108 剣術講義・『勇気』と『覚悟』
さて、リーシャに旧式の白いバトルドレスも着せてあげたところで屋外の鍛練場に到着。以前試験をした場所よりも広い。まあ他のクラスも合同みたいだし、男女も合同。約40人で講義・演習開始だ。
「俺が剣術指南を担当するヨシュア・ノイエだ。宜しく、新入生のカリナ・カラー。騎士団長を子供扱いした程の猛者が来てくれて、モーレツに熱い気持ちになっているぞ! だが俺はあのアホよりは強いからな。皆と一緒に熱く学んでくれ! ハッハッハ!!!」
「は、はあ、よろしくお願いします。お手柔らかに」
いきなり整列しているみんなの前に呼び出されて紹介された。無駄に熱いが、渋い黒髪天パのオッサンだ。ほう、レベルは250程か……。Aランクでもかなり強い部類だな。元冒険者だろうか? 一般の剣術の指導者としては一端だな。
背中と肩をバシバシと叩かれて紹介される。ものすげー体育会系だな。でも手加減して欲しい。鎧装切ってるんだよ、痛い。
「先程のリラックスタイムに彼女に絡んで、のされたバカが2組にいる様だが、品位のない振る舞いは許さんからな。貴族位剥奪で親に迷惑を掛けたくないなら控えるように、いいな!」
「「「「「はい!!!」」」」」
おおー、みんな素直だな。この人は指導者としても実力者だとわかる。目立たない様に基本から俺も学ぶとしよう。
「では素振り100回から二人組で撃ち込み練習だ、始めろ!」
全員返事をしてから、素振りに入る。まあこれは基本だよなー。俺はペアが被害に遭って、いなくなっているリーシャと二人組の予定だ。
ブンブンッ!
うーむ、アリアからもやらされたが、木剣だと軽過ぎるな。振る時の風圧で折れそうだ。少し加減してやるとしよう。
隣のリーシャを見ると真剣そのものだ。この子は掌に剣だこができていたくらいだし、かなり努力しているのがわかる。周囲をちらほら見るとヴォルカが笑顔を向けて来た。結構肌が出た装備だな。へそも袖も露出がある。獣人だし身軽な方が感覚を阻害されない造りなんだろう。イヴァも『本当はもっと身軽な方がいいけど、おへそを出すのは恥ずかしいのさー』とか言ってたしなー。
素振りが終わって、リーシャと二人組で撃ち込みとそれをいなす役をこなす。この子は必死に撃ち込んで来るが、力んでいるな。次の攻撃に繋げるまでのロスが大きい。だから簡単に逸らせるし、力み過ぎているからバランスを崩したりする。ちょっとアドバイスしてやろう。
「はぁはぁ、凄いね。全然力を使ってないみたいに逸らされちゃう」
「うーん、リーシャは力み過ぎだよ。一撃必殺で仕留められる訳じゃないんだし、余計な力を抜いて次の攻撃の組み立ても考えた方がいいと思う」
「……なるほどー。確かにそうかも。カリナに防がれたときバランス崩しちゃうのはそういうことだったんだね。でもカリナのいなし方が上手過ぎるから、ついつい力んじゃうんだよねー」
「ま、まあそれは置いといてー。戦場だと一瞬のバランスの崩れとかが命取りになるし、もっとリラックスした方がいいよ。もう肩で息してるでしょ?」
「う、うん、確かに。じゃあカリナ交代しよう。受けてみたいのもあるしね」
「いいよ、当てそうになったら止めるからしっかり見ることに集中して」
「はい、了解であります! ふふふっ」
何だか嬉しそうなリーシャ。スッと木剣を構える。左腕で胸元を隠す様に右肩の上段に剣を持つ、アストラリア流の片手剣技基本の構えだ。右腕は左にクロスさせるように肘下から手を広げて防御にも備える。
「ハッ!」
ガギィン!
「くっ! 速っ!?」
繰り出した初撃の左横薙ぎをリーシャが辛うじて防ぐ。だがアストラリア流は手数が売りだ。ソードスキルでなくても連撃が次々に連鎖して相手の防御を崩す。返す刀で右横薙ぎ、そこから上段の斬り下ろしに下からの斬り上げ。更にXを描く様に袈裟斬りと斬り上げがほぼ同時に放たれる。リーシャは何とか防御しているが、身体には防御性能の高いバトルドレスなので当てていない。オリハルコンが編み込まれているから木剣が折れる。だから敢えて彼女の木剣にのみ攻撃を浴びせる。
数回の連撃を浴びせた後、リーシャが木剣を耐え切れなくて落とした。その瞬間首元に切っ先を突き付ける。両手を上げて降参のポーズをするリーシャ。
「うわー、速過ぎて受けるに必死なだけだったよ……。凄いね、流派とかあるの?」
「うーん、アス、アリア流かなあ? そ、それより剣は命綱なんだから落としたらダメだよ」
「いやいや、あんなの立て続けに受けたら握力が持ちませんよー。しかもわざと木剣ばっかり撃って来たでしょ? はー、カリナは凄いなあー。私も強くなりたいよ」
「何でそんなに強くなりたいの? 努力してるじゃん、握手した時、剣だこ出来てたでしょ?」
「ウチはまだ成りたて貴族だし、そのせいで勝手に許嫁とか決められちゃったんだよ。隣のクラスの男子なんだけど。ほら、あの金髪でツンツンの黒い軽鎧着てる奴。お貴族様って感じで嫌いなんだよねー。私が勝てばナシにしてくれるって条件だけどね。まだまだ勝てないんだー、はあー……」
リーシャが指差した方向には確かに黒い軽鎧を着た目つきのキツイ野郎がペアで撃ち合いの稽古をしている。鑑定、ほうレベル17でジョブは魔剣士ね。暗黒騎士の下位互換だろうな。名前はー、マック・ローイ? あ、これはあれだ、クラーチ関係に違いない……。絶対勝たせてやろう。しかしどの世界も女の子は大変だなあ。
リーシャのレベルは12、ジョブは駆け出しか、でも努力はかなりしている。5レベル差くらい大した差じゃない。エクストラPTでも組んであげるかな。
本PTとは違う、他者と気軽に組める機能だ。まあ、最近知ったんだけどね。これで経験共有したら100くらい軽く行く。俺と撃ち合いの稽古をするだけでもレベル差が離れ過ぎてるからかなりの経験になる。
「じゃあ鍛えてあげるからPT組もうか。『あたし』は超成長ってスキルを持ってるから稽古するだけですぐレベル上がるよ。後は、『覚悟』かな。リーシャ、あいつが強い、勝てないって思い込んでるでしょ?」
「え、ええ?! なんでそんなことわかるの?」
「何となくかなー。努力はしてるのに自信が無さ過ぎるなあと思ってね。意識を変えるだけで相当伸びると思う。撃ち込む思い切りは凄く良かったし。本番だと緊張するんでしょ?」
「あ、う、うん、本番だと急に怖くなっちゃうんだよね……」
「恐怖ね、自分の武器が相手を傷つける、自分も傷つくってのがよくわかっているからそう思うんだよ。でもそれは大切な気持ち。実戦は『慣れと覚悟』だしね。『あたし』なんて初めての実戦はデッカいブラック・ベアだったもんね。あの時は死ぬと思ったよー」
「ええ?! Cランクの魔物が初実戦なんて……。怖かったでしょ?!」
「うん、超怖かったよ。でもね、準備は整ってたんだ。後は踏み出す勇気と負けるかーっていう『覚悟』だけだったんだよ」
まあ俺の場合はスキルもステータスも最初から盛られてたから、本当に心の問題だったからね。
「そっか、『覚悟』……。カリナ、もう一度付き合ってくれる?」
「うん、全然いいよ。ガンガン撃ち込んで来なさい」
教師風を吹かせてしまった。でも努力してる子は応援したくなるのだ。特に女の子はね。野郎はそれなりにほっといてもやるから偶に口出しする程度でいい。
「間に隙があったらこっちも軽く叩くからね。防御も意識するんだよ」
「うん、じゃあ行くよー。ハアッ!」
ガッ! ガガガガガッ! バギンッ!
ほう、さっきより気持ちが乗ってるな。意識して連撃が繰り出せてる。でも、まだぬるい。
トンッ!
大き過ぎる振り被りのときに肘を軽く突いた。途端にバランスを崩す。ここから俺も少しずつ反撃を入れていく。それでも直ぐに此方の注意する意図がわかるのか、同じミスはしない。学習能力が高いな、リーシャは。いや、これは超成長の恩恵もある。稽古しながら実力が増していっている。潜在的な能力はかなり高いなこの子。
その後も交互に撃ち込みの稽古をして一端休憩となった。
「ねえ、カリナ。稽古しながらレベルアップがどんどん進んだんだけど……。これどうなってるの?」
「うむむ、もう75かー。レベル差ある相手と稽古したらそんなになるんだなあ」
「いやいや、異常だよ?! さっきステータス見たら凄いことになってたし! ジョブも上級職の魔導騎士になってたし!」
「うん、もうこれで負けないでしょ? でもビビったら負けるからね。絶対に勝つっていう『覚悟』をしっかり持ってね」
「そういうのを聞いてるんじゃなくて……、カリナってレベル幾つなの?」
「うーん、絶対内緒の約束してくれるなら教えるけど」
「当たり前! 親友の秘密なんて言わないよ。お口はとっても固いのです」
「じゃあ、耳貸して」
「うん」
いつの間にか親友ポジになってるけど、任務終わって男ってバレたら殺されるかも知れねえ。
「えっとねー、7000くらい(小声)」
「ななっ?!!! ななななっ!!!!?」
「しっ、しぃー!!!」
「ああああー、ごめんね。余りに驚き過ぎて……。そりゃ強い訳だよ。そんな人類がいることに驚きだよ……」
「まあ、色々と事情がね……」
悪神共や悪魔をぶっ飛ばしまくったとは言えないしなあ。濁すことしかできない。
「何だー、どうしたリーシャ? 変な顔してー」
休憩中だからヴォルカが絡んで来た。
「いやー、カリナとペアで稽古してたんだけど凄かったなーって話」
「へえー、さすがだなー。騎士団長あしらってたし、今更だけどな」
うん、この会話はマズイ、変換しよう。
「そういえばヴォルカは何処出身なのさ?」
「ん? あたいは東大陸南西にある多種族国家ユヴァスの第一王女だよ。まあ王族なんて面倒でしかないから、弟に王位は任せるけどな。あたいは冒険者になって世界を旅したいんだ」
「マジか……、王族でしかも王女とは」
「あー、照れるけどなあ。だからって態度変えるなよー。姫様扱いは窮屈で嫌いなんだよ」
「ヴォルカは自由に生きたいっていつも言ってるもんね」
「そうそう、王族とか窮屈で退屈過ぎるからさー。この学院にいる間は気楽でいいやー」
「はー、何処かの姫様も似た様なこと言ってたな」
アヤだけど。
「だろー? そいつとは気が合いそうだなー」
任務上姉妹設定だから、その紹介は無理だな。友人として紹介するくらいはいいだろうけど。
「そうかもね。それで休憩終わったら何するの?」
「模擬戦だよ。先生が適当に選んだり、対戦希望あったらやり合ったりだな。リーシャはまたマックに挑むのか?」
「うん、今日は勝つからね。それであの契約はナシにさせてやるんだから」
「お、おお……。今日はやけに気合入ってんな」
「まあね、自分に足りないものがよくわかったからね」
「そりゃ楽しみだ。期待してるぜ」
「多分普通に勝つと思うよー。一撃で終わると思う」
バトルドレスの性能だけで+100レベルくらいの補正値な上にレベルも完全に上回った。止まって見えるだろうさ。
「よーし、休憩終了! 集合ー!!!」
「「「「「はい!!!!!」」」」」
教師のヨシュアの声が響く。走って集合、整列だ。
「じゃあ先ずは対戦希望あったら挙手しろー」
「「「「「はいっ!!!!!」」」」」
「うお、今日は多いな。何となくわかるけど誰と立ち合いしたいんだ?」
「「「「「カリナさんです!!!!!」」」」」
「やっぱりか……、カリナどうする?」
面倒だなあ。どうせなら一斉に相手してやろうかな?
「五人までくらいなら一度に相手でいいですよ」
「マジか……。じゃあ対戦希望者はじゃんけんしろー」
みんながガヤガヤ騒ぐ中でほとんどの男子がじゃんけんし始めた。そんなに俺と勝負したいのかよー。
「勝ったらお付き合いをして貰う。負けられねー!」
「俺もだ!」
「抜け駆けすんな!」
恐ろしい会話を火花を散らして言い合っている。全員ぶっ飛ばそう。
「決まりました!」
「よし、じゃあシドーにリムールにケルビーにー、ヴェラドにキーリトか……。カリナ、本当に多対一でいいのか? 前代未聞だぞ」
「あ、お構いなく。すぐ終わりますから」
対戦場の上でグッグッとストレッチする。野郎共が周囲を囲んで来る。さてぶっ飛ばして終わらせよう。
「じゃあ準備はいいかー?」
「カリナ―頑張ってー!」
「ぶっ飛ばせー!」
「「「「「カリナさーんファイト―!!!!!」」」」」
女子が全員応援してくれてる……。男子は選ばれなかった奴らが舌打ちしてるし。結束力の違いが分かり易いなあ。
「よし、始め!」
先生が合図する。その瞬間野郎共が四方から斬りかかって来た。
「一番乗りだ!」
「お付き合いして頂きます!」
「おりゃー!」
「ハッ!」
「武技・シャープネイル!!!」
鈍い……。そして隙だらけだ。アストラリア流のスキルではなく、その動きをなぞった斬撃で充分だな。
「サークル・エッジ」
バキキキキィン!!!
「「「「「うげえ!!!!!」」」」」
ズダーン!
全方位に回転しながら斬り付けるだけの、囲いから脱出する為の剣撃。一発で終わってしまった。胴を薙ぎ払っただけだが、五人共腹を押さえて悶絶している。魔力すら込めてないのになー。
「「「「「キャー!!!!!」」」」」
女子からの黄色い声援が鼓膜に突き刺さる。痛い。
「「「「「ダッセー!!!!!」」」」」
男子からは嫉妬と蔑みの言葉が同級生に飛ぶ。何だろうこの違い……。取り敢えず悶絶してるので回復させておくか。木剣でも俺の筋力で薙いだし、骨が折れていてもおかしくない。
「エリアヒール・ヒーラ」
「うお、治った!」
「無念……」
「よもやここまで差があるとは……」
「……」
「つ、次は勝つぞ……」
いや、次とかないし。どうせなら先生と手合わせしてみたかったなー。勝つけど何か学べるかもだし。
「勝負アリ! 勝者カリナ・カラー!」
「「「「「わああああああああ!!!!!」」」」」
「お疲れさまでした」
フィールドから出る。
「とんでもないスピードの斬撃だったな……、木剣でも死者が出るかと思ったぞ」
「手加減したから大丈夫ですよ。何人か骨折してたみたいだけど治しました」
「お、おう、済まんな……。俺もお前とは手合わせしてみたかったが、今の一瞬で血の気が引いたぜ。とんでもなく高度で正確な一撃だった。勝てる気がしねえな」
「『あたし』は先生となら立ち合いしてみたいですけどねー」
「うむ、遠慮する!」
「えー、日和らないで下さいよ」
「日和るわ! もういいぞ、女子と見学しとけ」
「はーい」
あ、しまった。また無自覚に目立つ行動をしてしまった。もういいや、知らね。女子のグループの所に戻る。
「カリナさすがだねえー」
「目で追うのがやっとだったぞ。あたいは獣人だから目は良いはずなのに!」
リーシャとヴォルカと手を合わせる。うーん、馴染んでしまっているなあ。これはこれで問題あるようにも思える。他の女子生徒の称賛も沢山頂いた。
「じゃあ次、対戦希望はあるかー? カリナはもうナシだぞ!」
「はい!」
リーシャが挙手した。やる気だな。
「お、リーシャか。じゃあ相手は……」
「マックでお願いします」
「やっぱりか。おいマック、いいか?」
「私は構いませんよ。それよりも彼女を止めた方がいいのでは? 許嫁、しかも自分より弱い相手に振るう剣は持っていません」
「っ……!」
あー、これは確かに地味に腹立つな。でも今日のリーシャは舐めてると痛い目に遭うぜ。
「先生、リーシャが勝ちますからー。やらせてやってください」
「か、カリナ?!」
「ほう、そう言えばペアで練習してたな。カリナが言うならいいだろう。双方舞台に出ろ」
「やれやれ、懲りない方だ」
面倒臭そうに対戦場に出る真っ黒い人。
「リーシャ、教えた通りにやれば勝てるから。禍根を断ち斬って来い」
「負けんなよ、リーシャ」
「うん、ありがとう二人共。じゃあ勝って来るから」
気合いを入れて舞台に向かう、白いバトルドレスを纏ったリーシャ。多分止まって見える。勝ち確定。後はどうやって勝つかだな。
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カリナからのお墨付きを貰って、フィールドに上がる。何だろう、凄く落ち着いている自分がいる。
今日初めて会って、お話して、不思議な子だと思った。女の子として凄く魅力的なのに、凛々しい大人の男性みたいな雰囲気を纏っている。体育の着替えの時は女の子同士なのに真っ赤な顔して恥ずかしそうだった。シャワーのときもヴォルカのせいでもみくちゃにされてたし。
何だろう、不思議。あんなに綺麗なのに鼻にかけた素振りもないし、初対面の私に色々な事を教えてくれた。しかもレベルが7000って! 教え方も上手だった。どうやったらあんな風になれるんだろう。同い年のはずなのになあ。まだ貴族に成ったばかりって言ってたなあ。それまではどんな人生を送っていたんだろう?
うん、彼女はきっと私みたいな一般人とは違う人生を歩んで来たんだろう。じゃないとあんな剣技なんて使えない。さっきの立ち合いも、もの凄く手加減しているのがわかった。でも全然嫌味な印象を受けない。みんなの心もあっという間に掴んでしまったみたいだし、男子からはモテモテなのに鬱陶しそうだし。
本当に不思議な子……。出会えて良かったな。私の心の中まで見透かされちゃったよ。『覚悟』、足りないのはそれだけだったんだ。レベルとかスキルとか、相手の地位だとか、私はそういうものしか見えていなかった。カリナとの稽古で何が足りないのかよくわかった。私には自分の未来を切り開く為の『心』が足りていなかったんだと。
もう負けない。絶対に勝つと決めたんだ。
「両者、準備はいいな?」
「フッ、いつでも構いませんよ」
「はい!」
余裕を見せつける様にしちゃって。でももうその薄ら笑いは今日で終わらせてやるんだ! 互いに剣を構える。私はカリナがやっていた『アリア流』という流派の構えを右手で取った。相手の呼吸も感じられる程落ち着いている。
「よし、始め!」
「ハアアアッ!!!」
明らかに格下と思っているんだろう。ノーガードで突進して来る。でも、カリナに比べたら、止まって見える! スッと構えていた木剣を進行方向の顔先に置く。
「ちっ!」
攻撃を繰り出そうとする瞬間にカウンター気味に切っ先が出されたからか、後ろへと跳ぶマック。その間に再び構えを戻してジリジリと距離を詰める。後がないマックはそこから正眼に構えた木剣を振り回してくる。
ガッ! ガガガガッ!
右左上左右。繰り出す斬撃が緩やかに感じられる。カリナの斬撃はもっと速くて重かった。私は冷静だ。隙ができたその一瞬の為にガードしながら少しずつ距離を詰める。
「くっ、何なんだ今日の君は?! まるで別人じゃないか! ……そうか、あの成り立て貴族に何かを吹き込まれたのか。だがローイ家の誇りに賭けて負ける訳にはいかない。受けよ、この一撃を!」
カリナのことを馬鹿にされた瞬間、私の中で何かが燃え上がった。『斬る』、そうか、これが『覚悟』なんだ。カリナの言葉が頭を過る。「いいか、切羽詰まったら絶対に渾身の一撃を放って来る。そして一番人間が力を入れ易いのが……」
「上からの斬り下ろし!」
バキィイイイン!!!
振り被って隙だらけの胴体を下から太陽が昇る様な剣閃で地面ごと斬り上げる!
「ぐげあああああ!!!」
ズダーン!!!
「アリア流ソードスキル・サンライズ・リープ!」
この瞬間を待っていた。カリナはやっぱり凄い。最後の悪足掻きまでもわかっていたんだ。私はそこに教えて貰った剣の動きをなぞっただけだもの。
「勝負アリ! 勝者リーシャ・ヴァレンタイン!」
「「「「「おおおおおおおおおーーー!!!!!」」」」」
勝った。私勝ったよ、カリナ! 彼女の方を見ると、左手でサムズアップしてくれている。カッコいいなあ……。ありがとうカリナ。
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「おお、マジで勝っちまった……」
ヴォルカが唖然として呆けた顔をしている。
「言ったじゃん。一撃で終わるって。姫様が大口開けてたらダメなんじゃないの?」
「う、うるさいなー。しょうがないだろー。あそこまで圧勝するとは思わなかったんだから」
「今迄負けてたのにいきなり圧勝したらそうなるもんだろうけどね」
勝ったリーシャが黒い人を起こしてやっている。顎に入ったもんなー翔陽閃が。歯が抜けてるかもだなー。知らんけど。
「今日の君はまるで別人だった。僕ももっと精進するよ。それに許嫁とかじゃなく、ちゃんと君と向き合って振り向かせられる様な男になる」
「『私』とか気取って言わないんだね? でもそっちの方が身の丈に合ってるんじゃない?」
「言ってくれる……。これでもかなり消沈してるんだ。暫くは己と向き合わないといけないさ。君の勝負での『覚悟』は凄かった」
「そう、じゃあ精々頑張って振り向かせてね」
何やら言葉を交わした後、リーシャがダッシュでこちらに走って来る。
「カリナ! 勝ったよ、私勝ったよ!」
「うん、ナイススラッシュだった」
「カリナ、大好き!」
思い切り抱き締められる。苦しい。アヤに見られたら殺されるな。学年とか別にしといて良かった。
「「「「「わああああああああ!!!!!」」」」」
「あたいも混ぜろ!」
結局他の女子達みんなに抱擁される羽目になった。もう、距離感がわかんねえよ。しかし、人って変わるもんだな。ゼニウスやファーレが俺らの成長速度や心の在り方に期待するってのもあながち間違いじゃない様な気がして来た。
取り敢えずリーシャが悲願を叶えてくれて良かったかな。黒い人がこれから頑張ってくれたらいいけどね。黒い人かー、ブラック企業の社長みたいだわ。ちゃんとマクドって呼んでやらないとだな。いい勝負だった。ん? マックだったか?
その後シャワータイムで再びもみくちゃにされた。ランチもアヤとアリアと一緒に取るつもりが、互いに沢山出来た友人達を連れて来る羽目になり、作戦会議どころじゃなかった。
午後からの3コマ目、貴族のマナーなんてさっぱりの俺はクラスメイトに大いに笑われたのだった。明日は水泳があるらしい……。いや、時間割見てたからわかってるけどさ、嫌な予感しかしない。
初日から濃過ぎてもう疲れた。アヤとアリアも子供の相手で疲れていたが、体操服の件はアリアに一発げんこつしておいた。この任務はこれまでになくキツイなあー。
調査しないとだけど、困った人も放っておけない。
リーシャちゃんが頑張った回でしたw
アリアには体操服のお仕置きですw




