二、
けれど翌日、歌世は貧血を起こし倒れてしまった。
「お姉ちゃん、昨日遅くまで起きてるからだよ」
「だって、深世と話をしてるとあっという間に時間が過ぎちゃうんだもの」
ベッドに半身を起こす歌世に、深世は温かいお茶を差し出す。
「ありがとう。花迎ノ儀、深世も見に来てくれるんでしょ?」
「うん、そのつもりだよ」
「よかった。この前ね、御神木に挨拶しに行ったんだ。舞を披露したら、喜んでくれたよ」
「やっぱりお姉ちゃんはすごいね。あの御神木、なかなか新人には心を開いてくれないっていうじゃない? 先代の巫女様がぼやいてたくらいだもん」
「えへへ、そうかな」
歌世は照れたように笑う。
「ねぇ、深世」
ふと、歌世は真剣な面持ちで名を呼んだ。
「どうしたの。深刻な顔して」
「私ね、きっと先は長くないと思うの」
「……何言ってるの?」
深世は凍り付く。みんなが避けてきたこと。触れるのを怖がってきたこと。村の診療所からも度々言われていた。
歌世は、人よりも霊力が強くて高い分、魂を削っていくのが人よりも早いらしい。八尾家の協力で、霊力入り漢方薬を調合してもらい定期的に届けてもらっているけれど、それでも間に合わないのだそうだ。
「分かるんだ、自分のことだもの」
「じゃあ、鬼隠しの巫女なんてやめなよ。花迎ノ儀は、一番霊力を使うんでしょ? 私、嫌だよ。考え直してよ、お姉ちゃん!」
すがるように、深世は訴えた。歌世は、寂しそうに微笑むだけだ。
「右京さんはどうなるの? 花迎ノ儀の後、結婚するんでしょ? 好きな人と結婚するのに……!」
「鬼隠しの巫女として花迎ノ儀を舞うことは、私にとって憧れで、夢なの。これだけは譲れない。今を逃したら、きっと永遠にその機会は巡ってこない。私の体がもたないから。右京のことは、愛しているわ。本当に大好き。長くはないことを知っていて、結婚しようって言ってくれた」
「なら、もっと右京さんのことも考えてあげてよ!」
「深世。私の人生で一度だけのわがままよ。これだけは、辛抱しないって決めてる」
歌世が鬼隠しの巫女になるために、努力をし続けてきたことは知っている。舞だって、一緒に習ってきた深世よりもずっと上手だ。
それに、歌世は人よりもいろんなことを我慢してきたと思う。強すぎる霊力、言霊の力のせいで、言いたいことも言えない場面だって多々あったはずだ。
なのに、歌世は深世が欲しいものを全部持って行った。家族の関心も、鬼隠しの巫女になることも、右京と一緒になることも。
歌世と共に村にいるのが辛くて、距離を置くために深世は大学進学を決めたのだ。適度な距離を保ったおかげで、黒い感情を歌世にぶつけずにすんだ。
なのに今。心の奥底に封じていた思いが再び燻り始める。
「そんなの、右京さんがかわいそうだよ。お姉ちゃんはひどいよ……」
それでも、深世は耐えた。黒い気持ちを、再び押し込めようとする。なのに、歌世は追い打ちをかけるように。
「あのね、深世」
歌世は、深世の頬に落ちる涙を指ですくうと言う。
「花迎ノ儀が終わったら、私の鬼隠しの巫女を引き継いでくれないかしら。妹のあなたにしか頼めないことよ」
「え……」
「深世なら、きっとなれる。私の妹だもの」
私の鬼隠しの巫女を。歌世はそう言った。
「何言ってるの」
怒りが湧いてくる。
「私は、お姉ちゃんの代わりじゃない‼ それに、私にとっては、鬼隠しの巫女がすべてじゃないよ。就職だって決まって、付き合ってる人もいる。急にやれって言われたって無理だよ!」
歌世のために、あきらめたのに。鬼隠しの巫女も、右京のことも!
「お姉ちゃんは勝手だし、ずるいよ。私はお姉ちゃんのこと、大っ嫌いだった!」
深世は部屋を飛び出した。歌世の呼ぶ声がしたけれど、止まらなかった。そして――伊冴耶と鉢合わせてしまった。




