第七話 田中賞
草原に立ち昇る煙。草原に立ち尽くす俺。
まさかこんな事になるとは……。って、やったのは俺じゃねぇけど。
やった当の本人は、さっきのポテチを食っている。呑気だねー。あんなことしていて。君の神経を疑うよ。
「おい、マッシュ、これ大丈夫なのか?」
「ん、ああ、うん」
何だそのハッキリしない返事は!? 恐らく大丈夫じゃないんだな。
まあどうせゲームだし人殺しても大丈夫……なのかなぁ。やっぱりいけない気がする。
「おい、海星、もう殺人なんてすんなよ」
「は? いや、生きてるだろ。序盤とはいえボスだぜ。流石にこれぐらいで死ななかったらいいのにな~」
いやお前の願望じゃねぇか! うっすら後悔してるだろ!
とツッコミを(心の中で)し終わった後、マッシュが話しかけてきた。
「多分、いや絶対死んでます。このゲームの序盤のボスには、それぞれ"弱点"なるものが設置されていて、そこを攻撃すると一撃で死にます。一番最初にゴリラを倒した筈ですよね? ソイツは額が弱点で、今の盗賊団の幹部のなんとかは、バイクに槍を投げると木っ端微塵に吹き飛びます」
いやさり気に恐い事いうな! 木っ端微塵て。
それにしても、マウンテンゴリラを倒せたのは弱点を攻撃したからだったのか。別に俺が特別強ぇ訳じゃなかったのな。ガッカリだよ、全く。
つーか直也の弱点がバイクって、アレ弱点って言うのか? どっちかっつーとバイクの弱点だろ。
「ま、そーいうことらしいから、早いとこ行こうぜ」
「いややっぱお前反省の色0!?」
「馬鹿野郎ッ!」
「ぐ、ぐふぇ」
俺は突然海星に殴られた。
そうか、そうだよな。後悔してない訳ないよな。
場を和ませようとした一言だったんだよな。
ごめん、俺親友なのに何も判っちゃいなかった――。
「あのバイク壊しちまった事を反省してねぇ訳ねぇだろッ!」
「いやバイクかよ!」
ふざけんじゃねぇ! なんかクサい台詞吐いちまったじゃねぇか! すげー恥ずかしい!
「全くだぜ……俺様の大切なバイクをぶち壊しやがって……!」
「そうだそうだ……え?」
突然、煙の中から声がした。
ハッとし、後ろを振り向くと、そこに立っていたのは――。
「バ、バイ人!?」
「るせー、直也だ。何だ、バイ人って」
バイ……直也、お前は木っ端微塵になったハズじゃ……!
おかしいと思いマッシュを見ると、眼を逸らされた。うん。しっかりこっちを見ようか。
「お、お前はアレで死ぬ筈じゃ……」
珍しく海星も驚いている。
そしてこう言った。
「なんでお前なんだよォ! バイクが残ってたら良かったのによォ!」
「いや嘆くとこじゃねぇ、そこ」
直也が丁寧にツッコむ。
殺されかけたってのに随分冷静だね。
「とにかく、俺様があの程度で死ぬわけねぇだろ。ふざけてんのか? つーか結構痛かったし。ほら見ろ、所々怪我してるだろ」
確かに結構な量の血が流れている。
つーか何でそんな冷静なの? マジでびっくりするんだけど。
いや逆にブチ切れられても困るけどさ。
「まあ良かったじゃねぇか。生憎、俺も戦う元気は余り残ってねぇ。見逃してやるよ。だが、てめーらはブラックリスト逝き確定だ」
「ブ、ブラックリスト逝き……?」
「そうだ、盗賊団Xのブラックリストだ。そこに載ったヤツは、死ぬまで命を狙われる。また、死んでも尚、死体に小便とかかけられる」
「なんだそれ!? 別に死んだんだからよくね!?」
コイツ、意味分からん……。
直也は、せいぜいそのポテチでも食って待ってるんだな! と、良く分からない捨て台詞を吐いて去って行った。何はともあれ、一件落着だ。いや、でもこの展開は「一難去ってまた一難」になりそうだな。
俺たちはロクに休憩もせずにアンベッグに向かった。嘘つきマッシュによると、Xは追っ手を結構早く送ってくるらしく、早めに宿屋で休んだ方がいい、とのことだ。
信用はあまり出来ねぇけど、俺も草原で休むよりは多少大変でも宿屋でゆっくり休む方がいい。だからその考えに乗った。
しばらく歩いて、街が近くに見えてくると、海星が呟いた。
「もう、ゲームはクリアするまで止めれねぇし盗賊に命狙われるしで散々だよなー」
「え!? 今……なんて!?」
急に驚くマッシュ。確かにゲーム止めれねぇのは辛いけど、そんなに驚く程か?
尻餅ついて、手に持っていたポテチ3袋落とすほど。ってかポテチ持ちすぎ。海星もさっき食ってたし。好きなの?
「だからー、ゲームクリアするまでセーブとか一切出来ねぇの。……プログラムのお前に言っても分かんねぇと思うけど」
「いや、分かります。……それはいわゆる"田中賞"を受賞した、という事なんです。……とても名誉であると同時に、とても危険な。それこそ、命を落とすかもしれない程の」
…………え?
更新遅れてしまいました(汗 すみません。
ちなみにブラックリスト逝き、の「逝き」は誤字ではありません。