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OVERKILL(オーバーキル)~世界が変わろうと巻き込まれ体質は変わらない~  作者: KAZUDONA
第五章 冒険者の高みへ・蠢き始める凶星達

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100 修行の成果・更なる高みへ



 ザッ!


「ではこれが最終試練。儂の千手観音(せんじゅかんのん)をお主の千手観音で完全に相殺できれば合格じゃ。よいか、カーズよ」

「ああ、いつでもいいぜ。フツマ師匠」


 チキキッ!! チキッ!!!


 二刀にして両方の腰に差したニルヴァーナの鍔を親指で少しだけ持ち上げる。フツマも二刀神器・天叢雲(あまのむらくも)正宗(マサムネ)を同時に抜刀する構えを取る。二刀を同時抜刀するため、姿勢は前傾できない。無行の位に近い仁王立ちの姿勢で、両手を体の前で交差させ、柄を既に握った状態がこの技の構えだ。


「ゆくぞカーズ!」 

「「神刀技(しんとうぎ)・奥義! 千手観音!!!」」


 ドンッ!!!


 同時に距離を詰め、一気に二刀を解き放つ! 左右からの一撃目! 同時に上下からの二連撃! 更に両肩からの袈裟斬りに斬り上げの四連撃! そこから10発の突きに全身を頭部から足先まで切り刻む多段横薙ぎ! 更に上下からの同時連撃、左右から体を両断する様な斬り下ろしに斬り上げが光の様な速度で繰り出される! そこから袈裟斬りと対になる斬り上げが超速で放たれる!

 ここまでが一連の型。そこから最初の左右からの連撃が繰り返される!


 ギィイイン! ガィン!! ガキイィイイイインン!!!


 並の相手ならば最初の抜刀で両断される。そして最初の一連の型が終わったら、順序を変えて同様の連撃が次々と放たれて来る。一瞬でも読み間違えたら最後、次の瞬間には細切れにされる! フツマの体勢から次の斬撃を予測し、此方も同様の型で相殺と攻撃を延々と繰り返す! フツマのとんでもないところは、その技の間に更に納刀と抜刀を凄まじい速さで行うということだ。その為、連撃の速度がどんどん上がる。


 ガキンッ!!! キキキィン! ガガガガガッ!!!


 千撃目。互いの抜刀した剣先が同時に喉元を捉えた! フツマが刀を降ろし、納刀する。それに合わせて俺も呼吸を整えながらニルヴァーナを納刀した。


「ふふふ、ハーハッハッハ!!! 凄いのう! まさかこの短期間で千手観音をモノにするとは! 途轍もない成長速度にセンスじゃ! いやはや、100年もかかるなどと言った無礼を詫びねばならんのう!」

「ハァ、ハァ……、呼吸も全く乱れていないってのによく言うぜ。あのまま続けたら完全に押し負けてたよ。明らかに手加減されてこれじゃ、素直に喜べねーっての」


 エリシオンの地面に腰を降ろし、呼吸を整える。俺達が剣を高速で交えたため、辺り一帯の花々は地面ごと剣圧で吹き飛んでいる。まさに剣の結界だ。あの中に入り込んだらズタズタに斬り裂かれるだろうな。神の奥義は相変わらずとんでもないぜ。初見で出されたら終わりだ。


「まだまだ練度を上げる余地はあるが、儂の修行はここまでじゃな。よく頑張った、バサトの息子カーズよ」

「その呼び方止めて欲しいんだけどなあ。カーズでいいよ」

「それはすまんかった。親子というのは色々とあるのじゃろうな。あ奴ももう少し落ち着きがあればのう、抜刀術が使えるであろうに」

「あのクソ親父に落ち着きはねーからなあ。無理だよ」

「闘争心はそっくりじゃがのう。お主は今の最終試練、口がにやけておったぞ」

「えー、ああ、うん、強い相手との勝負って燃えるんだよ。多分無意識だろうけどなあ。そこで笑ってたとは……、何とも変な感じだ」

「まあ良かろう。これにて儂の稽古は終わり。其方に『剣聖』の称号を授けよう。受け取るがいい」


 フツマの指先から小さな輝きが放たれて、俺の中に、恐らく神格に吸い込まれた。こんな風に与えられる称号もあるのか……? ん、剣聖?


「ウチのイヴァリースも『剣聖』なんだが、使う流派は『聖剣技』だったな。何かわかるか、フツマ?」

「儂は刀の神だが、ソード、剣を司る神は他にもいたはず。今は何処かの管轄をしておるはずじゃ。確か……クリュドゥーサオーレ。じゃったかのう?」

「それってクリュサオル、『黄金の剣を持てる者』の意味を持つポセイドンの子供だったと思うけどなあ」

「ほうお主の世界ではそのように伝わっておったのか。確かにポセイシガイオスの息子であったな。生まれながらに黄金の神器を持っていた剣の神じゃ。ならばイヴァリースはあ奴、クリューレに稽古をつけて貰ったということか。そしてポセオスはトライデント(三叉の槍)を使いこなす海を司る神じゃのう」

「イヴァに会わせればまた修行をつけて貰えるかも知れないなあ」

「あ奴らは海底が好きじゃからのう。滅多に出て来んぞ」

「そっかあ、でももう称号を貰っているなら免許皆伝だろうしなあ。フツマはアリアにも剣を教えたんだろ? でもソードはどうしたんだろうな? そのクリューレに教わったのか?」

「いや、儂の刀スキルから派生させて独自の技に昇華させた様じゃ。アリアのソードスキルは刀スキルとそう大差がなかろう?」

「……ああ、確かに互換性が高いな。それに普段は刀形態の武器を頻繁に使っているしな。なるほど、そういうことだったのか」

「まあアリアにも千手観音は教えたが、自分の流派には組み込まなかったようじゃな。あ奴は器用じゃからのう。どの武器種も扱える。まあ研究熱心で良いことじゃ。ソードはファーヌスからも習っておったしのう」

「そうか、アストラリア流は多彩だもんな。俺はまだソードと刀に二刀流、格闘術が少々だもんな。連接剣(ウィップソード)とか使える気がしねえ」

「ハハハッ、誰にでも得手不得手はある。さて、次の試練が待っておるぞ。レピオスの下に向かうがいい」

「ああ、ありがとうフツマ。また習いに来るよ」



 フツマに礼を言ってからレピオスの下へ。今度は初めて会ったときに見たあの魔法の絶技の試験だ。全属性融合・合体魔法極技・|オールエレメント・デヴァステーション《全属性壊滅撃》。まだまだ俺の魔力量では一日数発が限度のとんでもない魔法。まだ遊星をぶつけるメテオ(隕石召喚)系の魔法の方が楽だ。

 メテオ系は地上への被害がデカいから多用は出来ないが、このレピオスの魔法は敵を追尾して確実にそこで仕留める。派手さはないが、多数を確実に屠るにはかなり優秀だ。地上への被害も少ない。だが融合させる時点で難しい全属性をコントロールして追尾させるという、緻密な魔力のコントロールを要求される。彼女の魔法を全て撃墜するのが今回の試験だ。


「漸く来たのね。フツマには免許皆伝を貰えたみたいね。じゃあ今度は私の番。離れた位置に立って全属性魔力を体内で練り上げて合成しなさい」

「ああ、わかった」


 レピオスから大体100m程の距離を取る。今彼女が口にした魔法の融合。俺達は常に体外で融合させて合成させていた。それだと反発したときに魔力が四散してロスが大きいらしい。アリアめ、黙ってやがったのか忘れてたのか知らんが、これを先に学んでおけば融合と合成魔法はかなり楽に出来ていたはずだ。これを学んでから聖魔融合でもMPのロスがなくなった。体内で融合させるから魔力が外に四散しないからだ。

 レピオスが言うには、魔法を使う為に全身には血管が流れているのと同様に、魔力の管が張り巡らされているという。それを魔力回路と言うらしい。その流れを意識して体内で魔力を練る方が効率が良いとのことだ。

 母さんが魔法を涼しい顔で使っていたのはこれがわかっていたからなのだろう。相変わらずあの人には勝てる気がしないな。

 兎に角このやり方なら、普通に魔法名を叫ぶ様な詠唱魔法でも威力が変わらないらしい。そして一瞬で体外へ発射されるため、闘いながらの溜めが必要ない。常に体内で練っておけば順々に発動できるってことだ。うーむ、為になる。てことで、これから全属性融合・合体魔法極技・|オールエレメント・デヴァステーション《全属性壊滅撃》を撃ち合うことになる。


 さあ、体内で魔力を練って融合、合成させるぞ! 体内の魔力の流れを意識する。俺達神格者は魔力の大半が神格へと流れ込んでいる。それを強く意識すれば強弱も自由にコントロールできる。普通の人族では心肺に負担が多少かかるらしい。それに極大魔法は体内が魔力の強さに耐えられないという。これは大きな違いだ。

 全属性を融合・合成させた。レピオスの合図を待つのみ!


「じゃあいくわ! 全属性融合・合体魔法極技・|オールエレメント・デヴァステーション《全属性壊滅撃》!!!」

「相殺しろ! 合体魔法極技・|オールエレメント・デヴァステーション《全属性壊滅撃》!!!」


 エリシオンの天上を眩い虹の様な光が飛び交う!!!


 ドンッ! ドドドドドゥッ!!! パパアアン!!!


 まだだ、まだレピオスの両手から次々に光線が放たれて来る! ならばこちらも直線的な魔力撃に変えて相殺する!


「ハッ!!!」

「やるわねー。さすがミワコの息子だけあって飲み込みが早い!」


 ボボボッ!! ドーン!!! ドババババァッ!!!


 次々に相殺できているが、まだまだレピオスは涼しい顔をしている。あれは何かを企んでいるな。


 ズゴオオオオオ!!! バシュバシュッ!!


 地面の中にまで飛ばしてくるとは?! くっ、このままじゃジリ貧だぜ!


 足先からも魔法を放ち、地面の中に撃ち込まれた魔力撃を相殺する! だが今ので砂埃が立ち上り、目視が難しい。仕方ない、神眼発動! これで広範囲の魔力の動きもわかる!


 ドーン!! ドドドドドンッ!!! 


 背後から旋回して来る魔力撃も相殺。我ながら緻密なコントロールが上手くいっている。しかしそれ以上の魔法が飛んで来ない?! レピオスが魔力を巨大な塊にして放とうとしている! やっぱ最後は純粋な魔力勝負か! 此方も練り上げた魔力を両手に集め、同時に発射する!


「「|オールエレメント・デヴァステーション《全属性壊滅撃》!!!」」


 ドゴオオオオオオ!!!


 互いの魔法が空中でぶつかり合い、中間で威力がくすぶっている。これを喰らうと致死ダメージだ。だが負ける訳にはいかない!


「うおおおおおおおお!!!」

「はああああああああ!!!」


 くっ、魔力の消費が激しい! 体が女性へと引っ張られる。ならばこういう時の為に創造した魔法を上乗せして放つ!


「|スパイラル・ホーミング《渦巻く追跡弾》!」

「なっ?!」


 ぶつかり合う魔力撃の上を回転しながら、風属性の追跡弾が通り抜けて行く! 取った! それがレピオスに迫った瞬間、彼女はくすぶっていた魔力撃を上空に飛ばして解き放った! スパイラル・ホーミングもその上昇するエネルギーに飲まれ、同時に空中高くで爆発した。


 ドゴオオオオオオオンッ!!!


「ふぅ、危なかった。最後のは隠してたわね、カーズ」

「あーあ、丸ごと持っていかれたかあー」


 ドスンとその場にしゃがみ込む。魔力が足りない。息も上がっている。


「はい、ユグドロ(世界樹の雫)。女性体になりたくないんでしょ? 飲みなさい」

「ハハハ……、ありがとう」


 此方に歩いてきたレピオスにユグドラシル・ドロップを渡され、一気に飲み干した。魔力も体力も回復し、女性化は収まった。


「折角だし、沢山持って行きなさい。異次元倉庫(ストレージ)を開けて」

「ああ、うん。助かるよ」


 彼女の異次元倉庫からポイポイとユグドロが大量に放り込まれる。


「役に立っているようで何よりよ。それと試験は合格。ぶつかり合いをしている時にあんな魔法を撃って来るとはね。練度がもっと高ければ全部丸ごと喰らってたわ。面白いアイデアだったわよ」

「いや、まだまだだけどね。て言うかそれ作ってたのレピオスだったのか?」

「研究の一環でね。神々の生命力は大きいから、術者のレベルに依存した回復魔法では効率が悪いのよ。誰にでもそれなりに効果があるものを研究してたの」

「はー、それがこの『天界魔法道具製作所』か……。このラベルのアイデアは誰が考えたんだ?」

「ああ、それはアリアね。地球に似た様な飲料があるから使って欲しいって」

「やっぱあいつか! 下らねーことばっかりに手を出して……」

「まあ御陰で好評よ。ただ神々が闘わなくなって等しいし、在庫はたくさんあるんだけどねー」

「じゃあ、俺らは毎回死ぬ目に遭ってるので貰っておきますよ。下界の製品じゃあ回復量が全然足りないんですよね」

「わかった。じゃあ在庫は後でカーズの異次元倉庫に送っておくから。幾らでも死ぬ目に遭う経験をして来なさい!」

「いや、結果的にそうなだけで望んでなってないんだけどね」

「ふふふ、面白い弟子を持ったものね。もう帰るんでしょ? またいつでもいらっしゃい。念話なら何処にいても届くから。ユグドロが効かない様な大怪我とかならいつでも診てあげるからね」

「なるべくならそういう理由で会いたくないなあ。うん、でもありがとう。魔法と言うものがよく理解できたと思う。帰ったらみんなに教えてやるよ」

「あ、そうそう。私の奥義まで会得できたあなたには『賢者』の称号を与えるわ。受け取りなさい」


 フツマの時と同様、小さな光がレピオスの指先から放たれて神格へと収まった。


「ありがとう。でも俺みたいなのが賢者かあ……。称号負けが半端ないなあ」

「カーズ、あなたは魔法理論を完全に理解した。後はあなた自身がそれを成長させなさい。いい?」

「わかったよ。期待に恥じない様努力するさ」



 レピオスに礼を言って、鍛冶道具を広げているファーヌスの下へと向かう。何でも特別なものを創ってくれているらしいからな。


「おう、カーズ。あいつらの試験は終わったのか?」

「うん、何とかね。でもまだまだ練度を上げないとダメだ」

「フッ、まあそう言うな。あの二人の奥義をたった一月で身に付けたお前は本物だ。俺の方もお前に渡す物がある。受け取れ、デザインは余り変えてないが、神鉄を糸状に加工して創造した防具だ。アリアのオリハルコン製に比べたら性能は段違いだぜ。お前に死なれちゃ悲しいからな。今の装備と取り換えて着替えて来い」


 今着ているバトルドレスとデザイン的にはそう違わない真紅の装備にブーツ、グローブにリング、チョーカーにピアスが渡される。神鉄製だが、更に軽い。近くの建物の中に姿見が置いてあったので着替えてみた。ピアスはちょい痛かったけど。自動回復(オートヒール)自己治癒(リジェネレーション)まで付いて補正値もかなり強力になっている。グローブにはアリアのと同様に衝撃追加アディショナル・インパクトまで付いている。見た目的には以前とそう変わらない。着替え終わったところで建物から出る。

 着替えた装備はファーヌスが使うらしいので彼女に渡した。何かの研究に使うのかね?


「ほう、これが神気で強化されて変化したものか……。面白い現象が起こるものだな、地上の鉱石は。その現象を使えば面白い武具ができるかも知れねえな。おいカーズ。着心地はどうだ?」

「うん、軽いし回復能力も凄い。自動洗浄も付いてるみたいで体が綺麗に保たれてるのがわかるよ。防御性能も凄いはずだ」

「まあまだアリアには負けねーよ。さて仕上げだ。同じ様に神衣(カムイ)を纏う程の神気を高めろ。神気でコーティングされて更に頑丈になる」

「ああ、わかった」


 ピキィィィン!!!


 神衣が装着される。この一月の修行で強化された神衣。その神々しい神気に当てられて、装備の輝きが増していく。


「いいぞ、解除しろ」


 神衣を解除すると神鉄製の装備が強化されたように感じる。眩いがこれだと目立つ。また認識疎外で誤魔化すか。


「この派手に輝くのはどうにかならないのかな? 認識疎外かけてないと眩しいし目立つんだよなあ」

「お前の神気が強くなっているのも原因だが、そうだな……配色を暗めに設定してやろう。ほらよ!」


 バサーッ!


 黒い砂の様なものをかけられた。輝きが控え目になっていく。


「何これ?」

「『隠者の砂(いんじゃのすな)』という、隠密的な仕事をこなすときに装備に練り込むアイテムだ。今装備にかけたときに錬成して練り込んだ。これで目立たないはずだ」

「何でもアリだな……、ファーヌス姉さんは。まあこれで毎回認識疎外をかけずに済む、ってどうした?」


 顔を赤らめてモジモジしている。どうしたんだ?


「いや、お前から『姉さん』と言われたことが意外に気恥ずかしくてな……。ちょっとキュンときたぜ」

「? そうか? じゃあ止めとこうか?」

「いや、いい。寧ろもっと呼べ。お前みたいに素直な弟が欲しかったんだよ! ルクスは腹立つしな!」

 

 ヘッドロックされて頭をぐしゃぐしゃにされる。男勝りだけど結構乙女なのかね、この人? そしておっぱいがデカいから苦しい。ありがたいけど苦しい。


「あたたたた、スキンシップが過剰だぞ、ファーヌス姉さん」

「ああー、スマンスマン。照れ隠しだ。気にするな」


 気が済んだのか、解放してくれたがまだほんのり顔が赤い。何ていう格差のデカいツンデレなんだ。


「過激な照れ隠しだなあ」

「こほん、まあいい。これからもその呼び方で通す様にな! じゃあ最後にクソジジ、いや父上にリベンジしてから戻るんだったな。行くか」

「ああ、キッチリと借りは返してやる。見ててくれよファーヌス姉さん」

「ああー、連呼するな! じゃあ行こうか」




 天界の真ん中で寝そべっているゼニウスに声を掛ける。暇なのか、オッサン?


「オッサン、もう俺の用事は終わった。アンタにリベンジしてから帰ることにする。表に出ろ」

「もう表じゃろうが。其方も懲りんのう。毎日儂に挑んで来るとは」

「オッサンから一本取らなけりゃ気分が悪いんだよ。好き勝手に使ってくれた礼だ。じゃなきゃこれ以上は協力しねえからな」

「ヤレヤレじゃわい。致し方ないのう。ではやるとするか」


 立ち上がるゼニウス。ここまで全敗。神衣すら纏わせていない。だがそんなことはどうでもいい。一発顔面に喰らわしてやる。


「来い、ニルヴァーナ! 二刀・刀フォーム」


 ガシィ!!


 両手に取ったニルヴァーナの鞘を腰のベルトに収める。ファーヌスが二刀状態でも鞘を差せる様にしておいてくれたのだ。手数で一気に攻める! 神格を解放、神衣が装着される。


「いくぜ……!」

「良かろう、来るがいい」


 この一月の成果だ。見せてやるぜ!


 ダンッ!


「神刀技奥義、千手観音!!!」


 ザヴァアアアアッ!!! ドゴォ!!! ザンッ!!!


「フツマの奥義を会得したか。だがまだまだ!」


 ビシィ! バシッ! ガキィン!!!


 指先だけで弾かれる。このオッサンやっぱ伊達じゃねえな。この連撃を全て相殺されるとは思わなかったぜ。だが俺の体内では既に次の攻撃へ繋げる魔力が融合されて練られている!


「アストラリア流二刀奥義、|ジャッジ・オブ・アストラリア《正義の女神の審判》ー!!!」

 

 ドゴオオオオオオ!!!


 フツマに剣の極意を習った御陰で本来の剣技にも磨きがかかっている。強烈な竜巻がゼニウスを飲み込む!


「うおっ?! 奥義の連発だと?!」


 怯んだ、今がチャンス! ニルヴァーナを上空に投げ、練り込んだ魔力を高圧縮して撃ち出す!


「全属性融合・合体魔法極技・|オールエレメント・デヴァステーション《全属性壊滅撃》!!!」


 カッ!!! バアアアアアン!!!


 数え切れない程の魔力撃が地中も含めた全方位からゼニウスに襲い掛かる!


「くっ、これはマズイ! 来い、神衣よ!」


 ゼニウスの身体が輝き、聖銀の神衣が装着される! だが神衣の上から魔法が連発で叩きこまれる!


「くっ、ぐおおおおおっ!」


 バチンッ! バチバチッ!! ドゴゴゴゴオッ!!!


 防御したか、だが一瞬俺から気が逸れたな! 転移で一気にゼニウスの眼前に移動! そこから既に回転を加えていた体勢で顔面に回し蹴りが炸裂する!


 ドゴオオオオオッ!!! グワシャァアアア!!!


天馬絢舞脚(てんまけんぶきゃく)!!!」

「ごはあっ!」


 全身を覆っている神衣だが顔面はがら空きだ。遂に一撃が決まった。だが仰向けにぶっ飛んで倒れているゼニウスの上に猛スピードで飛翔し、放り投げたニルヴァーナが一刀のソードになって俺の手に収まる! 


「|アストラリア・エクスキューション《正義の女神の処刑執行》・ゼロ!!!」


 至近距離、零距離からの渾身の一撃だ! これで無傷だったら怪物が過ぎるぜオッサン!


 ガキィイイン!!!


「まさか神器を使うことになろうとは……! 見事じゃカーズよ」


 稲妻で出来たかのような槍で防御された。チッ、仕方ない一旦距離を取る!


 バッ、ズザッー!!!


「ここまで余を追い詰めるとはのう……。良かろう、大神の神器の一撃を見せてやろうぞ」


 これがゼニウスの雷の神器、『赤雷槍』か? だが握っている槍は稲妻そのものの様で金や白の雷の色だ。赤雷とは一体何だ?


「良いかカーズよ。余の雷、いや神々の雷は極限まで神気を籠めると赤く輝く赤雷(せきらい)となるのじゃよ。ではゆくぞ! 絶対に避けるのだぞ! |ジャッジメント・レッド・ヘヴンズフォール《裁きの赤雷》!!!」


 カッ!!! ドオオオオオオオオオン!!!


 ゼニウスが槍をかざしたその刹那、俺の右側の地面を赤雷が穿った。バチバチという赤い稲妻の残滓と、そこに空いた巨大な底の見えない穴。

 避けられなかった。というかわざと外してくれたのだ。回避行動をする暇もなかった。余りにも強大な大神の御業。今のが直撃していたら俺は炭すら残らなかっただろう。くそっ、俺はまだまだ弱い……。


「ふぅ……、久々過ぎてコントロールが難しかったわい。だが見事じゃ。余に神器を抜かせた上に、顔面にとんでもないペガサスの蹴りを喰らわすとは。漸く一本取ったのう。大した進歩じゃわい。誇るがよいぞ、カーズ。地べたを舐めたのはいつ振りかもわからぬからのう」

「くそっ、お世辞は結構だよ。やっぱあんたは大神だ。あれだけ策を練っておきながら魔法が数発に蹴りが一発決まっただけだ。相手が誰であろうと、あの赤雷の一撃は俺には躱せなかった。わざと外されたのは腹立つけどな。あんなのを喰らったら加護があっても塵一つ残らねーよ。あーもう負けだ! 結局一回も勝てなかったぜ」


 不貞腐れて地面に寝転がる。そこに見物していたファーヌス、フツマにレピオスが集まって来た。


「よくやったなカーズ。父上を地に這い(つくば)らせるとはな。見事だ」

「うむ、早速奥義を使いこなすとは。儂も教えた甲斐があるというものじゃ」

「それに息もつかせぬコンビネーションも素晴らしかったわ。剣で攻撃しながらも体内での魔力コントロールが完璧に出来ていた。ファーヌスの言う通り、見事よ。誇っていいわ。大神に地べたを舐めさせたってね」

「いや、まあ先に当てたのは俺だけどな……。ニルヴァーナを宙に放っていたから、欲が出てトドメまで刺す勢いで行った俺が悪い。そりゃ反撃されるよなー。バトルに入るとテンションが上がり過ぎるのは悪癖だ。思わぬ反撃が来るってのを学んだよ。ゼニウス様、またいつか再戦して下さい」

「うむ、お主の成長を見るのは面白い。余も少々熱くなってしまったわい。レピオスよ、どうやら蹴られた鼻が折れた様じゃ、鼻血が止まらん。治療してくれぬか?」

「はいはい、ヒーラ(HP・体力大回復)。年甲斐もなく熱くなるからですよ」

「いやいや、最後の奥義は神器を抜かなければ重症を負うところだった。カーズよ、余も結構ギリギリだったのじゃよ。赤雷はちとやり過ぎたがのう。ハハハハッ!」

「そうか、まあ最初に一本取ったのは俺だしな。じゃあ俺の勝ちにさせて貰いますよ。はぁ、漸く一勝かよ……。あの神器強過ぎだろ。オッサン一人で勝てるんじゃねーの?」



 こうして俺の短期間の集中修行は一旦終了した。取り敢えずゼニウスのオッサンから一本取れたし、今はこのくらいで良いだろう。経験値共有の効果でニルヴァーナにいるみんなにも俺の修行の経験は上積みされているはずだ。

 アリア達からは解き放たれた魔神共の4体までは斃したという連絡が入っている。だがまだ半数だ。あのローズルキーが見つかっていないことも気になる。他の魔神3体は恐らく別世界に逃げたらしい。ゼニウスによると、大世界中から魔神共が解き放たれたが、まだこれと言った被害は出ていない。恐らくどこかの世界で徒党を組んでいる可能性が高いようだ。


 神々の思惑に乗っかるのはあまり気が進まないが、折角戻って来た世界、ニルヴァーナが滅ぶのは困る。かかる火の粉は払う。そして俺は俺が護りたいものの為にこの剣を抜く。例えやり過ぎ(OVERKILL)になってでも護りたいものは護ってみせる。


 世話になった四人の神々に礼を言って、俺は俺が護るべき世界(ニルヴァーナ)へと転移で帰還した。みんなに会うのが楽しみだ。



        



        第五章 冒険者の高みへ・蠢き始める凶星達   完

第五章完結。祝100話です!

カーズの成長をご覧ください!

次は何が起こるのか?

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