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四、

「はい。……正直に話します。俺は、深世さんとお付き合いをしていました。この村に来たのも、彼女を連れ戻すためでした。でも、話をして分かったんです。深世さんにとって鬼隠しの巫女は大切な役目で、村にとっても、大切な風習だということ。彼女が決めたことなら、応援したいと思ったんです」


 心にもないことを言う。


「東京に帰ろうかと思ったときに、この募集のことを知りました。俺も、彼女の夢を応援したい、そう思い立候補させていただきました」


 完璧だ。問題は、深世の元カレという事実がどう作用するかだ。隠していたとしても面接では勝ち残れない気がした。これは賭けだった。一か八かだ。


 右京と呼ばれた男前は、うなずきながら話を聞いてくれている。少しも動じることがない。碧斗はさらに続けた。


「民宿かまくらに宿を取らせてもらっているのですが、鬼隠し村ってとてもいいところですね。少し不思議なところがあって、とても興味深いです。社会勉強にもなりそうです」


 最低最悪だ、変な人ばっかりいるし、雪狐怖ろしいし、という心の声を完全に隠す。


 右京は試すように、無言で碧斗を見ていた。碧斗も負けじと視線をそらさない。誠実さを込めて、見つめ返す。


 たった今、のたまったことはすべて嘘だ。応援したいなんてまったくのでっちあげだ。深世を助けるふりをして、二番目の男から本命に返り咲くため。二人の幸せを取り戻すため。深世と一緒に東京に帰るためだ。そのためならば、道化にも嘘つきにもなることを厭わない。


「右京様、だまされてはいけません。絶対に嘘に決まっています! 隙あらば深世様に近づこうとする口実に違いありません!」


 もう黙れ、と言いたくなるのをすんでのところで押さえる。


「いいえ、俺は心から、深世さんの力になりたいと思っています」


「君の気持ちは分かった。それじゃあ、私から最後に一つ質問していいだろうか。碧斗くん、君の職業を教えてもらえるかい?」


 あ、と碧斗は硬直する。履歴書なしの面接だ。訊かれても当然だけれど、すっかり失念していた。


 碧斗は気を取り直して言う。


「劇団に所属して、舞台俳優をしています」

「舞台俳優か。いわゆる、有名な劇団ではないようだね。でなければ――こんなところまで来るわけがない。忙しいはずだものね。君は相当暇な役者なのかな」


 碧斗は一瞬で凍り付いた。今、この人は何を言ったのだ。


 失礼なことを言っているはずの右京はにっこりと微笑んでいる。


 中学生から演劇に目覚め、ほとんどの舞台で主役を務めた。大学でも演劇サークルに所属していたし、卒業してからはプロの劇団のオーディションを受けて、劇団員になった。まだ見習いのような存在だけれど、いつか、大舞台の主役をはれる役者になるのが人生の目標だった。


「はい、確かにまだまだ下っ端です。でも、俺なりに夢があって、理想に向かって努力し続けたいと思っています」


 碧斗は心が重くなる中で、答えた。指先が冷たくなる。自分の立場について、こんなにはっきりと言われたことはなくて、正直怖かった。


「君が、出世できる保証はない。成功できるのは一握りだろう。才能と運に恵まれているのなら別だが。そうも、見えない。――よくそれで、深世を連れ戻しにきたと言えたね。本当に、彼女を幸せにできると思ったのかい?」

「それは……」


 答えられない碧斗に、右京の目が鋭く細められる。元々切れ長なのだが、意味深に細められるととてもこわい。言い知れないどす黒さを感じる。


「君が、本当に純粋にうちの使用人になりたいというのなら、ここで誓ってくれないか。深世のことは好きではないこと。深世とは今後一切、かかわりを持たないことを」


 碧斗はぐっと手に力を入れた。嘘は、つけると思っていた。深世のためならば。でも、自分が深世を求めることに、彼女の幸せがあるのかどうかと問われれば……自信が持てない……。深世の幸せのためならば、嘘はつけるけれど――。


 禅がざまぁみろというように、口の端を上げていた。


「……白状します」


 碧斗は強く顔を上げて、右京を見る。


「深世への想いがないというのは、嘘です。なので俺は、心にもないことを誓うことはできません」


 これで、いい。きっと落ちるだろう。何よりも、深世の幸福をおざなりにしていたことに気づかされた。やっぱり、深世のことはあきらめるべきだったのだ。


「分かりました。面接は以上です。ありがとうございました」


 右京の優しい口調が末恐ろしかった。

 碧斗は屋敷を後にする。面接を終えた人々が、半分魂を抜かれたような顔をして帰っていく理由が分かった。同じように心をえぐられたからだろう。


 本当に、この村に来てからろくなことがない――。

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