六、
稽古にバイトにと、忙しく日常が過ぎていく。そんな中で、鬼隠し村の出来事がまるで夢の中のような感覚になってくる。
稽古場のカレンダーを見るたびに思い出すのは、深世のことだ。もうすぐ三月二十一日。鬼隠し村では花迎ノ儀が行われる。
(きれいだろうな、深世の舞は)
東京の桜ももうすぐ咲き始める。鬼隠し村の桜も、もうすぐだろうか。稽古もバイトも終わり、碧斗がアパートに帰宅してすぐのことだった。インターホンが鳴る。
(宅急便かな)
ろくに確認もせずにドアを開けた。
「こんばんは」
妖艶に笑むのは伊冴耶だ。
「来ちゃいました」
「碧斗さん、東京ってすごいね!」
彼女だけではなく、控えめに肩をすくめる悠陽や、目をキラキラさせている佑もいる。すぐにドアを閉めたい衝動に駆られるも耐えた。返り討ちにあいそうだ。あまり刺激したくはない。
「ど、どうも。どうしたんですか、一体。みんな揃って」
こんなに揃わなくてもいいだろ、と思う。
「それに、悠陽さん入院してなくていいんですか!」
「はい、激しい動きさえしなければ大丈夫です」
「そ、そうなの? それに、どうしてここが分かったんですか」
「清瀬さんに聞いたのよ」
伊冴矢が答える。
そういえば、民宿『かまくら』に宿泊の際に住所を書いた覚えがあった。
「話があるの。深世のこと」
伊冴耶はいいと言ってないのに、勝手に部屋に上がり込んだ。悠陽や佑も彼女についていく。
「お茶かコーヒー、もらえる?」
伊冴耶はすでにテーブルにつき、高そうなコートを脱いだ。言われるまま、碧斗は人数分のコーヒーを用意した。佑にはジュースだ。
「さっそく、本題に入るわよ。時間がないから」
「はぁ」
一体何を話すというのだろう。聞くのが怖い気がする。
「鬼隠し村の御神木、あなたも知ってるわよね?」
「はい。花迎ノ儀が行われる、村の大切な御神木だと聞いてますけど」
すっかり鬼隠し通になっている碧斗だった。
「花が咲かないのよ。御神木は早咲きの桜、今頃はもう咲き始めてもおかしくないのに。それで、花迎ノ儀が中止になってしまったの」
「そんな……。深世は、大丈夫ですか。落ち込んでいませんか。あ、でも。右京さんがいるから、大丈夫か……」
深世を心配する役目は、自分ではなくなってしまったのだ。




