八、
歌世は、あまり元気がなかった。体力的にも、霊力を使うのはもう危ないのは目に見えて分かった。
伊冴耶が村に戻った冬のことだった。御神木の前で倒れている歌世を見つけ、伊冴耶は血相を変えて助け起こした。
花迎ノ儀が近いからと、祈りを捧げに行っている歌世が心配で、様子を見に来たのだ。
「鬼隠しの巫女なんてやめなさい。このままじゃ、あなたの体力が持たないわ」
村の御神木の前で、伊冴耶は歌世を支えながら言う。歌世は鬼隠しの巫女になることが決まっていた。そして――婚約者である右京との婚儀も、花迎ノ儀の後に、行われることになっていた。
「いいえ、伊冴耶。鬼隠しの巫女は小さい頃から、私の憧れだったの。あきらめたくない」
「何を言ってるの。今だって、倒れていたじゃないの!」
つい声を荒げてしまう。
「違う。ただ休んでいただけ!」
「嘘をおっしゃい! 雪の中で寝転がって休む人がどこにいるのよ!」
「ここにいるもん!」
「歌世のばか! 分からずや!」
「伊冴耶だって分からずやだわ! 私の気持ちをちっとも分かってない!」
はからずも幼い言い合いになってしまい、伊冴耶は落ち着けと自身に言い聞かせながら、一度大きく息を吐きだした。
伊冴耶だって知らないわけではない。歌世が小さい頃から鬼隠しの巫女にあこがれていたこと。それでも、命の方が大事に決まっている。
「このままじゃ、あなた自身が危険なのよ。花迎ノ儀になんて、耐えられない。辞退して。そして、霊力を封じるの。お願いだから」
「……ごめんなさい。そのお願いだけは、きけない」
歌世はまっすぐに伊冴耶を見る。そういう目をするときの彼女の意志はゆるがないこと、伊冴耶は知っていた。歌世は何とか自力で体を起こして立ち上がる。
「無理しないで」
「うん、分かってる。ありがとう、心配してくれて。花迎ノ儀だけは、絶対に成功させたい。右京さんにも、私の舞を見てほしい」
「歌世……」
「伊冴耶、約束するわ。花迎ノ儀が終わったら、霊力を封じるから」
それはすなわち、鬼隠しの巫女を辞退するということだ。巫女の役目は花迎ノ儀だけではないのだ。春夏秋冬、神事は行われる。そのたびに、霊力を消耗することになる。
「お願い、花迎ノ儀だけは、私にやらせてほしいの……!」
歌世の真剣で強い目に、さすがの伊冴矢も折れるしかない。
「分かった。本当に、花迎ノ儀だけだからね。それまで、私も全力でサポートする。八尾家に伝わる霊力入り特製薬、心を込めて調合するわ」
「ありがとう、伊冴耶!」
歌世はうれしそうに抱きついてくる。昔から、そうやって甘えてくるのだ。きっと彼女は伊冴耶の気持ちには気づいていないだろう。純粋に、親友だとしか思っていないだろう。でも、それで十分だ。彼女はもうじき、結婚するのだから。伊冴耶は、歌世の髪をいとおしくなでた。




