一、
白無垢姿の花嫁が、神主を先頭にゆっくりと屋敷の縁を渡っていく。綿帽子で目元は隠れており、紅を引いた艶麗な唇だけが見えた。
彼女の隣には、紋付に身を包んだ凛々しい新郎の姿もある。古式にのっとった婚礼は厳かに、それでいて清らかに挙行されていく。
屋敷の日本庭園からは、祝福する親族たちや村民たちが祝福に頬をほころばせていた。彼らの後ろには、笛を鳴らして歩く二人の奏者の姿がある。まだ少し冷たい空気に、青空に、清麗な音が舞い上がる。
そして、この庭園に部外者が一人まじっているなんて誰も気づいていない。廊下を渡っていく新郎新婦に視線を奪われている。
碧斗はダークスーツと白いネクタイを締め、完全に村民になりすますと、人々の後ろで、ためらいもせずに大きく息を吸いこんだ。
「ちょっと待ったぁぁぁ!」
おしげもなく放たれた大声に、その場の時が一瞬止まる。演劇の発声練習が役に立った。いい具合に声が響き渡ってくれる。
笛の音がやみ、新郎新婦も歩みを止めた。何事かと人々が声の主を振り返った。注目されるのは嫌いではない。むしろ得意だ。
「その結婚に物申す!」
碧斗は調子に乗り、扇子をびしっと縁上の新郎に向けた。
碧斗がそのまま一歩を踏み出すと、人々は怪しげな若者に反射的に道をあけた。碧斗の気迫に押されたのか、まだ何が起こっているのか分からないのか、予想外の出来事すぎて唖然としている人が多い。
碧斗は堂々と一歩一歩、白砂利を踏みしめて新郎新婦のもとへ向かい、二人の前に歩み出た。
美しい唇しか見えないが、深世は驚きすぎて言葉を失っている様子だ。一方、眉間に深い皺を刻んでいる右京は冷たくこちらを見下ろしている。
今やっと人々がどよめき始め、背後から多くの非難と驚きの視線を強く感じた。神聖な雰囲気を見事打ち砕き、急に飛び出してきたスーツ姿の青年に、親族だろうか、肩を怒らせた袴姿の男が近づいて来る。
口ひげをはやし、威厳を漂わせた男はもしかしたら深世か、右京の父親かもしれない。だがしかし、碧斗は扇子を相手の首元に突きつけた。
「深世の命がかかっています。邪魔だて無用に願いますか」
演劇で鍛えられた度胸と声量。まさか、こんな場面で役立つとは思いもしなかった。確固とした意志と気迫のこもった視線を向けると、男は怒りに震えながらも身を引いた。
「禅は何をやっている」
右京は深世を守るように前に立つ。こんな状況でも深世を愛する演技に抜け目がないが、大切な人質を取られてはたまるか、といったところだろう。碧斗は余裕の笑みを向け言う。




