三、
「鈍い男ね」
黒髪を艶っぽくかきあげながら、ため息まじりに謎の美女は言う。
「俺を引きずり込んだのはあなたですか」
「そうよ」
「そうよ、じゃないですよ! 死ぬところだったんですからこっちは!」
「だから助けてあげたじゃない。私の歌声を聞いていいのはイケメンだけ。故に、君のことは生かしてあげたの。喜びなさいな」
にっこりと笑む仕草も美女なので妙に色っぽい。
「喜べと言われてもうれしくないですし」
「何ですって? 私の術を解いてあげてもいいけれど?」
「すみませんでした」
おじぎ九十度。まだ死にたくない。溺死とか本当に嫌だ。
「あの。もしイケメンじゃなかったらどうなってたんですか?」
「沈んでいたかしらね」
相手はこともなげに言ってのけた。やっぱりこの村、こわすぎる。碧斗はイケメンでよかったと胸をなでおろす。
「しかし君、顔はいいのに、何だかいまいちよね。もったいないわ」
その台詞、この村に来てから何度言われただろう。鬼隠し村の人たちは、なぜか碧斗に冷たく当たる……。
もう碧斗のガラスのハートは割れかけていた。
「もしかしてあなたが、伊冴耶さんですか?」
「そうよ。苗字は八尾。君は、この村の人間じゃないわね。なぜ私の名を知っているの?」
「知り合いを訪ねて来たのですが、わけあって少しの間この村に逗留することになりまして。右京さんのところの式神の手伝いをすることになったんです」
かなり簡単に説明をした。
「ああ、あなたが……」
熱っぽく、伊冴耶はつぶやく。知っているのかもしれない。この村ではなんでもかんでも筒抜けなのだ。
「それで、私に何の用?」
「薬をもらってきてほしいと言われました」
何の薬かはきいていなかったけれど。
「そう」
伊冴耶は興味なさげに返事をしてから、碧斗をじっと見つめた。
「な、何ですか?」
だんだん寒くなってきた。息ができるとはいえ、ずっと水の中にいれば体も冷えてくる。
「君は、私のことがどう見える? 人魚だと思う? それとも――」
伊冴耶は甘えるように問う。
「妖怪」
碧斗が即答すると、伊冴耶は無言で指を鳴らした。するとたちまち口の中に水が入ってきて――碧斗は気を失った。




