七、
「右京さんだって、僕は怖くて仕方がありません。だってあの人、式神使いの家系ですよ! 人ではないものを使役できるんですよ! この前みかけたとき、オーラの色もどす暗くて、どうしてあの人が、巫女の婚約者なんだろうって。前はそうじゃなかったのに。オーラの色もとてもきれいだったのに。あんな、作ったような笑みをする人じゃなかったんです」
「それは、大人ならば少しくらいあるでしょう。本音と建て前みたいな」
「違うんです! あの人はそれを越えています。言っていることと心の中がまるで違う!」
悠陽の剣幕に、碧斗は口をつぐむ。結局、みんな右京のことが好きらしい。元婚約者である歌世が亡くなってから、変わってしまったということか。
「深世さんもそうです。オーラの色が、村にいた頃と比べてだいぶくすんでしまっている。あの二人、本当に結婚なんてするのでしょうか。僕には、どうも愛し合っているようには見えません」
「やっぱり……」
なら、どうして。今流行りの契約結婚とかいうやつだろうか。それならば、遠慮なく阻止させていただきたい。
「僕は、碧斗くんのオーラを見て、仲良くなれそうだと思ったのに。友達、いないから」
「そ、そうですか」
血走った目で言われてもな、と碧斗はなるべく目を合わせないようにする。
「人の気持ちが分かってしまうのは、つらいことです。そのせいで、人間不信になってしまいました」
「はぁ……」
めっちゃ見てくる、と思いつつコーヒーをごくりと飲んだ。
「あのー、勝手にオーラの色を見なければいいんじゃないですか。俺のとか」
「見たくなくても視えてしまう。だから困ってるんです!」
どんっとテーブルを叩く悠陽。
「す、すみません。素人の意見でした……」
ふだんからストレスをため込んでいるタイプの人だ。何かの拍子で爆発してしまう。別の意味で厄介だった。理不尽だ。怒りたいのはこちらの方である。
しかし反論はしないに越したことはないだろう。面倒くさい。
「それでも、あなたは信頼できる人だと思います。少し、欲のオーラの色が強いですけれど」
「欲の色って……やめてもらえます、その言い方……」
どっと疲れが出てくる。
「とにかく、碧斗くんは僕にとって無害だと思います」
悠陽は落ち着きを取り戻したのか、ゆっくりと紅茶を飲むと口を開く。
「はぁそうですか」
とりあえず、碧斗はほっと安堵する。
「今夜、一緒に来てもらえますか」
「え?」
一瞬言葉に詰まり、碧斗は思い出す。そういえば、夜な夜な起こる怪異についての話だった。あまりに悠陽のインパクトが強すぎて失念しそうになっていた。
「そうですね。正体を突き止めないと」
それが碧斗の今回の仕事でもある。
「よろしくお願いしますね。こわいですけれど、僕なりに精一杯がんばるつもりですから。鬼隠し図書館司書として。年上として」
「年上って、そんなに変わらないじゃないですか」
「何言ってるんですか。僕はもう三十二歳ですよ」
「……」
思わず悠陽をガン見してしまう。
「またまたー、ご冗談を」
「冗談じゃないです。僕、童顔なんでよく驚かれるんですよ」
照れたように頭をかく悠陽。童顔なんてレベルではない。ふわりとした髪質、とろんとした目元、そして何より大人とは思えない臆病さと頼りなさ。ストレスをため込んでいる割には肌つやもいい。これで三十二歳とは、もう詐欺ではなかろうか。
(あ、そうか。この人仕事してないからか)
それから再び、一時間ほど。様々な愚痴を聞かされることになった。
「あー、すっきりしました! 碧斗くん、話を聞いてくれてありがとうございます。こんなにいろいろ話せる人は初めてです」
「そうですか。それはよかったです」
半分魂が抜けてしまった気分だ。こちらはまったくすっきりしない。ストレスフルだ。
(これも仕事だと思おう……)
碧斗はすっかり冷めてしまったコーヒーを飲み干した。




