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『乙女モード』全開☆のオレと、踊るプリンシパル  作者: 千園参
第1話 You can't remember 《  》 -あなたは『  』を記憶できない-
3/30

Part 3

今作を書いていて思うのは、躍動するバトルものを書くよりも、人と人とが会話をする群像劇的な世界観の方が、私に向いているのかもしれないと思いました。

それでは楽しんでいってください!よろしくお願いします!!

「うるさい!貴方にいまさら話すことなんて何もないわよ!このバカチン!変態!!」

 そう言うと彼女は、オレの顔面を目掛けて、強烈な、鮮烈な、激烈な、熾烈な、烈烈な、鞄アタックを炸裂させた。痛いすぎるのなんのと。

「ぐふぅ!」

 オレが吹き飛ばされている間に、絵凪には逃げられてしまっていた。絵凪を完全に見失ってしまっていた。


 頬を押さえながら、頬をさすりながら、ながらながら、立ち上がると、身体を起こすと、すぐ後ろには友人の黄滝芳哉おうたきよしやが立っていた。

 こいつは茶髪の中の中といった顔立ちの男。もう一味くらいあれば、もう一押しくらいあれば、もうもうがあれば、もうそれはもうイケメンの部類に入りそうなものなのだが、そのもう一味がないため、そのもう一押しがないため、付け足すものが何もないため、一皮剥けることができず、何も剥けることできず、ただただ燻っている男である。

「あはは、見事なビンタを食らったもんだな」

 そしてそんな三枚目な男が笑いながら、話しかけてきた。

「笑い事じゃないっての。超痛いんだからな。お前も経験しとくか?オレの鞄アタックなら、いつでもお見舞いするぜ?」

「遠慮させてもらうよ」

 黄滝は即答で断った。



 予定では、オレの完璧なまでの作戦では、絵凪と放課後を過ごすはずだったのだが、この日は黄滝と共に下校することになってしまった。どうしてこうなってしまったのか。何故こうなってしまったのか。一体全体何体が起きたのか。

「お前、絵凪って知ってるか?」

 せっかくなので、どうせなので、ついでなので、黄滝に彼女の存在を尋ねてみることにした。

「お前なに言ってんだよ。あんな別嬪さんだぞ?知らない奴はいないだろ」

 と、知っているのは当たり前かのように、当然のことのように、まるで今の総理大臣の名前は何かと聞かれたかのように、答えた。答えてくれた。それに対して---

「オレは絵凪を知らないんだ……」

 そう言うと、そう返すと、そう言い返すと。そう返答すると、そう回答すると、黄滝は隕石でも降ってきたのかと言うほどの、明日世界が滅んでしまうとでも言われたほどの、衝撃的な顔をしていた。オレはこの顔を一生忘れない自信がある。自信だけはある。絵凪のことは覚えていなくとも、この顔は覚えていられる自信がある。

「マジか!?お前、それは人生損してるぞ!」

 そしてオレの両の肩をガッシリと、ガッチリと、ギッチリと、ギッシリと、グワッシリと掴むと、掴むというかもう捕まえられているの間違いかもしれないのだが、両の手でロックすると、固定すると、その勢いのまま、勢いそのまま、前後左右に、縦横無尽に、右往左往に、激しく揺すりながら、激しく揺らしながら、激しく激しいながら、真剣な顔で訴えかけてきた。

「そんなにかよ。うーん。一体全体何体なんだ絵凪……」

 黄滝の反応が尚更、尚のこと、彼女のことを意識させることとなった。それからは他愛もない会話を繰り返したところで、

「それじゃ」

 と、黄滝が手を上げ、分かれ道でオレと分かれた。

「おう、また明日な」



 黄滝と分かれた後は、スーパーマーケットで妹からスマホで送られてくる食材や生活必需品を購入して、家に帰った。帰宅した。

「ただいま」

 アパートの鍵を開け、家に入ると、いつものようにエプロン姿の瀛が出迎えてくれる。お出迎えにやってくる。

「おかえりなさいまへ、お兄ちゃん!」

「お前は相変わらず可愛いな」

 元気みなぎる妹に対して、いつものように返す。返し返す。決して返してはいけないのは手のひら。すると、瀛は可愛らしく、そしてわかりやすく顔を赤らめてくれる。本当に可愛い妹だと思う。

「今日もお疲れのお兄ちゃんには、お風呂が沸いていますですよ?」

 と、瀛が可愛らしく、お風呂へと誘うので、持っていたエコバッグを瀛に渡し、お風呂に入ることにした。お言葉に甘えることにした。お言葉が甘えることにした。

「あ"ぁー」

 湯船に浸かると、思わず声が漏れてしまう。これはオレだけだろうか? いや、きっとオレだけではないはずた。お風呂には、湯船には、浸かったものの声を引き出す、引き出させる、何かがあるのではないだろうか?


 そして湯船に浸かっている間に、湯船で100秒を数える間に考えることは1つしかない。もう1つしかない。ここまで来たら1つしかない。口にするまでもなく、口にする必要もなく、言うまでもなく、言わなくてもわかる、というか、言わなくてもわかってくれ、そう絵凪のことだ。

 結局のところ鞄アタックで、何も知ることはできなかったが、何も得ることはできなかったが、彼女が何かを隠していることは明白である。明らかである。わかりやすすぎるほどにわかりすぎる。

 彼女は一体全体何体、あの潤んだ瞳で、あの氷の奥に秘められた眼で、何を見てきたというのだろうか。何を感じてきたのだろうか。オレは知りたい、彼女のことを。

 でも、それでもどうしてこんなにも絵凪に惹かれるのだろうか。絵凪に魅了されているのだろうか。だろうかだろうかだろうかだろうか。おかしくないか? 初対面だというのに、初対面の相手に、ここまで気になるものなのだろうか。確かに一目惚れと片付けてしまえば、それまでなのだが、


「本当に、ただの一目惚れなのかね?」

 湯船で顔をジャブジャブと、シャブシャブと洗い、お風呂を出た。

 お風呂を終えると、瀛が晩御飯を丁度テーブルに並べているところであった。

「手伝うよ。お、今日は生姜焼きか。この調子なら、料理人になれるな!」

「ありがとうなのです////」

 なんだその反応は、可愛すぎないか!?この子は天使なのか!?天使じゃないとしたら、天使の生まれ変わりで間違いないだろう。転生したら天使だった、こんな感じだろうか? 将又、転生したら天使だった、かもしれない。いや、同じではないかと。こんな天使をイジメたクソ野郎共はどう考えても弁明の余地などなく地獄行きだな。

 晩御飯を終えると、晩御飯を食べ終えると、皿洗いはオレの仕事だ。後片付けはオレの仕事だ。食器を全て洗い終えると、自室のベッドで横になった。

 明日こそは何が何でも、何でも何が、絵凪の隠している秘密を聞き出してみせる。聞き出して見せようぞ。そう心に決め、そう覚悟を決め、そう気持ちを込めて、心を込めて、眠りについた。





「なんだ!?身体が変だ!!声も……変じゃないか!?オ、ワタシどうしちゃったんだよ!!」

 慌てふためく『ワタシ』は鏡の前に立ち、自分の顔を見た。しっかりと見た。この目で見た。この両の目で見た。そこには見慣れたオレの顔ではなく、見知らぬ美少女の、ワタシの顔が映し出されていた。

「なんなんだよこれ!!!!」






 5月12日---

 その時、パッと目が覚めた。目が冴えた。覚醒した。これはまた随分と懐かしい、いや、懐かしくもない。懐かしいわけがない。

 何故ならこれはオレ自身が2年生を控えた、まだギリギリ1年生だった春休みに体験したことだからだ。まだ2ヶ月程度しか経っていないのだから、懐かしいと言うにはまだ日は浅いだろう。浅すぎるというものだろう。

 あの体験はどうしようもなく、とてつもなく、なくなくなく、面倒なことに巻き込まれたものだなと、今振り返ってもそう思う。ハイライトしてみてもそう思う。そしてこの話を誰に話しても、どこで話しても、どのタイミングで話しても、信じてくれる人はそういるものではない。いるわけがない。

「嫌な夢を見てしまったな……」

 洗面所で顔と、嫌な思い出を洗い流した。

「さて、行きますか」

 着替えを済ませ、鞄を持ち、玄関に向かう。

「いってらっしゃいまへ!」

「んじゃ、留守番、気をつけてな」

 こうして学校へ向かう。

 嫌な夢を見て、目覚まし時計よりも、早く目覚めたせいか、まだ眠気が残っており、やや眠気が残っており、大きなあくびが出てしまった。飛び出してしまった。解き放たれてしまった。そしてその姿を華村に見られてしまう。

「もう朝からだらしないなー!」

 すかさず、声をかけてきた。

「あくびぐらい見逃してくださいよー」

「ダメですー!」

 オレの返答を、返事を、食い気味で跳ね返した。打ち返した。

 そしてここからは他愛もない会話をラリーしたところで、キャッチボールしたところで、キャッチアンドリリースしたところで、学校に到着した。

 ロッカーから上靴に履き替えていると、隣のロッカーから上靴を取り出す、それはそれはとても可愛い、可愛らしい、容姿端麗という言葉がよく似合う、容姿端麗という言葉を我が物としたような、歩く容姿端麗といったような、容姿端麗が服を着て歩いているような、黒髪ロングヘアの女子生徒の姿を捉えることになった。

 そのあまりの可愛さに、オレは完全に両の眼を奪われてしまっていた。彼女に特別な魅力を感じたからだ。でも、それでも、おかしい。隣のロッカーなのにどうして、オレは今の今まで彼女の存在に気付かなかったのだろうか。

 隣にいた華村に彼女のことを尋ねる。隣のロッカーのことだけに。

「なぁ華村、あんな可愛い子、うちにいたっけ?」

 オレの問いに華村は、

「私も初めて見る子だ。転校生かな?」

 と、首を傾げる。

「物覚えのいい優等生の華村様が覚えてないってことは、大したことない奴ってことなのか」

「いやいや!そんなこと一言も言ってないからね!」

 こんな会話で今日の学校生活が幕を開けた。



 3限目と4限目の間の休み時間のこと、オレは校内放送で職員室に呼び出されていた。呼び出しを食らっていたという方が校内放送っぽくて良いかもしれない。適切な言い回しかもしれない。

「失礼します」

 オレが職員室に入ると---

「お、来たか。こっちだ」

 と、神月先生が手招きして、自分の机に呼び寄せた。

「オレ、何かしました?」

 何か言われる前に、こちらから先手を取り、先手を打ち、話を切り出しみると、神月先生は、

「今日はまだ、まともみたいで、ホッとしているよ」

 やれやれと、肩の荷が降りたかのように言う。

「いくらオレでも、それは失礼ですよ?オレはいつも、まともじゃないですかね?」

 そう言うと、そう答えると、そう返すと、そう返事すると、そう返答すると、お前は何を言ってるんだと言う、心の声が今にも聞こえてきそうな、というかもう口では言わずとも素振りがそう言い放っていた。

「お前はいつもボーッとしている奴だが、どう考えても昨日、一昨日のお前はいつも以上にボーッとしていたぞ?過去には華村の一件もあったしな。また異変に巻き込まれたかと心配したんだぞ」

 華村の一件、それは説明が面倒なので、のちに語られるであろう、語られるはずの、多分語ると思う、おそらく語ると思う、『The strength of the glasses』(眼鏡の強度)を、ご参照くださいませ。

「おい、美崎。特大のネタバレはやめろ」

「すんません…」

 すると、神月先生は、ふぅと一息ついて、

「まぁ異変に巻き込まれたわけじゃないなら、よかったよ。話はそれだけだ。もう行っていいぞ」

 と、しっしっと、今の今まで、つい先ほどまで、手招いていたというのに、今度は、今度という今度は手で払うような動きをしながら言った。

 神月先生はこう見えても、とても頼りになる大人の女性で、オレや華村も一時期はそれなりにお世話になったのだ。そう、ついさっき、つい先ほど、先生が言っていた『異変』絡みのことである。

 その辺りの話は追々、話していくとしよう。



 そこからは順調に授業を受け、あっという間に昼休みになっていた。

「さて、今日も屋上で食べるか」

 瀛の手作り弁当を片手に、屋上へとやってきた。屋上へと足を踏み入れた。そして地べたに胡座をかいて、弁当を食べる。

 昼御飯を食べ終え、まったりと鉄格子越しの、鉄格子に阻まれた景色を堪能していると、扉が開き、今朝ロッカーであった大したことない奴がやってきた。

「あ、大したことない奴」

 思わず、ウォータースライダーばりに、アイススケートばりに、スノーボードばりに、ボブスレーばりに、カーリングばりに、冬季スポーツばりに、口を滑らせてしまった。それに対して、大したことない奴は、

「はぁ!?それどういう意味よ!!」

 と、迫ってきた。躍動する彼女を近くで見ると、とてつもなく可愛い。どうしようもなく可愛い。行き場なく可愛い。溢れ出す可愛い。可愛いカワイイかわいい。それにとてもいい匂いがする。これが美少女の香りというやつなのかと。

「いや、華村が名前覚えてなかったから、大したことない奴なのかと思ってさ」

 特に言い逃れする必要もないので、正直に思っていることを話した。すると、彼女はとても気を悪くした。機嫌を悪くした。

「なにそれ、最低!」

 と、強烈な平手ビンタを食らうことは、言うまでもない。言うまでもないのだが、言わなければわからないので、言っておくとしよう。極力言いたくはなかったが……。

 そして彼女はズカズカと、ズンズンと、ドスドスと、ダンダンと、いかにも怒っているというような、明らかに怒っているというような、怒ってますよな態度で屋上を後にしようとしたが、何故かそんな彼女を引き留めてしまった。呼び止めてしまった。

「ちょっと待った!」

 彼女は綺麗な髪をサラサラと、フワフワと、ファサフォサと、スラスラと、サワサワと、ワサワサと、靡かせながら、こちらを振り向いた。

「まだ何かあるの?」

 からの、人を殺しそうな鋭い眼光。凍てつくような氷の眼差し。その迫力に、その威力に、その圧力に、ちょっとだけ、ほんの少しだけ、後退りしてしまう。

()()()()()()()()?」

 オレも、オレ自身もよくわからない、よくわかっていない、何が言いたいのか、何が言いたかったのか、意味不明な発言を受けた彼女は、俯き、身体を震わせた。フルフルと、ブルブルと、ガクガクと身体を震わせた。震えるほど、意味がわからないということなのか。自分でも何が言いたかったのかわからないのだから、意味がわからなくなるのは当然と言えるだろう。どころか、なぜ彼女をわざわざ引き留めてまで、その言葉を投げかけたのかも、理解に苦しむ。

 すると、しばらく黙ったまま俯いていた彼女が、バッと顔を上げると、涙で美人が台無し、いや、それどころか、涙が映えて、神秘的な美しさを、芸術的な美しさを、可愛さではなく美しさを醸し出していた。

「大……丈夫…じゃないわよ……」

 泣きながら話す、彼女の声は消え入りそうで、近くにいるオレですら、聞き取ることができない。

「え?」

「大丈夫じゃないわよ!!」

 彼女は力一杯、叫んだ。

今回は今後の展開も若干ネタバレしてしまう回でした。過去と現在と未来を、行ったり来たりする今作を、よろしくお願いします。

それでは今回も読んでいただきありがとうございました!次回をお楽しみに!!

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