四、
碧斗は村の外にあるバス停で、本数の少ないバスを待っていた。坂を下りたここまでくると、雪もだいぶ少ない。
(大変だったなぁ)
生まれて初めて経験した失恋。不可思議な人たちが住まう村。何度も死にそうになったが、いい経験になったかもしれない。
使用人の任期終了まで、まだ日数が残っていたが、図書館の復旧を手伝って、碧斗は東京に帰ることにした。
三月に入ったばかりの陽ざしは、春の気配を含み温かい。もうすぐ劇団の稽古が始まる。春の公演に向けて動き出す。
(深世も、花迎ノ儀。うまくいくといいな)
そして、晴れて好きな人と結婚する。切ないし辛いけれど、彼女が幸せならばそれでいい。
「碧斗さん!」
坂から手を振って駆けてくる少年の姿が見える。佑だ。見送りに来てくれたのだろうか。地味にうれしいけど、若干デジャヴだ。
「碧斗さん、いいの?」
息をはずませて、佑は悲しそうな顔をした。まだ少しだけ息が白く染まる。
「いいのって?」
「深世さんだよ! このまま帰っちゃっていいの?」
「うん。深世の幸せを奪う権利は俺にはないよ」
「あきらめちゃうの……?」
「仕方ない」
碧斗は泣きそうになっている佑の頭をぽんぽんとなでた。
「なんで君が、そんな顔をするの。もしかして、また帰ったら死ぬとか?」
そういえば、村でできた唯一の友人、悠陽も同じようなことを訊いてきた。本当にこのまま帰ってしまっていいのかと。
「碧斗さんの死は、回避できたみたい。でも」
佑は声を詰まらせた。その時、バスが到着した。客は、碧斗一人だけだ。
「それじゃ。元気でね、佑くん」
佑は何か言いたげにしていたが、結局何も言わないままバスの扉が閉まっていった。
(さようなら、深世。さようなら、鬼隠し村。俺はしばらく、夢一筋で生きるよ)
碧斗は一人、感傷に浸る。明日からは、また日常に戻るだけだ。深世のいない、日常に。




