三、
碧斗は身支度を整えると、早々に深世の屋敷へと向かった。
そして、碧斗の目に映ったのは、屋敷門から続く行列だった。半分はげちらかした、いかにも下心がありそうな中年男性、定年退職を迎えたばかりというような、町内会長風の初老の男、スマホをいじりながら寒そうにしている、何を考えているのか分からない地味な青年……顔ぶれは様々だが、共通しているのは皆、『男』という点だ。
村の住民だろうか。だとしたら不可思議な能力を持っていてもおかしくはない。
(村民、個性強すぎんだろ!)
碧斗は半ば呆れつつ順番を待つ。
彼らは皆、面接に並んでいるはずだ。行列の最後尾に並び、碧斗は胡乱な目をしながら人々を眺めていた。
間違いない。この男たちは絶対に深世めあてだ。醜い下心を持っているに違いない!
(だがしかし残念だったな! 深世を振り向かせるのはこの俺だ!)
誰よりも下心という闘志を燃やしながら、碧斗は順番を待った。しばらく待つことになるかと心の準備をしていたのだが、五分と経たずして、面接を終えた人々がそそくさと屋敷から出て行く。彼らの表情はかたく、真っ青に見えるのは気のせいだろうか。
そうして、小一時間ほどで碧斗の順番が回ってきた。着物姿の女性に案内され、とある一間に通された。紅の絨毯が敷かれた部屋には椅子が一つ置かれ、向かい側には重厚な机と椅子が二つ。座していたのは自称式神である厨二病禅、そしてもう一人は見覚えのない男だった。
「失礼します」
碧斗は丁寧に礼をして部屋に一歩踏み出す。
「貴様!」
禅がガンを飛ばして来るのを完全に無視して、碧斗は素知らぬ顔で椅子の前に立つ。
面接官が禅だけならばかなり不利だったが、見たところ隣の男の方がメインのようだ。縁の無い眼鏡をかけて、黒髪をオールバックにしている。高そうなスーツに身を包んでいた。
いかにも資産家の息子かつ青年実業家といった風だ。神経質そうだが気品を漂わせている。しかも端正な顔立ちで、年上の奥様方に大変もてそうだ。茶道や華道をたしなんでいても絵になりそうだった。
面接に参加しているということは、一ノ瀬家の親族かもしれない。深世とはまったく似ていないけれど。
「天沢碧斗といいます。よろしくお願いします」
あくまで、好青年として碧斗は一礼した。完璧だ。下心なんて少しも感じさせないさわやかさである。
「こちらこそよろしく。どうぞおかけください」
見た目とは裏腹な面接官の穏やかな口調に、碧斗は胸をなでおろしつつ席についた。
「右京様。こいつは深世様をたぶらかすとんでもない奴です。深世様を村から連れ出そうとしたのですから!」
がたんと席を立って、禅は碧斗を指さした。
面接官である男の表情は変わらない。
大丈夫、暴露されることは想定内である。碧斗はしっかりと顔を上げると言う。
「深世さんとは、同じ大学でした。社会人になってからも、親交があります。実は、深世さんから結婚するという連絡をいただき、驚いてこの村に来たんです」
社会人……とはいえ、実際は底辺劇団員だけれども。
「嘘をつけ! お前は巫女様に未練たらたらの昔の男だろうが!」
「ほう」
右京は興味を引かれたようだ。これだ、これを待っていたのだ。あんな人数の面接をかいくぐるには、インパクトが必要だ。
(ありがとよ、厨二式神)
碧斗は心の中でほくそ笑んだ。




