二、
深世の実家の場所は知っていた。前に、ちらっと聞いたことがある。北関東の山間部にある、鬼隠し村。変わった村名だなと思い覚えていたのだ。調べたら、ちゃんとマップに載っていた。小さくひっそり載っているばかりで、特に目立った観光スポットでないようだが、温泉があるらしい。
(温泉がわいてるのに、観光地じゃないんだな……)
季節は二月半ば。とにかく寒さもひどい。道は凍っているし、辺りにも結構な雪が積もっている。
「ほんとこっちで合ってんのかな」
マップを確認しようとスマホを見遣ると、なんと圏外。さっきまで見られていたのに。
いつの間にか雪がちらついていた。あっという間に雪が景色を白く染めていく。風も吹き始めた。前も後ろも真っ白だ。
(え、なんで。ホワイトアウト?)
極寒の中で、じっとしていては凍死だ。
(なにこれひどすぎない? とにかく、早く村を見つけないと)
踏んだり蹴ったりとはこのことである。
碧斗はゆっくりながら向かい風を進む。顔に雪が張り付く。このままでは本当に凍ってしまう。
凶器のような風に耐えつつ進む碧斗の目に、赤い鳥居が映った。鮮やかな緋色が、白の景色に浮かび上がる。
(あの世の入り口かな)
碧斗は誘われるように鳥居に向かった。屋内に入らないと、本当に死ぬ。鳥居の向こうに風雪をしのげる場所があればいいけれど。
碧斗はやっとのことで鳥居にたどりついた。稲荷神社のようだ。狛犬ではなく狐の像が目を光らせている。
朱塗りの拝殿がまるで救世主のようにそびえている。
(この中に避難しよう……)
罰当たりかもしれないが、背に腹は代えられない。碧斗は拝殿の扉に手をかけた。
(鍵、かかっていませんように!)
碧斗は祈りつつ扉を開く。観音開きの扉は、音をたててゆっくりと開いた。
「失礼いたします!」
碧斗は一礼すると、一歩中へ足を踏み入れる。とたんに突風が外から吹き付けてきた。碧斗はすぐに扉を閉める。
「はぁ、死ぬかと思った……」
雪の嵐だ。おさまるまでここにいさせてもらおう。
「どうなってんだよ」
しかしここも相当寒い。拝殿内は薄暗く、がらんとしている。
(何も、ない)
拝殿というのは、こういうものだったか。
碧斗が首をひねっている時だった。ぼうっという音とともに、勝手に燭台に火がともった。