Principia mathematica
幕が上がる。
歓声がする。
会場の雰囲気が、一気にぶち上がる。
まだ疫病下だということを忘れてしまいそうだ。
特に一階はファンクラブか?
すでにスタンディング状態だ。
ステージ上は、煌びやかな衣装を纏ったギタリスト。いや、ド派手だな。真っ赤な衣装。
隣の小学生も嬉しそうだ。目がキラキラしている。
そりゃそうか。あの身長に、煌びやかな衣装。ギター持ったギタリストはヒーローにしか見えないだろう。
体格がいいからか、これだけ離れていても、しっかりと見える。ある意味すごい。
ギタリストは悠々としている。
穏やか、とさえいえる。
還暦過ぎたからか、赤い服だからか、遥か昔に見た時の白黒なモノクロームな服の攻撃的な雰囲気よりは、情熱的なヒーロー感を感じる。
焦りだとか、不安も感じられない。これは確かに小学生が大好きそうだ。何より見栄えがする。
改めて見渡すと、遥か昔は男性ファンばかりだった記憶しかないが、今見た限りは男女半々か?
とりあえず、小学生は別として。
初めの曲はツアー名でもある曲がかかる。客席はすでにスタンディングでくるくるしている。
てか、ステージ上のギタリストもくるくるしている。還暦過ぎて、ギターかき鳴らして、暑苦しそうな衣装を着て動き、歌う。
癖なのか?脚も、遥か昔に見た時よりは上がっていないが、相変わらず上げている。しかし、よく足が上がるな。
まあ、音声は相変わらず、なんとも言えない。
声質がある意味、唯一無二としか言いがたいぐらいに歌うことに向いていない、としか言えない。
とはいえ、ギター弾いて、踊って歌う。
常識的に考えてあり得ない運動量と器用さである。
さらに、歌自体は、遥か昔より上手くなっていた気がする。
音感は間違いなくあるのだから、数をこなせばか。
ギタリストのギターの音は、相変わらず「カラフル」だ。この何の意味の持たない空気信号に感情ともいえる淡い色がつくのは、このギタリストの特徴なのか、これが才能なのか。
インターネットやら、音楽評論家のデータには彼より正確に音を弾けるギタリストはたくさんいる、と書いてある。
しかし、単なる音に色を、感情を乗せ「音色」に変えられるのは、珍しいと俺は思っている。
伝わってくるとても無邪気な感じ。
誰かに「褒めて!」って言ってくるような。柔らかな「夢」と「虚栄心」が伝わってくる。
アルバムのツアーなので知らない曲が続く。また、毎回ギターを変えている。てか、本当によく動くな。
なんとなく、ステージ上のギタリストは楽しそうに見える。
隣の小学生も嬉しそう。
・・・一部、歌詞やら動き的にどうなの?という点は、見なかったことにする。
「ギタリスト」の「2人目のヴォーカリスト」と組んだ時の「代表曲」が聴けた。
まあ、ギタリスト側だけだが。ふと、過去がよぎる。
しかし、考えたら負ける。そんな気がした。「教育論考」も「過去の追想」も後にしよう。
どうやら、野暮な用事の二つ目は楽しめそうだ。
そんな感じで、preludeは始まった。