九、
そして夜が来る。碧斗は寒さで凍えそうになりながら、真っ暗な道を懐中電灯一つで歩いてきた。時刻は午後九時を回ったところだ。他に人影はさすがにない。
震えながら図書館に着くも、悠陽の姿はなかった。
(どういうことだよ⁉)
碧斗は苛々しながらスマホを取り出し連絡する。相手はすぐに応答した。
「もしもし……」
頼りない声に、碧斗は言う。
「まだですか。約束の時間過ぎてますけど」
「もしかして着きましたか! 今向かいます!」
通話が切れる。今から向かうとはどういうことだ。結局、碧斗はそれから三十分待たされるはめになった。
「何やってるんですか! 凍え死にますって!」
勘弁してほしい。昨日は熱を出したばかりだというのに。
悠陽は申し訳なさそうにしつつ言う。
「ごめんなさい。一人で待つのが怖すぎるので、碧斗くんが来てからにしようと思って」
「はぁ?」
ブチ切れそうになったがすんでのところで我慢する。さすが鬼隠し村住民クオリティだ。期待を裏切らない。
「とにかく、中に入って待ちましょう」
なぜ遅れてきたお前が仕切る? と思いつつ、碧斗は従う。
図書館のカウンターの影に、碧斗たちは身を隠した。それにしても寒い。
「あの。よかったらこれ。作ってきたんです。ハーブティーなんですが、温まると思います」
悠陽は小声でマグボトルを差し入れてくれた。
「ありがとうございます」
香りと温かさがとてもありがたい。溜飲が下がっていく。
「わざわざ二人分用意してきてくれたんですか」
「はい。お待たせしてしまったのでこれくらいは」
こわがりでへたれ気質なのが玉に瑕だけれど、良心はちゃんと持ち合わせているようだ。
それからしばし待ってみるも、今のところ図書館には何も変化はない。
「碧斗くん、そういえば昨日、郷土資料を見ていましたよね。村の歴史に興味があるんですか?」
「ええ、まぁ。人と違う人々が追いやられた地で、悲しい過去がある村だったんですね」
「村の由来については、伝説の域を越えないという見解も多いです。村人全員が能力を持っているわけではないですし。僕らみたいな能力者は、わりと秘密主義者が多いんですよ。村の外では能力をひけらかしたりせずに、静かに暮らしている方が多いです。でも、結局それが窮屈で、村に帰ってくる人も多いですけどね」
「なるほど。村に残っている人たちは、かなり個性と自己主張が強い人ってことに納得がいきました」
「え?」
「いえ、こちらの話です」
危ない。心の声が思わずもれてしまった。碧斗はごまかすように言う。
「まぁ村の外では、その方がいいかもしれませんね。大騒ぎになりそうですし」
「ええ、まったくその通りです。能力を声高に叫んでも、今の世の中いんちきだとか変人呼ばわりされて終わりです」
たしかに、村にいたほうが好き勝手できるだろう。碧斗は伊冴耶や清瀬を思い浮かべた。
悠陽は小声で続ける。
「能力を持つ人々が集まった村には、束ねる者が必要になったんです。それから代々、村から一人巫女を選出するようになり、村の秩序を保ったのだといいます。今では美しく神事をこなすことができる者、つまり舞がより上手な方が選ばれます。深世さんの舞も美しいです。でも歌世さんの舞には、本当に霊力が宿っていた。見る者の目を奪い、美しい時の中に閉じ込めてしまうくらいに」
悠陽は残念そうに言う。歌世は力を使い果たして亡くなってしまった。それから二年間、村には巫女がいなかった。村民たちの落胆ぶりが容易に想像できる。




