六、
「実は、夜な夜な、図書館に何かが現れるんです。防犯カメラは、怪異が起こる時刻になると作動しなくなります。鍵もしっかりしめているはずなのに開いている。そして、図書館の床が濡れているんですよ。毎朝掃除するはめになるんですけどね」
悠陽は蒼白な顔をしていた。尋常ではないほどに。
「おかげで、子どもたちも大人もこわがって来なくなってしまうし、僕もこわくて図書館にはあまり近づかないようにしているんです」
「え、でも司書さんですよね?」
「はい」
「駄目じゃないですか、入らないと」
「怖いの無理なんですよ。さっきは碧斗さんがいたので、なんとか入れました」
「いやいやいや、仕事はしないと」
「どうしても本を借りたいという方がいない限り無理ですね。毎朝の掃除も苦痛で。仕方ないので、さっと入って、さっと終わらせてます」
「……」
雲行きがあやしくなってきた。嫌な予感がする。このまともそうな人も、実はやばい人なのではないだろうか。
(この人、毎日何やってんだろ)
優雅に紅茶を飲んでいていいのだろうか……。
「今、僕のことを軽蔑しましたね」
碧斗はぎくりとするも、平静を装う。動揺したら、そうだと言っているようなものだ。
「い、いえ。そんなことは思っていませんよ」
たれ目で優しげな瞳にじっと見つめられ、いたたまれない思いで碧斗はカップに口をつけた。
「嘘をついても無駄です。僕は、人のオーラの色が見えるんです。色の具合で人の気持ちがだいたい分かります。今、碧斗くんのオーラの色がくすみました。僕にどん引きしている証拠です」
「え!」
碧斗は思わず自分の体を見る。何も見えない。
「そ、そんなことないですって!」
「碧斗くんとは、いい友達になれると思ったのに」
落ち込んでしまった。碧斗はもう黙るしかない。
「うちは代々、霊能力者の家系です。能力って遺伝するらしいです。オーラだけではなく、幽霊も視えてしまいます」
遠い目をした悠陽が淡々と語り始める。怖い。
「僕は生粋の怖がりなんです。毎日見たくもない幽霊を目にするのは地獄です。誰もいない図書館に一人でいると、時々現れるんですよ。僕は怖くて怖くて外に出てるんですけどね……」
やっぱり図書館にいないのかい! と碧斗は思わず心の中で叫んだ。悠陽は遠くを見ていた目をじっとりと碧斗に向ける。心なしか血走っているように見えた。
(怖い怖い怖い怖い!)
碧斗は目をそらし震える手でカップを口に運ぶ。心を読まれている!




