三、
「後は、伊冴耶から聞いた通りだよ。私は、お姉ちゃんなんて死んじゃえばいいって、言霊に込めてしまった。怒りや憎しみの感情は、より言霊を強くしてしまうの。だから、お姉ちゃんはいつも気を付けてた。お姉ちゃんにはお姉ちゃんの苦悩があったはずなのに、苦しかったのは私だけじゃないって分かっていたのに、あの時は、止められなかった……!」
「深世……」
胸が裂かれそうだ。碧斗は、こんなに弱っている深世を見たのは初めてで、簡単には口を開けなかった。どんな言葉も、彼女の前では軽くなってしまいそうで。
「私は、黙っていられなくて、右京さんに正直に話をした。右京さんは、怒っているの。結婚式も挙げられないまま亡くなってしまうなんて、誰も思っていなかった。死期を早めたのは私のせいだって」
「だから、結婚するのか。深世がすべてを背負って、鬼隠しの巫女のことも全部抱えて、たった一人で!」
「そう。私が幸せにならないために、結婚して、村に閉じ込めておくって。私もそれに同意した。当然の報いだと思った」
「深世!」
碧斗は彼女の両肩に手を置いて、しっかりと目を見る。
「一緒に帰ろう。俺は、君が好きだ。どんな君でも、深世は深世だ。村じゅうの人が右京の味方をしても、深世のことを蔑んだとしても、俺だけは深世の味方でいるから!」
深世の目から涙がこぼれ落ちる。碧斗は深世をきつく抱きしめた。
「帰ろう。このまま、一緒に」
深世はそっと体を離す。
「ありがとう、碧斗。……ごめんね」
微笑んでいるのに、辛そうで。その意味を、碧斗は間もなく知ることになる。深世は碧斗の首に腕を回してつま先立つと、耳元でささやく。
「私は、右京さんと結婚する。右京さんのことを心から愛しているの。私はとても幸せよ。だから、碧斗は帰って。一人で、帰って。もう、私のことは忘れていいから」
言葉の一つ一つが、脳に浸透していく。まるで催眠にかかったような、鈍い意識の中で、深世の声が響いて、言葉が偽物の真実になる――。
深世が体を離した。深世は泣いていた。それでも儚く微笑んで、姿が遠ざかっていく。碧斗の足は動かない。意識がはっきりしてきた時には、彼女の姿はなかった。
(そろそろ、潮時か)
碧斗はまだおぼつかない足取りで、やっと歩みを進めた。




