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五、

 どうして。


 深世は、桜の御神木の前で何度も語り掛けた。幾度も舞った。なのに、御神木は答えてくれない。前に一度、舞ったときにはちゃんと答えてくれていたのに。


(このままじゃ、花迎ノ儀までに間に合わない)


 桜が、咲かない。早咲きの桜。鬼隠し村の御神木。そんな事態になったら、村の人たちをがっかりさせるどころか唯一の償いが果たせない。


 巫女になってほしいという姉の願いを叶えることができない。これは贖罪なのだ。


(せめて、役目だけはちゃんと果たさないと。ちゃんとお姉ちゃんの代わりをしないと)


 痛む足を無理やり動かすも、鋭い痛みに地面に倒れ込んだ。むくんだ足に、靴が食い込む。


 深世は靴を脱ぐと、裸足になった。無理に舞い続けたせいで足は真っ赤で、傷らだけだった。血も滲んでいる。


「――村の桜にも、受け入れられないか」


 いつの間にか、そばに右京が立っていた。冷淡な目が見下ろしている。彼からそういう目を向けられるようになったのは、歌世が亡くなってからだ。抱えきれずにすべてを話したときから。当然だ。深世がしてしまったことは、それだけ罪深いことなのだから。


「でも、一度は心を開いてくれたの。だから、花迎ノ儀は必ず成功させる」


 深世は痛む足で無理やり立ち上がる。


「無理だ。このまま続けても同じことだろう」


 それでも深世は唇を引き結びつつ、扇子を持つ手を動かそうとした。しかし乱暴に、その腕をつかまれる。扇子がひらりと地面に落ちた。


「あの男を帰らせたな」

「……」


 深世は視線をそらす。碧斗のことは、言霊の力で遠ざけた。深世の心が傾きそうになって、逃げてしまいそうになるし、何より、碧斗が右京に殺されかねない。


 深世は、碧斗のことが今でも好きだった。これ以上巻き込みたくない。碧斗には、自分のことなんか忘れて夢を追ってほしかった。


「彼は、関係ない。もう別たから」

「勝手だな。自分のものは壊されたくないのか」


 右京は手を離した。捕まれていた手首に赤い跡がつく。


「桜が咲かずとも、式は挙げる。お前に自由はもうない」


 右京は冷ややかに一瞥して、言う。


「結局お前は、歌世の代わりにもなれなかったということだ」


 右京は去っていく。深世は御神木の前で、一人涙を流すことしかできなかった。

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