一、
碧斗はこれから約一か月間生活することになる部屋に案内された。深世が住む屋敷の離れに当たる場所だ。プレハブ小屋で、八畳の部屋に、トイレ、バス付だった。
(なんで面接通ったんだろ)
よく分からない。
そして翌日、さっそく不機嫌を顔にはりつけた禅がやってきた。
「しっかり働けよ。途中で音を上げて逃げ帰ってもいっこうに構わんが」
「……やるよ。この際仕方ない」
「……」
禅は唇をかたく引き結んで押し黙る。
もっとかみついてくるかと思ったが拍子抜けだ。
採用が決まったからには責任を持って仕事はするつもりだ。一か月も村にいれば、東京に帰っても支障はないだろう。深世と直接かかわる仕事なんてしないだろうし、その間に、深世への未練を断ち切れれば一番いい。
(それでも死ぬと言われたらあきらめよう)
碧斗は遠い目をしつつ思った。
「まず、お前には伊冴耶様のところに行って、薬をもらってきてもらう」
「なんだよそれ、ただのお使いじゃん」
「……」
禅はまた答えない。
(何なんだ一体)
こちらはやる気になっているのに調子が狂ってしまう。憎まれ口を叩いてくれたほうがいいってものだ。
「しかし、伊冴耶様はとても気難しいお方。とある理由で、こちらからの注文を受け付けてくれぬ。彼女の調合する漢方は、とてもよく効くのだ」
「ああ、そういうことか。説得してこいということだな」
「了解を得るまでは帰ることはゆるさない。場所はこのメモに書いてある」
「いきなりパワハラかよ」
禅は答えずに去ってしまった。
しかし、とある理由とはなんだろうか。
(とりあえず行ってみるしかないか)
碧斗はとりあえずプレハブ小屋を後にするのだった。




