二、
「何だかどっと疲れが……」
民宿かまくらの部屋をもう一晩借りて、碧斗は布団に寝転んだ。
佑は言っていた。運命はすぐには変わらない。しばらくは帰らないほうがいいと。
失恋のショックから立ち直れないうちに、死を予言されるなんてさんざんである。この奇妙な村に来てからというもの、ろくなことが起こらない。
「しばらくっていってもなぁ」
民宿に連泊するにはそれなりにお金がいる。
何度も言うようだが、彼女が初恋の人に走るという衝撃的な失恋をしたばかりで、満身創痍で考えるのはかなりしんどい。勘弁してほしい。
「ちくしょう……」
泣きそうになってくる。枕に顔をうずめたときだった。
「お邪魔します」
「……!」
清瀬がおしげもなく襖を開ける。半泣きだった碧斗はすぐには顔を上げられなかった。ので、寝たふりをした。
「あらぁ、寝ちゃったの。電気もつけっぱなしで」
清瀬は、わざとらしく続けた。
「落ち込んでたって、何も始まらないよー。これ、置いとくから気が向いたら、ね」
清瀬は部屋を出て行った。狸寝入りがばれていたばかりか、振られて落ち込んでいるということも知られている。
(もう本当に嫌だ……)
プライベートも個人情報もあったものではない。
清瀬の気配が完全に消えた後で、碧斗はそっと枕から顔を上げた。視線の先、畳の上には紙きれが一枚置かれていた。布団から手を伸ばしてけだるくつかむと引き寄せる。
『求む、式神の右腕!』
墨文字の見出しを追って、碧斗はがくっと首を落とした。かなり手作り感あふれるチラシだ。
式神、といえば禅とかいう厨二野郎がいた。もしかしてこのチラシ、奴が作ったのだろうか。
「式神だから、文明の利器を知らないんだな」
ふっと意地悪く笑う。失恋してから、どんどん性格が悪くなっている気がする。
「それに何だよ、式神がバイト募集って」
あのいけ好かない顔を思い出すと、やさぐれた心がさらに研ぎ澄まされる。碧斗は苛々しながらも続きを追った。
『二月二十日~三月二十日、花迎えの儀までの間、式神稼業を手伝ってくれる方、一名を募集します。忠誠心の厚い方、大歓迎。一日八時間労働。ただし、巫女様の言いつけ等により、勤務時間は加算される場合があります。不定休。日給八千円。残業手当あり。住み込みで働ける方、朝夕食事付き。体力に自信のある方なら男女不問』
「これだ!」
碧斗の目が輝き出す。これはリベンジのチャンスかもしれない。あの式神の下で働くのは癪だが、この際仕方がない。
深世を連れ戻すためならば、例え火の中水の中! 二番目に好き、から本命に返り咲く可能性が少しでもあるならば、やってみるしかない! 何より、まだ深世のことが好きなのだから。
とたんに元気になった碧斗は続きを追う。
「なになに……希望者は一ノ瀬家へお越しください。面接を致します。服装自由、履歴書は不要です」
履歴書不要とはありがたい。手間が省ける。面接日はちょうど明日、午前十時からとある。
「よし。明日に備えて、今日はもう寝よう」
碧斗は即、布団を被った。




