五、
「ちょっと待ってよ佑くん。冷たいじゃないかー。今回も協力してよー」
佑は仕方ないという風に言う。
「碧斗さんに災難の相が出てる。巻き込まれたくないよ」
「ちょちょっと災難ってなに⁉ 俺また死ぬ運命なの!」
佑は平然と返す。
「死にはしないよ。たぶんね。きっとうまくやれるよ、碧斗さんなら。中学生の僕に頼らないでよね」
「そ、そんな。冷たい……」
もしかして反抗期だろうか。前はもっと素直だった気がするのに。
佑はさっさと行ってしまった。
「やっぱり無理……こんな村嫌……」
碧斗は遠い目をした。おかげで、これから訪れるという災いにびくびくしなくてはならなくなった。
「助けてくれないなら言わないでよもう……」
泣きそうになりながらも、双眼鏡のピントを合わせるのを忘れない。その時だった。とんとん、と肩を叩かれる。
(げ、きた……!)
覚悟を決めつつ振り向いて、碧斗はみるみるうちに表情を変える。
「深世……!」
空の色を映したような着物がとてもよく似合っている。夏を迎えるのにふさわしく、とても涼しげだ。ふわりとした髪に、花の髪飾りをつけて、とても愛らしい。
清瀬の言った通り、さらに美しくなっている。
何より彼女は日だまりのような笑みを、他の誰でもない、碧斗に向けてくれているのだ。
「清瀬さんから連絡をもらったの。待ちきれなくて、会いにきちゃった」
首をかたむけてにっこりと笑う深世。癒される。
「本当はいけないのだけど、抜け出してきたの。内緒よ?」
さらに人差し指をつややかな唇にあてがう、そんな仕草もかわいすぎて、碧斗は心から、自分は幸せ者だと思った。碧斗も、微笑みを返して。
「――会いたかった」
深世を優しく抱きしめた。
「碧斗……」
「電話やメールだけじゃだめなんだ。やっぱりこうして、君に触れたい。抱きしめたい」
「私もだよ。次に会えるのがずっと待ち遠しかった」
見つめ合う。深世は瞳を閉じた。――唇が触れ合う瞬間。 突風が二人の間に吹き抜け、誰かに押されたような強い力で、碧斗は深世と突き放された。
いいところだったのに、と心で地団駄をふみつつ、尻餅をついたまま顔を上げる。
「深世様、勝手にうろうろされては困ります。もう間もなく蛍迎ノ儀が始まりますゆえ」
こちらを完全に無視して、深世を心配げに見遣る男。黒髪を一つに束ね、鶯色の着物に濃紫の袴姿。認めるやいなや、碧斗は指を指して大声で叫んでいた。




