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一、
それは二年前のことだった。
花迎ノ儀で、歌世が鬼隠しの巫女を拝命するという知らせをもらった。大学四年生だった深世は、冬休みを利用して数日間、里帰りをすることになった。
「ただいまー」
深世が玄関を開けると、すぐに姉の歌世が飛んできた。
「お帰り深世ー! 久しぶり!」
子どもみたいに無邪気に抱きついてくる。長くてさらさらの髪から、花のいい匂いがした。
「もう、東京の大学に入学してから、ちっとも顔を出さないんだもの」
「ごめんごめん。いろいろと忙しくて」
深世も温かい気持ちで答える。
もう、大丈夫なはずだ。今は深世も大人。子どもの頃みたいに、姉に対する嫉妬のような感情はわいてこない。
きっとそれは、今が幸せだからだ。付き合って二年になる彼氏――碧斗と出会ってから、深世の世界は一変した。自分に自信を持つことができたし、彼の前では自分のことを好きでいられる。
歌世は高校を卒業した後、公務員試験を受けて、鬼隠し村役場で働いていた。
「深世も就職決まったんだってね、おめでとう。今度、東京に遊びに行ってもいい?」
他愛もない話をしながら、歌世はとても楽そうにしてるし、体調もよさそうなので深世もほっとしていた。




