60 Extermination The 6th Demons
「ファファファ、貴様が俺様の相手か? 神の傀儡よ。俺様はグラシャラボラス。過去と未来を見通し、透明化の能力を有する殺戮の名手。如何様にして喰らってやろうか…? 神の創り出した運命に飲まれた愚かな傀儡よ…」
グリフォンの様な体にチワワのような顔をした化け物が空中から囀る。ウザい。
「お前ら魔人、悪魔ってのは本当に馬鹿だな。聞いてもいないのにペラペラと自分の能力やら余計なことばかり喋りやがる。とりあえず鬱陶しい、降りて来い」
ザンッ!! ドオオン!!
「うぐあっ…、いつの間に俺様の翼を…!?」
「テメーが余計な御託を並べてる間だよ。敵を前にして何余裕ぶっこいてんだ? で、能力が何だって?」
俺が撃ったのは抜刀術の飛天。ひらひらと鬱陶しいので落とした。
「おのれ…、よくもおおおお!!!」
「翼がなけりゃただの犬だな。ほら、お手したら許してやるぜ?」
「貴様あああああ!!! ならば我が力を思い知るがいい!!」
フッ!
姿が消えた。だがただの透明化だ。気配も駄々洩れ。神眼でバッチリ見えている。そして何度も俺の後ろに回り込もうと移動して来るが、未来視でも見え見え。回り込んだ先にわざと向き直る。その度に驚いた顔をするが…時間の無駄だな。さっさと滅却しよう。
ドゴオオオ!!! ガシャアアン!!!
「天馬絢舞脚」
わざわざ回り込んで来てくれたところに顔面へと回し蹴り。吹っ飛び、透明化も解けた。
「げぼあっ!? ぐ、がはあっ…、なぜわかる…?!」
「ただ透明になっただけで気配も消えてない。それで未来が視えるとはよく言ったな? 本当の未来視を舐めんなよ。もういい、そんなに飛びたけりゃこのまま天上までぶっ飛べ!」
フッ! ガシッ!!
一瞬で距離を詰め、頭を掴む。
「さあこれが本当の神獣の羽撃きだ! 粉々になれ! アストラリア流格闘スキル!」
ドオオオオオオオオオオオーーーーーン!!!!!
全身に高圧縮した魔力を撃ち込み、中枢神経系を破壊し自由を奪うと同時に全力で天高く放り投げる!! 立ち合いの時はさすがに神経系までダメージを入れてないけどね。
「グリフォン・フラップ!!!」
「ガハアアアアアー!!! 何だ!? 体の自由があああああ!!?」
ズゴオオオオオオンンッ!!!
姿が見えなくなる程の高さまで吹き飛んだグラシャラボラス。気を失ったまま地面に大穴を空けて突っ込み、俺が撃ち込んだ魔力が破裂して消滅した。
「毎回前置きがなげーんだよ、お前ら雑魚は」
さて気は乗らないが、操られた死人の龍人族達を眠らせてやるとしよう。アリアは兎も角、ばーちゃんに同族を討たせるのは酷だしな。二人の方を見る。やはり自我を持ったアンデッドに躊躇いもあって苦戦している様だ。無理もない。元々罪のない観測者として、世界の整合性を保って来た神の使いの様な存在。気が乗らないのもわかるが、手を拱いていても仕方ない。魔力が相当無くなるのを覚悟しよう。どいつもレベル1000前後だ。残りは約30人か…。
「おい、二人共ー! ちょっと魔力不足になるだろうから、後で補給頼むなー」
闘っている二人の前に転移する。
「カーズよ! 何をするつもりじゃ?!」
「そうです、レベル差はあっても人数が多いんですよ!」
「だからー、肉体ごと魂も眠らせてやるんだよ、魔法でな!」
「なっ?! そんな魔法が?」
「ああ、今考えた」
「「はあああ??!」」
「じゃあいくぜ、魂も肉体も消えて再び安らかに眠れ! 創造魔法! |セイクリッド・アンデッド・エクスティンクション《神聖なる不死者の消滅》!!!」
カッ!!! パアアアアアアアアアアン!!!!
両手から包み込む様なイメージで放出した光の魔力。その光に包まれた者達が正気を取り戻し、消えていく。
「おお…、あ、りがとう…」
「竜王、様、先に…逝き…ます…」
口々にダカルーや俺達に礼を言っては消えていった。
「ふぅ…、上手くいったな…」
あ、やべえ相当魔力を使った。ふらっとしたところを二人に支えられる。
「カーズよ…、何なのじゃ今の魔法は…?」
「そうです、あんなの神にもできませんよ!?」
支えてくれるのはいいんだが、捲し立てないで欲しいなあ。
「ターン・アンデッドとか、|アンデッド・エンライトメント《不死者の成仏》ってあるだろ? あれらは基本的に不死者の肉体から死した魂を抜いたり、肉体を地に還す魔法だ。でも規模も小さいし多数相手には向かない。あれをもっと強力に、魂と共に肉体まで葬送して消滅させる程の威力にしたんだよ。死者の肉体だし聖属性に消滅するイメージを加えて創造したんだ。魔法はイメージ、お前が教えてくれたんだろ、アリア。取り敢えず魔力くれ、娘の前で女性化したくないしな」
「はいはい、どうぞ。全くあなたの発想は相変わらずですねー。ラウダー・ヴォイスにグランシャリオ、|ファンタズム・エクスプロージョン《幻覚よ現実ともに灰燼と帰せ》に毛根破壊と…」
毛根破壊はただのネタ魔法なんだがな…。
「うむ…、やはりお主は凄まじいのう…。敵に回したくはないぞい」
「別に敵になんてならないって。ほら残りの三人娘の闘いを見守ろうぜ。アヤは遂に神格が爆発したし、ディードは初の魔人戦。アガシャはレベル的に問題なさそうだけど、どう闘うのかを見てみたいしな」
俺達が見守る中で三人の闘いが幕を開けた。
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「グラシャラボラスがあっさりやられるとは、アレが特異点のカーズか…。だがこのアイボロス、あらゆる機知に富み、勇猛さを呼び起こす力を持つ。そして貴様は過去に随分と粋がっていたようだな…。我には視えるぞ…、クハハハハハ!!」
LRWを抜き、全身の魔力鎧装を更に強く張り巡らせる。魔人の放つ瘴気が薄れ、体が軽くなる。まだまだ練度は鍛える余地があるが、この悪魔相手には充分過ぎる様だ。
「あんな鳥もどきではカーズ様の相手になるはずがないでしょう。そしてあなたもここでわたくしが滅却してあげます! ハアアアッ!!!」
ダンッ! ズガガガガッ!!!
「ぐおっ!?」
ギギギギィンン!!
踏み込んで放った突き。魔人の長く鋭い爪をした前脚で辛うじて弾かれる! まだ自分の剣技はカーズ様達には到底及ばない。だが立ち合いの稽古で彼からは多くを学んだ。隙の作り方、裏の取り方、敵を出し抜く駆け引き。この悪魔は鑑定したところ今の自分より多少上のレベル。確実に此方を舐めて来る。ただでさえ魔人は人族を見下す傾向があると聞いていた。どうやらそれは本当らしい。そして数値で全てが決まる訳ではないと、カーズ様は教えて下さった。
「クハハハハッ! ではこちらの力を見せてやろう…、ソウル・バーサーク!」
魔人の体が図太くなって強化されていく、被弾すればただでは済まないだろう。でも今の自分には負ける気がしない。
スッ…
LRWを右手に持ったまま、両手をだらりと下げ余計な力を抜いて立つ。無行の位、彼が見せてくれた相手の出方を見つつ如何なる攻撃にも千変万化の対応ができる攻防一体の構えだ。
「何だあーその構えは? やる気がねえならさっさと死ねええええ!!!」
無策で力任せに突っ込んで来る。隙だらけだ。こいつの何処に機知があるというのか?
フッ!
入れ替わる様に軽やかなステップで直線的な攻撃を躱し、突っ込んで来たその場に既にモード・チェンジしておいたLRWの連接剣で搦め捕る!
ギャリイイイイイン!! ギリギリギリィッ!
「ウグアアアア!! ナ、ンダ、これはあああ!? ただの剣だったハズだ!?」
「モード・連接剣。わざわざ自ら網に飛び込んで来てくれるとは、感謝致しますわ」
「グオオオオオオッ!!! こんな細い武器など引き千切ってくれるわあああ!!!」
だが藻掻けばそれだけ刃が食い込み、体の自由を奪う。更に全身の刃で刻まれた傷口から濁った緑色の血が噴き出す!
「このLRWはカーズ様がわたくしの闘い方に合わせて創造して下さった至高のSランク武器! あなた如きに引き千切れる訳がない! さあ喰らいなさい!」
バリバリバリィッ! バチチチチィッ!!
鍔の薔薇が咲き誇り、そこから無詠唱の|ライトニング・サンダーボルト《疾走する雷光の霹靂》が魔人の体を駆け巡る!
「ヴギアアアアアア!!!」
ギャリィイイン!!
レイピアの形状へとLRWを戻す。最早こいつにまともな攻撃は出来ないだろう。
「おのれえええ!! 喰らえ!! シャープネイル・スラッシュ!!」
満身創痍で繰り出して来たのは鋭い爪での斬撃。苦し紛れの一撃だ。
バキィーン!! パアーン!!
「シールド」
ドシャアア!!
「がはあっ!! 何だ…それは…?!」
展開された片翼型のナックルガード。反射盾となったそれに弾かれ、後ろへと吹っ飛ぶアイボロス。
「グアアア…、このアイボロスが自分よりも低レベルのエルフ如きに負ける訳がないのだあああ!」
またしても無策で突っ込んで来る。最初に狂化を使った時点でこの魔人は考えることを放棄した。純粋な力で叩き潰せると思ったのだろう。無策で突っ込んで来る相手ほど御し易いものはない。
「機知がどこにあるのやら…。相手を見下して、確かに過去の自分を見ているようで気分が悪くなりますね…。これはそんな過去との決別の一撃! カーズ様の闘いはいつもそう、レベル差など策と一瞬の閃きで覆すことができる!」
「ダマレエエエ!! 小娘があああああ!!!」
「ハアアアッ!!! 細剣技・天星衝!!!」
ズドシュッ!!!
天の星を衝くかの様な渾身の突きがアイボロスの顔面にカウンターの様に炸裂し、突き刺さる!! そこから更に連接剣へと変化させて伸びた刀身が尾までの全身を貫通する! そこへ流し込まれる圧縮魔力。その衝撃でアイボロスは塵となって消滅した。
ジャキィイイン!
元の形状へと戻ったLRWを鞘へと納める。
「ふぅ…、勝ちましたよ魔人戦。ユズリハ、あなたの背はまだまだ遠いですけどね…」
既に勝敗を決し、此方を見守っていたカーズ達の下へと彼女は少し誇らしげに歩を進めた。
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「さて、どうやら残りはあなただけですね。他の戦況を見ながらの様子見はここで終わりです」
アガシャの言葉にナベルスは苛立ちを抑え切れない様子で叫んだ。
「『【どいつもこいつも情けない! 吾輩が主の為にやる仕事が増えただけだ!!!】』」
ナベルス、三つ首のケルベロスのそれぞれが別々の異なる声を上げる。薄気味悪い…、これがこの世界に存在する悪魔と呼ばれるものか…。
「クハハッ、其方は実験で産み出されてきた特異点!」
『しかも月の民とは!』
【面白い!!!】
真ん中と左右の顔がそれぞれに息の合った言葉を述べる。
「吾輩が其方の」
『失われた真の特異点の』
【力と権威を在るべき姿に戻してやっても良いのだぞ?】
「なるほど…それが此方を丸め込もうとする話術か…。確かに心に響いて来る様な感覚があるが、父上から既に聞いていた。その御陰で神気の鎧装を張り巡らせておいた為、さして問題にはならない。さてそろそろ終幕とさせてもらいましょうか」
右手に持った長剣。アルティミーシアから貰ったルーナ・ジエーナを後ろ手に構える。左手は前方に構え、相手からは剣が見えにくいという独特の構えだ。
「おのれええ!!」
『生意気な小娘が!』
【受けろ!!!】
「『【トリニティ・ブレス!!!】』」
三つの首、口から炎・冷気・雷のブレスが放たれてくる!
ジャキッ!!!
「アルティミーシア流ソードスキル!」
ギャラアアアアアアアーーン!!!
柄を軸に高速回転させた剣が満月の様な真円を描き、その風圧でブレスを防ぎ、散らしていく!
「|フルムーン・ソード・シールド《満月を描く剣の盾》!」
バシュウウウウウッーー!
トリニティブレスを完全に防御し、拡散させた。最早ナベルスには何も残されていないだろう。っすがは父上の知識。ここまで的確に敵の情報を知っているとは。
「ではここで幕引きです。三日月の剣閃に斬り裂かれよ! アルティミーシア流ソードスキル」
ザヴァアアアン!!!
「クレッシェント・ヘヴンズ・ショット!!!」
神速の剣閃から放たれた三日月形の三発の魔力を纏った衝撃波! それがナベルスの首と胴体を横に、そして三撃目が縦に体を両断した。
「ウ、グ、ガア…ア…」
そのまま蒸発する様に消滅するナベルス。
「さて前座は終わりです。母上の闘いを見なければなりませんね…」
アガシャもまたカーズ達の下へと歩いて向かった。
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「どうやらあなたの配下も全て消滅した。さあ、覚悟を決めなさい」
「アハハハ、配下など死ぬ為に喚び出したようなものなのよ。さあここからが役に立つときよ、お前達! 三魔合体! リザレクト・アンデッド!」
カッ!
ネビロスがかざした杖が黒く輝き、消滅した3匹の魔人が合体し蘇る。獅子と猛犬と鷲の様な3つの顔に、巨大な翼をしたグリフォンの様な体躯。消滅した者を実体化させるとは、こいつのネクロマンサーとしての能力は相当高いのかも知れない。そしてその背に飛び乗るネビロス。
「さあ喰らいなさい! これが本当のトリニティ・ブレスよ!」
ドゴオオオオウッ!!! ドゴオオオオン!!!
3つの顔から先程よりも強烈なブレスが放たれ、爆発が巻き起こる! だが強靭な神衣を纏った自分には傷一つついていない。届く前に神気の壁に全て弾かれている。これが神衣の防御能力…。これで漸くカーズの隣で闘うことができる。その喜びが溢れて来る。
「なあああ?! あれを受けて無傷ですって??!!」
当然の様に馬鹿な顔をして驚くネビロス。
「毎回思うけど、馬鹿だよなー魔人って…」
「ええ、本当にそう思いますね…。能力は上がっても知能がお粗末です」
「神衣を纏った者にあんな火遊びの様なものが通用する訳があるまいにのう…」
カーズにアリアさん、ダカルーの声が聞こえて来る。他の味方に対してもそうだったが、確かに此方を舐めているとしか思えない行動ばかりを取って来る。明らかに知能レベルが低いと思ってしまう。
「さて、気が済んだ? この里の死者を冒涜したあなたを決して許さない! さあその罪の重さを自らの身で思い知りなさい!」
(いくよ、ニルヴァーナ!)
(うむ、カーズと神格を分けたアヤよ。我を全力で振るうがいい!)
踏み出す足に力を込め、レイピアを右手を引く様に構え、左手を広げて前に突き出し、ネビロスへと狙いを定め、ニルヴァーナへと神気を注ぎ込む!
「アストラリア流細剣スキル・奥義!」
ドゴオオオオ!!!
光速の一点集中刺突! 神気を纏ったその一撃は前方の空間を大きく穿ち、魔力に剣圧の光がネビロスのいる空間ごと突き破り全てを貫く!
「|スター・ペネトレイト・コメットー《星を穿つ彗星》!!!」
「ギアアアアアアアアーー!!!」
突きを繰り出した空間は時空が裂け、巨大な亜空間が口を開けている。ネビロスもその配下も全てその威力に巻き込まれて跡形もなく消滅した…。そして閉じていく穿たれた空間。これが奥義…。確かにとんでもない威力…。カーズやアリアの放つアストラリア・エクスキューションは何度も見たが、これ程までの威力だったとは…。使いどころは考えなければならない。そして神器がなければ私は神相手には戦えない…。感情の大幅な揺れ動きで神格は覚醒したが、これは大きな問題だ。
決着を着けて神気を抑えると、神衣は消えていった。そして見物しているカーズ達の下へと向かった。
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「なあアリア、アヤにも神器が必要じゃないのか?」
「うーん、あそこまでの神気を放てるとは…。確かに今後必要ですね。またあのジジイに念話を飛ばしておきますか…」
これはゼニウスのことだな…。
「お前、あのオッサンがいないときにはメチャクチャ言うなあ…」
「しかし、凄まじい神力じゃったのう。儂が龍闘衣を纏ってもあそこまでの力が出せるかわからん…。カーズよ、分け与えた力であれ程とは、お主の神格は途轍もない大きさなのであろうな」
「うーん、自分じゃよくわからないんだよ。存在の認識はできても大きさとかまでは。取り敢えず魔力の消費も激しいし、みんな闘って消耗してる。一旦休んでから第一迷宮に行こうとしようぜ」
もうここに脅威は来ないだろう。6柱の1つも潰したし、残りは4匹。奴はアンデッドの様な気配だった。生者と比べて生命力の反応が小さい。そこに気配・魔力遮断に認識疎外もかけていたのだろうな。道理で気付かないはずだ。これからは探知ももっと鍛えないとマズい。思いもよらない不意打ちを喰らうかもしれないしな。
兎に角これで次代の竜王を解放したら、次は勇者ジャンヌ救出だな。そんなことを考えながら、竜王の間のまだ綺麗な客室でその日は目を閉じた。
畳気持ちいいなーとかお気楽だった俺は、この氷点下の寒さの中で普通に飛んでいた小さな一匹の蠅に全く気付きもしなかった…。
蠅…鬱陶しいよね。




