七、
伊冴耶は、歌世のように美しくて清らかな女性をこれまで見たことがないし、これからもないだろう。そのくらいに、伊冴耶は、彼女のことを尊敬していたし、一目置いていた。
歌世とはよきライバルであり、友達でもあった。小さい頃から仲が良く、高校も一緒で、隣町まで通っていた。
歌世に、想い人がいることは知っていた。二人と幼馴染の右京だ。小さい頃は、よく三人で遊んでいた。成長するにつれて、歌世は彼に恋心を抱いていったこと、それはそばにいた伊冴耶も感づいてはいた。
(二人を見ていれば分かる。相思相愛だもの)
小学校高学年から、高校卒業まで、長い時間をかけて自分の恋心と決別していった。歌世は大切な友達だったし、心から愛していたから。
「ちょ、ちょっと待ってください!」
碧斗は語り始めた伊冴耶の話を遮る。
「何? 今、とっても気持ちよく話していたのに」
「伊冴耶さんの好きな人って、深世のお姉さんの方だったんですか⁉」
「あら、いけない?」
「いけないってことはないですけど、清瀬さんの話では……」
「ああ、彼女は勝手に勘違いしてるのよ。早とちりなところがあるから」
「そ、そうですか……。でもてっきり俺も勘違いしてましたよ。伊冴耶さん、イケメン好きみたいですし」
「ええ、美しい人間は大好きよ。でも、歌世ほど美しい人は、きっともう現れないでしょうね……」
伊冴耶は、再び話を続けた。歌世は、小さい頃からあまり体は丈夫ではなかった。彼女が持つ霊力は、それはとても強くて、自身の体に大きな負担を強いていた。
歌世の能力は、言霊の力。彼女の言の葉には、霊力が宿っていた。歌世は、落ち込んでいる人や心が傷ついている人にたびたび優しい言葉をかけ、元気を与えていた。
彼女が唱える祝詞にも力が宿り、訊く人々の心を軽くした。妹の深世にもその力は宿っていたけれど、歌世の方が断然霊力は強かった。その強い霊力がゆえに、体が丈夫ではなかったのだ。
時に自分の言葉が諸刃の剣になることを知っていた歌世は、人に優しく、決して怒らなかった。
そんな歌世だからこそ、周囲からも好かれていた。次の巫女候補に挙がっていたほどに。
伊冴耶ももちろん、巫女は歌世しかいないと思っていたが、歌世の体力は少しずつ限界に近づいていたのだ。
八尾家は、先祖代々薬師の家系だった。一ノ瀬家とも懇意で、歌世のために霊力入りの特別な漢方を調合して渡していた。
伊冴耶は、薬剤師免許を取るために大学に進学した。少しの間、歌世とは離れてしまうことになるのが心苦しかったが、難なく卒業して国家試験に合格し、すぐに鬼隠し村へ戻って来た。




