七、
どのくらい時が過ぎただろう。碧斗は目を開ける。鈍色の空が視界いっぱいに広がった。
「ここは。天国?」
せめて、もっと明るい場所がよかった。しばしぼうっとしていると、どうにも背中がごつごつする。リアルな感触に、碧斗は体を起こした。
「俺、生きてる!」
碧斗が仰向けに大の字になっていたのは、村の郊外だ。 なにか知らないが、御神木の場所から飛ばされたらしい。それともワープだろうか。よく分からない。
「ちっ。なんだよ。あいつ、斬‼ とかいうから斬られたかと思ったじゃん。何が斬‼ だよ。もっと違う言い方にしろよ」
無事だと分かり、急に元気を得て碧斗は憤慨する。 それにしても、これでは深世の舞を見れそうにない。今から向かっても間に合わないだろう。
はぁー、と碧斗はため息をつく。この村は碧斗にとことん冷たい。
途方に暮れて、おそろしいほど静かな農道を、とぼとぼ歩いていたときだった。耳に、きれいな音が飛び込んでくる。
しゃらん。この音は鈴の音だ。
「深世……?」
不思議だ。目を閉じてみると、深世が華麗に舞っているのが見える――。いつしか足を止め、耳をすましていた。
しゃらん、しゃらん。
鈴の音に合わせて、深世が優雅に袖を翻す。まるで、天女のようだ。
これは、夢なのだろうか。でも、どこからが夢なのだろう。禅に妙な術を使われたところから? それとも、村の郊外で目を覚ましたところからだろうか――。
とても暖かくて、やわらかい。心地がよくて、目を開けたくない。でも――。
女神だろうか、いや、碧斗の目に映ったのは、可憐な深世の姿だった。彼女はとても優しい笑みをたたえている。
彼女の背後には、雄大に枝を広げた御神木がみえた。
「あれ、これは夢?」
碧斗は今、深世のひざの上に頭を乗せていた。ひざまくらというやつだ。碧斗は腕を伸ばして深世の頬に触れた。やわらかくて、温かい。これは、夢ではない。いや、夢でもいい!
碧斗は身を起こすと、ぎゅっと深世を抱きしめた。
「君は本当に不思議な人だ。ここに、俺を導いたのは深世なの?」
「巫女の舞には、霊力が宿る。蛍迎ノ舞、碧斗のことを想って舞ったんだよ。だから会えたのかもしれない」
深世はやわらかく笑む。どうやら、またワープみたいなことをしたらしい。
「神事が終わって、碧斗のことを捜したのだけど、見つからなくて。ここに戻ってみたら、碧斗が眠っていたの」
「いいのかな、大切な蛍迎舞なのに。俺を想って舞ったりして」
すると、深世はいたずらっぽく笑った。
「みんなには内緒。ね?」
この上なくかわいい笑顔を見つめ、碧斗は深世に口付けた。
これからも、波乱はありそうだけれど。鬼隠しの巫女である深世の恋人である以上、覚悟のうえだ。
どんな困難でも乗り越えられる自信があった。
他でもない深世が、そばにいてくれるなら。
深世と微笑み合う。御神木の柔らかな葉が優しく揺れた。
【了】




