五、
ずぶ濡れで震える碧斗を見て、清瀬はぎょっとしていた。
「どうか……一晩泊めてください……」
離れのプレハブ小屋に一度帰ったのだが、薬を調達できていないことを理由に禅から追い返された。鍵を閉められてしまい、入れない。パワハラもいいところである。
頼れるのはもうここしかない。藁をもつかむ思いで、民宿かまくらにたどり着いた。
「あらぁ、可哀相に。早くお入んなさいな」
清瀬が菩薩のように見えた。温泉で体を温めた後、部屋で毛布にくるまりながら、碧斗は死んだ目をしていた。
「村に来て何度死にかけたっけ?」
水の中で二度死にかけた。帰れば死ぬとも言われている。――もうこんな村嫌だ……。
「相手が悪かったわねぇ。伊冴耶ちゃんと深世ちゃんは、犬猿の仲なのよー」
熱いお茶を差し出しながら、清瀬は苦笑する。
「どうしてそんなに深世を嫌っているんですか」
「ほらーおんなじ人を好きになっちゃったから」
清瀬は肩をすくめる。
「深世の初恋の人……もしかして、婚約者の?」
「そうそう。伊冴耶ちゃんも深世ちゃんも、おんなじ人に初恋したらしいのよ」
本当に清瀬は何でも知っている。深世や伊冴耶を虜にする男とは、一体どんな男なのだろう。
「でもねぇ。それだけじゃない気がするのよねぇ」
「というと?」
「んー私もそこまでくわしくは知らないんだけどもね。女の勘っていうのかしら。あの二人の間にはもっと深くて暗い闇がある気がするのよ」
「こわいこと言わないでくださいよ……」
可憐でかわいらしい深世はともかく、ただでさえ伊冴耶は平気で人を殺しかねないのだ。碧斗は身震いをした。
「女どうしのことには、あんまり首をつっこまないほうがいいと思うけどねぇ」
清瀬がそう言うのだから、それが正しいのかもしれない。
(それでも、何とかして伊冴耶さんを説得しないと!)
仕事を途中で投げ出すわけにはいかない。今度こそ殺されるかもしれないけれど。
村には診療所が一軒と、売店が数軒ある。薬局は診療所を通り過ぎ、売店の裏手、小道を辿った先にあるという。薬局は代々、八尾家が経営しているらしい。
翌日、碧斗はさっそく薬局へと足を向かわせた。村の唯一の小さな診療所を通り過ぎると、赤い屋根の店が見えてきた。
昭和の雰囲気漂う売店の屋根には、『おにかくしスーパー』と書かれてある。清瀬に教わった通り、店の裏手に周ると、枯れ木に囲まれた小道がまっすぐに伸びていた。
「なんで薬局がこんな隠されたような場所にあるんだよ」
呆れながら道を行くと、木造建築が姿を現した。築百年は経っていそうな平屋建てだ。枯れた蔦が幾重にも巻き付いている。
両開きの扉のガラスはすりガラスになっていて中の様子は見えない。オレンジの怪しげな光がもれている。扉の脇には『人魚堂』と書かれた、これまた年季の入った木の看板が掛けられていた。




