十五、
「いちおう屋敷に入ることはできたけど」
離れのプレハブ小屋に戻って来た神楽は言う。
「鬼隠しの巫女も監視されているみたいで、自由に外出することもできないらしい。式神が目を光らせているし、僕でも呼び出すのは無理だよ」
碧斗はがっくりと肩を落とす。
「でも、巫女の部屋はどこか分かった」
神楽は外に出るとプレハブ小屋から見える二階の窓を指さした。
「あの部屋」
昼間だけれどカーテンがかかっている。
「今って、深世はいるの?」
神楽がうなずくのを見て、碧斗は路肩に残っている雪を丸めると窓に向かって投げた。
(深世、気づいてくれ!)
すると、願いが通じたのかカーテンが揺れて、窓が神妙に開く。
「……!」
名前を呼ぼうとして、言葉を飲み込む。コートを羽織った深世がしーっと唇に手を当てていたのだ。なんて可憐なのだろう。ぽうっとしていると、深世がおもむろに窓の桟に手をかけた。
一体何をしようとしているのか――それは一瞬の出来事だった。深世は窓から身を乗り出すと足をかけ、そのまま飛び降りたのだ。
何を早まった真似を!
しかし、深世の体は空中にできた雪のクッションに一度沈む。
「碧斗、巫女を受け止めて」
唖然としている碧斗に、神楽の声がした。
ほとんど反射的に、碧斗は手を伸ばした。クッションになっている雪が一瞬で溶ける。――そして碧斗はしっかりと深世を抱きとめた。碧斗の体は反動で後ろへ倒れしまう。
「っ痛ー……」
「碧斗、大丈夫?」
心配げにみおろす深世と目が合う。仰向けに寝転んでいた碧斗は微笑んだ。
「驚いた。天から降りてきた天女かと思ったよ」
「ふふっ、何言ってるの」
深世は花開くように笑って、手を差し伸べてくれる。天使だ。そう思いながら、彼女の手を取った。
「神楽くん、ありがとう」
深世はにっこりと言うと、神楽は素直にうなずいた。深世はきっと雪狐である彼の能力と機転を信じたのだろう。
「僕は、先に行ってる」
気を使ったのかは知らないが、神楽は言い残すと姿を消した。気が利く少年だ。
「話は聞いてる。狐さんが暴走してること。禅が話してくれた。でも、外に出てはいけないって見張られていたの。でも、いてもたってもいられなくて、外に出る隙を伺ってたんだよ」
「禅の奴……!」
本当に嫌な式神だ。
「さ、早く行こう。気づかれてしまう前に」
深世は凛とした目を向ける。そうだ、彼女は今から九尾の狐を鎮めにいくのだ。危険な場所へ赴くのだ。
(俺もしっかりしないとな)
碧斗は深世の手を取って走り出す。まるで駆け落ちしている気分だ。悪くない気分だった。いっそこのまま、深世と村を出られたらどんなにいいだろう。碧斗は妄想しつつ、足を速めた。




