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現実恋愛短編集

ヴェネツィアに旅行に来たら、何故かイケメンに見初められてしまった……

作者: 九傷

 


 水上バスを降り、地上に降り立つ。

 視界に広がるのは、美しい街並み。



「ここが、『水の都』、ヴェネツィア……!」



 ヴェネツィアは、イタリア共和国北東部に位置する都市で、その周辺地域を含む人口約26万人の基礎自治体だ。

 観光地としては有名な都市で、『アドリア海の女王』や『水の都』とも呼ばれている。


 私が今いるのは『サン・マルコ広場』という広場で、ヴェネツィアの中心的な場所だ。

 割高だが、マルコ・ポーロ空港から直通の水上バスが出ており、非常にアクセスが良い。

 しかし、それにしても――



「綺麗……」



 流石は、世界で最も美しいと言われる広場なだけある。

 私の旅の最大目標はこの広場を見ることだったので、既に強い満足感があった。



(そうだ、写真に収めておこう)



 スマホを横に構え、広場全体が映るように調整する。

 そして何枚か写真を撮り、一番見栄えの良いものをお気に入り登録した。



(ホテルに着いたら、LINEに貼ろうっと)



 LINEは今でも使おうと思えば使えなくはないが、ホテルなら恐らくWiFiがあるため、ネットに繋いでからの方がいいだろう。



(まさか、WiFiがないなんてことはないよね……ってあれ?)



 傍に置いてあったキャリーケースに手を伸ばすが、その手が空振る。

 視線を向けると、あったハズのキャリーケースがなくなっていた。



(嘘っ!? もしかして、盗まれた!?)



 ヴェネツィアの治安は悪くないと聞いていたのに、まさか泥棒がいるなんて……

 旅行における鉄則として金品は分散して持ち歩いているが、着替えなどの準必需品がキャリーケースには入っている。

 スマホの充電器なども入っているので、盗られると非常に面倒だ。



(どうしよう……)



 当然だが、ヴェネツィアの地理には詳しくないので、どこに駆け込めばいいかもわからない。

 ただオロオロすることしかできず、同じ場所を行ったり来たりする。



「Excuse me」


「はい!?」



 急に背後から肩を叩かれ、飛び上がりながら返事をする。

 振り返ると、そこには美しいアッシュブロンドの青年が立っていた。



「Is this your bag?」



 そう言って青年は、後ろ手に引くキャリーケースを見せてくる。

 それはまさしく、私のキャリーケースであった。


 盗んだ犯人はこの青年――なワケはないだろう。

 泥棒が、わざわざ盗んだ物を返しにくるなんてことはないハズだ。

 ということは、もしかしてこの青年は、バッグを取り返しくれたのだろうか?



「イ、イエス! ディスイズマイバッグ!」



 片言の英語でそう答えると、青年の顔がパッと笑顔になる。

 ただでさえ美形なので、笑うと本当に輝いて見えた。



「Was good! There was a suspicious man with a bag, so if you call out, run away.」


(……? な、なんだろう……)



 さっきまでの簡単な構文であればギリギリ聞き取れるが、ネイティブの長文は何を言っているかわからない。



「Venice is safe, but there are bad guys. Don't let your guard down. But don't hate Venice」



 え? え? 今、〇ニスって言わなかった!?

 〇ニス、バッドガイ……? ヘイト〇ニス……?


 よくわからないけど、とりあえず首を縦にブンブン振っておく。

 すると青年は再び笑顔になり――



「Do you like Venice?」


「っ!?」



 今のははっきりわかった。

 ドゥーユーライクぺ〇ス……、つまり、アナタはぺ〇スが好きですか、だ。

 恐ろしい質問に、私の顔がどんどん熱くなっていく。

 これは、どう答えるべきなのか。

 ぺ〇スが好きかなどと尋ねられても、わからないとしか答えられない。

 当然好きではないのだが、嫌うようなモノでもないからだ。

 私はまだ、その域には達していない。


 そもそも、彼は何故そんなことを尋ねてきたのか。

 奪い返してきたカバンを返す対価に、私の体を求めている?

 いやいや、こんな美青年が、日本人の私にそんなことを求めてくるとは思えない。

 わざわざ私に求めずとも、きっと選り取り見取りのハズだ。

 ……いや、でもこの青年、よく見ると日本人好きする顔立ちな気がする。

 あまり濃すぎない、少し顔の構造をシンプルにしたようなイケメンだ。

 もしかしたら、現地ではあまりモテないのかもしれない?


 いやいや、だからといって、私の体を差し上げますとは言えない。

 そもそも、そんな英語は知らない。

 ……あ、そうだ! 日本語で返せばいいんだ!


 私には難しい英語は伝わらない。

 そうわかれば、彼も無茶なお願いはしてこないハズ。



「あの、私その、体を差し出すとかは、無理です。お金は払いますので、カバンを返していただけないでしょうか?」


「っ!?」



 私がそう返すと、青年は驚いた顔をする。

 そして――



「驚いた! 君は日本人か! 僕はてっきり、中国系のアメリカ人だと!」


「……へ?」





 ◇





 色々な誤解が解け、無事カバンは返してもらった。

 返してもらったのだが……



「はっはっはっは! ベニスを〇ニスって、そりゃないよ!」


「うぅ……」



 顔から火が出るほど恥ずかしい!

 これでは本当に、〇ニスが好きみたいではないか……

 なんという失態!


 知らなかったワケではないのだ。

 私だって、旅行先のことくらいしっかり調べている。

 だから、ヴェネツィアが英語でベニスということくらいは知っていた。

 しかし、あのときの私は、盗難にあってパニくっていたうえに、突然話しかけられたこともあって頭が回っていなかったのである。



「ふふっ、君は、その、ユニークな思考パターンをしているみたいだね」



 彼が今、言葉を選んだのはわかる。

 恐らく本当は、ピンク色な発想をしているとか、エロいだとか思われたのだろう。

 ……それは半分くらい正解だ。


 私は俗に言う、ムッツリスケベというヤツである。

 男性経験はほとんどないが、妄想力がかなりたくましい。

 妄想のオカズは、主に漫画だ。

 レディコミもよく読むし、男性向けのエロ描写が多い漫画も読む。

 昨今は店頭で購入する必要がなくなっているため、際限なく読めてしまうのがいけない。



「しかしそうか、君は英語が得意じゃないみたいだね」


「……はい」


「じゃあ、改めて忠告するけど、いくらヴェネツィアの治安が良いと言っても、油断はしちゃダメだよ。観光地なだけあって、スリや盗難は多いんだ。君、特急水上バスに乗ってきたんだろ?」


「はい」


「特急水上バスを使うってことは、それなりにお金を持っているってことだ。それも、君のような若い女性の一人旅……、狙われないワケないよ」


「はい……、迂闊でした」



 女の一人旅なのだから十分な注意を――親には散々忠告されていたのに、憧れのヴェネツィアに浮かれて意識が散漫になっていた。

 猛省である。



「ちゃんと反省できるのは美徳だよ」


「そんな、自分が悪いのだから、反省するのは当然ですよ……」


「いや、そうでもない。イタリアだと女性はチヤホヤされて育つからね。注意されたり怒られたりすることに慣れていないから、反発してくる人も多いよ。もちろん、全員が全員そうではないけどね」


「そうなんですか……」



 イタリア人というと、男性がナンパなイメージがあるくらいで、女性の話はあまり聞かない。

 キレイな女性が多いというイメージくらいしかなかった。



「イタリアの女性は自信家で、性格もかなりキツイ。自分の思うようにいかないと、すぐに怒りだすんだ。……正直、怖いよ」



 何やら神妙な顔つきになる青年。

 過去に嫌なことでもあったのだろうか……



「それはそれとして、君は何故ヴェネツィアに?」


「えっと、旅行で――」


「それはわかるけど、今は旅行シーズンでもないし、しかも女性の一人旅なんて、普通じゃないと思うけど」



 青年の言う通り、今は旅行シーズンじゃないし、女性一人の海外旅行なんて、普通はありえない。

 だから当然、理由はあるのだけど……



「……今行かないと、もう二度とヴェネツィアに来れないかもしれないと、思って……」


「? それはどういう意味だい?」


「わ、笑わないでくださいね? 『サン・マルコ広場』って、アックア・アルタで水没することあるじゃないですか」



 アックア・アルタとは、異常潮位を起こす高潮のことだ。



「近年、地盤沈下とか、地球温暖化とか色々ありますよね。それで、近い未来、今の『サン・マルコ広場』は見れなくなっちゃうかもって……。そう思ったら、居ても立っても居られなくなって、……来ちゃいました」



 実際はそんな思いを数年抱えながらモヤモヤしていて、つい先日、思いがダム決壊をおこし、今に至ったのである。



「成程。大げさだと一笑したいところだけど、昨今の異常気象を考慮すれば絶対ないとは言えないね。で、とりあえず目的は達成できたということかな?」


「そうですね。あとは、折角のヴェネツィアを色々堪能しようかと」


「だったら、僕に案内を任せてくれないか?」


「……え?」


「実は僕の母は日本人なんだ。母は謙虚で誠実で、淑やかな素晴らしい女性でね。それもあって、昔から日本人の女性に興味があったんだ」


「っ!?」



 青年はそう言って私の手を取る。



「僕の名前は、サルヴァトーレ・ベラルディ。君の名前を聞かせてくれないか?」



 心臓がバクバクと跳ねている。

 な、なんだ、この状況は?

 もしかして、今私は、イケメンに求愛されている?


 私が黙っていると、彼が催促するように手をにぎにぎしてくる。

 それだけでもう、恥ずかしくて頭がパンクしそうだ。



「わ、私の名前は、草場 林檎(くさばりんご)、です」


「林檎、ようこそヴェネツィアへ。私は案内人を務めさせていただくサルヴァトーレです。以後末永く、宜しくお願いいただけますでしょうか?」



 そう言って彼は片膝をつき、握った私の手の甲にキスをする。



「~~~~っ!」



 とんでもない状況に頭がついていかない。

 思考回路がショートしそうだ。



「さあ、行きましょう、シニョリーナ」


「ちょっと、待ってください! 私、まだ案内を頼むなんて――きゃあ!?」





 こうして私は、彼に連れまわされ――、ついには色々奪われてしまうのであった……




おまけエピソード


林檎「あのとき、荷物を返してもらった時点で逃げてれば、こんなことには……」

サルヴァトーレ「無駄さ。イタリア伝統のカテナチオを抜くことはできない」

林檎(カテナチオ……? ハッ! まさか、エッチな単語!)


林檎の頭の中はやはりピンク色だった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ∀・)改めて読みましたが凄くノリのイイ作品でしたね。スケベな方向性はイタリアならではと感じてみたり(笑) [気になる点] ∀・;)審査員が違えば全然入賞はできた感ありますね。ポイントも九傷…
[良い点] こんにちは! 読んでいてヴェネチアへ行きたくなる作品です。 ヴェネチアの風景もイメージできて観光気分に浸れますな。 そして、なかなかの下ネタを盛り込みますね(笑) ヒロインがムッツリス…
[一言] ベニスをペ〇スは爆笑しました( ´艸`) サルヴァトーレの話が具体性があって、とてもリアルだなぁと思いました。 自然と女性を楽しませる感じの会話文で、センスすげぇってなります。 特にイタリ…
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