランク昇格決定です!』


『はい、言った通りでしたねー。乙でしたー、チャンチャンww』


『さすが我がリチェスターの冒険者。Sランク相手でも一撃とは、素晴らしいの一言に尽きる』


『うむ、さすが我が孫娘。形容する言葉が見つからんのう』


 楽しんでやがるなあー、こいつら絶対炎上すんぞ。アガシャは対戦相手の手を引いて起こしてやっている。


「ありがとうございます。隼をおとりに使って弓で攻撃するというのは、勉強になりました」


「フッ、あんなにもあっさりやられちゃあ、皮肉にしか聞こえねえぜ。だが完敗だ、俺もサウロンの様にまだまだ鍛えなくてはならんな。ありがとよ、アガシャの嬢ちゃん」


 握手を交わし、手を振って声援に応えながら、アガシャが戻って来る。


「勝ちました、父上」


「ああ、ちょっとやり過ぎな気もするが、よくやったなアガシャ」


 黄色がかった黒髪を撫でてやると、嬉しそうな笑みを浮かべた。そしてみんなから祝福を受ける。さて次は誰かな? 誰が出ても今迄と同じ展開になるだろうけど、『ダメージ肩代わり君』の御陰で力加減を細かく調整せずに済む。此方からすれば楽だけど、試合自体は一撃で勝負がつくからなあ。しかも此方の攻撃が威力が強力過ぎなのとスピードも速過ぎて、観客は何が起きたかわからないだろう。

 実況はおもろいけど、こんなんでも祭典になってるのかね? アリアのコメントはもうどうにもならんしなあ。そう言えばウチの両親は何をやってるんだろうか? こういうお祭りは大好きなのにな。


『しかしアリアさん、カーズさんのPTは誰もが規格外ですね。どんな修練を積めばあんな風になるんですか?』


『そうですねー、基本は常に対人で立ち合い稽古ですよ。クエストしながら、ついでに修練みたいなノリですねー。魔王領で一日中バトルとか、悪魔、要は魔人と闘ったり。ついこないだまでは、世界を荒らしまわっていた堕天神達と闘ってましたしねー。そりゃ常に人外の相手をしてたらこっちも人外になりますよねー、アハハハハー!』


 すっげえ際どい事まで言ってやがる……。大丈夫なのか、唯一神サマ? 案の定、場内は騒然になる。偽のアストラリアによる奴隷制度のこと、奴隷にされてメキアに連れて行かれた人達のこと、魔王復活のことなどだ。


『おおー、要はそういう世界の危機を救ったのが、アリアさんも含めたカーズさんのPTなんですね?!」


『そういうことでーす! テヘペロリンチョ! まあそれほどでも…あるけどー! もう私達に任せておけば世界の行く末はバッチグーですよー!』


 ここ最近の事件の解決のことが知れて、観衆たちは驚きと共に歓声を上げる。こいつは……調子に乗りまくってやがる。ウチの古参メンバーは、もう頭を抱えている。あいつに喋らせてると色々と変な注目をされるに違いない。勝手に武勇伝を祭り上げるな。


『ここまでの二試合の感想はどうですか? リチェスターのギルマス、ステファンにクラーチ王両名は?』


 おいおい、この二人の話は余計に聞きたくないぞ。


『感想も何も一瞬で蹴りがついてしまったからのう。圧倒的としか言えまい。さすがはウチの看板冒険者達だ!』


 いつの間に看板になった? 絶対に今考えたろ?


『最早彼らにランクなどという小さな枠組みなど無意味であろうな。我が国を邪神の手から救ってくれた勇敢なる者達。SSSSSSSSランクとかで良かろうに!』


 あの残念王……、調子に乗りやがって。そうか、あの二人は友人だったな。そりゃ昔馴染みが揃えば悪ノリするに決まってるよ。


「あんのクソジジイ、俺らをバカバカ言ってやがったくせによー。なんつー掌返しだ?!」


「全くよねー、あんな悪ふざけを自分は平気でするってのに」


 エリユズは付き合いが長い分、色々と感じることがあるんだろうな。全く、変な奴しかいないな。


『えーと、ここでビッグゲストの方々が到着しましたー』


 ゲスト? うーん、嫌な予感しかしねえ……。


『ハーイ! カーズの、まあ私の両親でもありますが、バサトさんとミワコさんでーす! ようこそ実況席へ!』


 おおい!!! やめろ! 絶対滅茶苦茶になる!


『おーす、呼ばれたからちゃんと来たぜー。フィリップは最初からかよ。まあ、アガシャの試合は見たけどなー』


『皆様初めましてー。賑やかですねー、お祭りはいいものですねー』


「マジかよ……。勘弁してくれ。あの二人絶対俺のこと本名で呼びやがるからな……」


「あー、あはは…、それはどうしようもないかもだね……」


 アヤが同情してくれたが、軽く諦めが入っている。ダメだろ、あんな連中揃えたら。絶対カオスになる。


『おうナギトー! 応援に来てやったぞ! 気合い入れてぶっ殺せやー!!!』


『ナギくん怪我しないようにねー』


 やっぱ言いやがった。もう勘弁してくれよー、羞恥プレイにも限度があるだろ。


『えーと、そのナギトというのは誰のことでしょうか、バサトさん?』


『ああ、今はカーズとかこじゃれた名前を名乗ってやがる俺の息子のことだよ、受付の嬢ちゃん』


『私達にとってはずっとナギくんですからねー』


 実況席から笑いが聞こえる。キッツ―! これはキツイ! もう次の試合にいってくれ。


『ええーと、ではでは適度に緊張がほぐれたところで、第三戦! リチェスターBランク、アヤ・ロットカラー選手と、これはローマリア帝国の姫でありながらSランク冒険者でもある、セリス・ローマリア選手との対戦です! 各々準備を御願いします! アリアさん、この勝負はどうなりますかね?』


『うーん、アヤちゃんは神魔導騎士(ゴッドマジックナイト)という攻守に、魔法と剣技に優れたジョブですが、セリス選手は魔法騎士(ルーン・ナイト)ですか。攻撃よりも守備に優れた、盾の役目を果たすジョブですね。装備も大きなカイトシールドに、ほうほう、アレはプリドゥエンというネームド・アイテムですか。中々のレアものですね。そして腰に差してあるあの長剣(ロング・ソード)は、これもSランクに相応しくガラティンという聖剣ですねー』


 そうだな、アロンダイトはランスロット、ガラティンがガウェインの武器だ。しかもどちらもSランク装備。プリドゥエンはアーサー王の盾だと言われる。地球の伝承の影響力が大きいなら、そういうものが迷宮などの奥底で魔素と融合して出来上がったものなどもあるかも知れないな。こうなったら大迷宮は攻略すべきだし、行ってみる価値はあるな。

 そして鑑定、セリスは1420か、相当鍛えたんだろうな。しかし全身金のフルプレート、かなりの重装備だ、頭はサークレット程度だが、明らかに動きが鈍重になる。スピードを誇るアストラリア流には相性最悪だな。


「じゃあ行ってくるね。すぐ終わらせてくるから」


 アヤが立ち上がり、軽くストレッチをしながら声を掛けて来る。


「ああ、気を付けて…、って言う様なレベル差じゃないけど。一応気を付けてな」


「あの国の姫にはちょっとした借りがあるんだよね、今の力量差を見せつけてやるから」


 おっと、これは過去になんかあったな。まあ姫様同士、他の国でパーティとかやるのかもだしな、知らんけど…。どの道一撃で終わるだろうしな。

 魔道具を起動させ、舞台へ上がる両者。互いの視線がぶつかり合うのがわかる。これはちょっと知りたいな。アリアに念話してみるか。


(おい、アリアー。あの二人、何だか過去に因縁があったみたいなんだが、残念王に聞いてみてくれ。あと、親父と母さんまで呼んだことは説教するからなー)


(ええー、楽しく愉快な場所にしただけじゃないですかー? まあわかりました、訊いてみましょう)


『あの二人は互いに姫という関係同士ですが、結構ピリピリしてますねー。クラーチ王、思い当たる節はありますかねー?』


 うん、グッジョブ。自然な感じで訊いたな。


『そうですな…、過去にローマリア帝国で王族のパーティがあったときに、子供達が剣術の立ち合いを行いまして。アヤはまだレイラに剣を習い始めたばかりだったのです。ですがローマリアは自国の防衛に特化した国。幼い頃から王族であろうと厳しい武術の鍛錬を義務付けられる。そこで立ち合ったセリス姫にアヤはまあ、手も足も出なかった上に、所詮は子供ですからなあ、結構馬鹿にされるような態度を取られた様なことがありましてな。恐らくアヤはその時の借りを返してやるつもりなのでしょうな』


 アリアに対してはとことん敬語だな、残念王……。しかし、アヤがそこまで言うくらいだから余程ムカついたんだろうな。この試合はヤバい気がする……。


「フフッ、風の噂で冒険者になったとかSランク冒険者と結婚したとか聞いてたけど。私に遭ったのが運の尽き。あなた達のまぐれ勝ちもここで終わりね」


「相変わらずね、セリス。でも過去の私と同じと思っているなら痛い目を見ることになるでしょうね」


『では因縁の闘いの様相を帯びてきた、第三戦開始!!!』


 一礼をして、武器を構える両者。アヤはアストラリア・レイピアを抜いている。そして体の半分を覆う程の大盾プリドゥエンを右に構えて、長剣のガラティンを抜く。さすがSランクだけあって中々の業物ぽいな。


「じゃあ挨拶代わりにこれでも受けなさい! 剣武技(ソードアーツ)・ホーリー・スラスト!」


 あ、舐めてるな。そんな只の聖属性の突きがまともに当たる訳がない。


 ビシイッ! ガキィン!!!


「なっ!? 攻撃が通らない!?」


魔力鎧装(まりょくがいそう)。その程度の攻撃じゃあ私の薄皮一枚傷つけられないでしょうね」


 アヤの魔力鎧装にセリスの突きが止められた。まあその通りだ。このレベル差だと傷一つ付けられないだろうな。アヤに届く約1m手前からセリスの剣が進まない。


「じゃああの時の借りを返してあげる。どれだけの視線を潜り抜けて来たか、その身で味わいなさい!」


 ガギィン!!!


 何気なく振るったレイピアの斬撃を受けた盾に亀裂が走り、セリスがその衝撃でかなり後ろへ後退る。


「くっ、何なの…、そのパワーは?! しかもこのプリドゥエンに傷をつけるなんて……」


 おおー驚いてる。まあアリアのオリハルコンのレイピアには敵わんよな。


『アハハー、威勢よく飛び出した割にはあっけなく後ろへ弾かれましたねー。まあアヤちゃんのレベルは2570ですからね、本気を出したらセリスちゃんのレベル1420なんて消し炭になりますよー。まあ、過去の報いを受けて無様に転がりまわって下さーい!」


 相変わらず酷過ぎる。煽らないと気が済まんのか?


「アリア様も(アオ)リティ高いよねー。ね、カーズ?」


 チェトレが後ろから肩に両腕を絡めて来た。こいつも懲りないなあ。


「あれで会場からブーイングが出ないのはあいつの交渉術SSの恩恵だろうな…。普通なら大炎上だぞ」


「ですが、レベル差に実力差は事実ですからね。あのローマリアの姫もいつまで持つでしょうかね? そしてチェトレ、カーズ様に無闇にくっつかない。こっちに来なさい」


 ディードに剥がされて連れて行かれた。女性陣に何が起きてるんだろうか? まあいい、アヤの試合を見よう。ウチの王族兄妹にクレア、ギルド組も集中しているしな。


「じゃあ今度は此方のターン。全力で防御に回避しないと……、死ぬことになる」


 ゾワアアアアッ!!!


「ひっ!?」


 アヤが放った威圧が此方にまで飛んで来た。ここは結界で守られているから影響はないが、セリスはモロに威圧を浴びた。盾と剣を持つ手に、足も震えている。


「さあ、受けなさい! アストラリア流細剣スキル・シールド・ブレイカー!」


 ザキン! ズドドドドォッ!! バキバキィンッ!!!


 無数の突きと斬撃がシールドに叩き込まれた。アームズ・ブレイクのシールド破壊バージョンだ。同じSランクでもポンコツ女神の創造物の方が遥かに強力だ。


「さて、盾はもう意味はない。そのお粗末な剣技で来る? それとも魔法?」


 おお…、こいつは相当根に持ってるなあ。絶対ボコボコにする気だ。


「くっ、舐めるな! 受けろ、ディヴァイン・アロー(神聖なる矢)!!!」


 パアーン!!!


 詠唱魔法もあっさりとバックラーで弾かれる。そして反射された数本の魔法の矢がセリスに突き刺さる。


 ビシッ…、ビキキ…


 ダメージ肩代わりの魔道具に亀裂が入っていく。


『これはもう圧倒的! 次に強力な一撃が決まれば完全に勝負アリですねー』


『でしょう? 祭典だから仕方ないですけど、普通の人族じゃあ相手にもならないでしょう? ムフフー、いやー気分がいいですねー!」


『うむ、アヤがあそこまでの成長を遂げているとは…、やはりカーズとの出会いはあの子の人生にとって大きな意味があったのでしょうな』


 オッサン……、アンタ最初嘘ついて諦めさせようとしたことを忘れてんだろ? 全く調子がいいもんだな。


『よっしゃー! アヤちゃん極大魔法でぶっ飛ばせ!!!』


『アヤちゃーん、トドメですよー!!!』


 ウチの両親はもう完全にお祭りモードだな。ああなってしまうともう止められない。


「ということで、実況のご期待通りに極大魔法を見せてあげる。まだ詠唱魔法しかできないあなたには、何が起きたのかすらわからないから心配しないでいいから」


 ドゴオオオオオッ!!!


 レイピアを鞘に納めたアヤの右手から、超圧縮された炎の魔力が立ち昇る!


「な……?! 何なの、その魔力量は?」


「さあ、鍛錬すればできる様になるんじゃないの? 『ローマは一日にしてならず』、あ、この世界じゃそんな言葉はないか。じゃあ、手加減して詠唱してあげる」


 アヤの上に掲げた右上の掌の上に炎でできた巨大な鳥が具現化される。こいつは…、創造魔法に近いが、エクスプロージョンの形状を変えただけだ。さすが魔法の天才。肩代わり人形があるから大丈夫だろうが、普通に喰らえば肉片すら残らないな。


「さあ、舞いなさい! ファイナル・フェニックス!!!」


 ゴオオオオオオオ!!! ドゴアアアアアアアアッ!!!


「きゃあああああああああ!!!」


 凄まじい威力の爆撃と爆発音が炸裂する! マジで容赦ねえ! よっぽど負けたのが悔しかったんだろうな。


 バキィイイイイイインッ!!!


 彼女の『ダメージ肩代わり君』も跡形もなく砕け散った。いや、これ生きてるの? 爆発の煙と閃光が消え去ったとき、そこに装備が粉々に砕けたセリスが倒れていた。あれで原型が残ってるとは、あの魔道具優秀だな。

 俯せに倒れているセリスに近づき、その眼前にレイピアを突き付けるアヤ。


「まだやる? 人形は壊れたけど、やるのならまだ相手になるけど?」


「くっ……! 殺せと言いたいところだが、そんな気も失せる程の見事な闘いに強さだった。アーヤ、いやアヤ、完敗だ。過去の無礼を許して欲しい……」


「その言葉が訊ければ充分よ。さあ、立ちなさい」


「ああ、いつかまた手合わせしたいものだ……」


 セリスを起こすアヤ。しかしとんでもない威力だったな。大量殺戮兵器も真っ青だろう。肩代わり魔道具があってよかった。まともに喰らったら消し炭だ。


『勝負アリ!!! 勝者アヤ・ロットカラー! Sランク昇格決定です!』


「「「「「うおおおおおおおおおお!!!!!」」」」」


 余りにも凄まじい威力の魔法、しかも美しく羽ばたく巨大な鳥の姿。観客は大興奮だ。


『うむ、さすが我がリチェスターの精鋭!』


『さすが我が娘!』


『いやーすげえ魔法だったぜ!』


『爽快でしたねー!』


『ハイハーイ! みなさんコメントが段々語彙力低下してますが、確かにとんでもないエクスプロージョンでした! ブラボー! ヒューヒュー!!! しっかし本当にこの試験意味あるんですかねー? 余りにも圧倒的過ぎるんですよー。眠気が襲ってきますねー(笑)』


 どんどん雑になるなこいつら。そして過去の因縁に倍返しをしたアヤが笑顔で走って来て抱き着いて来るのを抱き止める。


「キッチリやり返してきたよ! 見ててくれた?」


「ああ、あの魔道具がなかったら粉々だっただろうしな」


「あーあ、いいなーアヤは……」


「仕方ありません。気の遠くなる程の時をすれ違って来たのですから」


 チェトレとディードが何か言ってるが、気にしないでおこう。イヴァはルティとおやつばっかり食べてるし、エリユズは相手が弱いから退屈なのが顔に出てる……。まあわかるよ、ワンパンで終わるんだし。完全に見た目はOVERKILL(やり過ぎ)状態だ。


『では30分程休憩を挟んで第四試合を開始します。会場の皆様はお手洗いや売店で食事を頼むなり自由にお過ごしください。ごみは各自でお持ち帰り下さい。全観客のデータはこちらで記録してあるので、ルールを破った方には後程請求書が送られますからねー』


 なんかもう色々と地球の科学力より凄い気がする……。まあ取り敢えずは順調に3連勝だ。この後はディードに竜王兄妹。ディードはまあ大丈夫だが、この兄妹はまだムラッ気がある。こけない様に祈っておくか。


 インターバル明けの試合も楽しみだな。






当然の圧勝劇。

『ダメージ肩代わり君』を思いついて良かった。

バトルは派手に!OVERKILLの基本ですね!

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