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十、

「巫女の婚約者には決まりがあるんですか?」


 ちらと伊冴耶が言っていたような気がする。


「はい。巫女の許婚となる男は、舞の奏者となる者です。神事の際に、楽の音を提供できる者、という決まりはありますが、まぁ今の時代厳守するのは難しいでしょう。右京さんはたまたま笛の名手ですけれど。……気になるんですね。まだ、深世さんのことをあきらめてはいないと、オーラの色に出ています」


 本当、勝手に人の気持ちを読まないでほしい。


「でも僕は、影ながら応援していますよ。友達ですからね」


 悠陽は、ぐっと親指をたてた。


「……どうも」


 友達になった覚えはないけれど。まぁ応援されて嫌な気はしない。


「鬼隠し村関連の資料は、書庫にもありますから、いつでもお声がけください。だいたいカフェテリアにいます」


 珍しく司書っぽいことを言ったと思ったが、やっぱり図書館にはいないらしい。


 それから時間が経ち、午前一時を回った頃。碧斗はうとうとしかけていたが、何やら気配を感じて懐中電灯を傍らに照らした。


「うわぁ!」


 碧斗が驚いて声を上げると、悠陽はものすごい速さで壁際まで下がった。


「何やってるの、大人が二人で」


 呆れたように見ていたのは、神楽だった。相変わらず生意気な表情を張り付けている。切りそろえた濃紫の髪に水干姿だ。


「ぎゃぁぁぁ! 出たぁぁぁ雪狐!」


 悠陽は目を血走らせて叫ぶ。


「ちょっと静かにしてください。ここ図書室ですから」


 碧斗が言うも、悠陽の恐怖は止まらない。


「雪狐はこわいんですよう! 人を化かすんですから‼」

「化かされる方が悪いんじゃん。特に君たち二人は騙しやすい」


 かつての自分だったなら、悠陽の反応に全面的に共感できるが、今となっては慣れきってしまった。まぁ雪狐が厄介なのに変わりはない。


「なんで俺まで人数に入ってるんだよ。それより、どうしてここに。もしかして、図書館で夜な夜な起こる怪異の原因は君か?」

「違うよ。でも、それを確かめに今日は来たんだ。そしたら、ばかな大人が二人もいたってわけ」


 ばかな大人……否定できない。


「何か、心当たりでもあるの?」


 相手の挑発に乗ってはいけない。ここは冷静に対応することにする。

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