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『乙女モード』全開☆のオレと、踊るプリンシパル  作者: 千園参
第2話 Control you with poison -毒を持ってあなたを制す-
26/30

Part 2

 なんとか玲の機嫌を持ち直したが、来夢は一体何をしに屋上に現れたのか、それが気がかりであった。

 昼休みの時間は、あっという間に過ぎ、午後の授業が始まる。

 5限目の授業は、我らが担任、神月先生が受け持つ数学の授業だ。テスト用紙の入った封筒を握りしめた神月先生が扉を物凄い勢いで開ける。その勢いは、ドアについているガラスが割れるのではないかと、心配になるほどの勢いだった。封筒を握りしめる手には怒りの血管が走っているように見える。今朝のホームルームとでは、全くテンションが違うではないかと、生徒たちは身構えずにはいられない。しかし、なぜ先生がこのようなテンションでやってくるのか、オレたちはもうわかっている。

 先生とももう2年の付き合い、答えは簡単だ。そう、テストの平均点が思いの外、低かったということなのだろう。

「お前たちには正直ガッカリだ」

 と、前置きしつつ、教卓に封筒を叩きつけた。そこまで平均点が低かったのか、ご立腹な様子が伺える。

「これからテストを返す。出席番号順に取りに来い」

 生徒たちが順々に点数の書かれた答案用紙を受け取って行く。

 黄滝は出席番号が早いので、すぐにその順番が回ってきた。用紙を受け取ると、みるみるうちに血の気が引いていくのがわかった。これは絶望的な点数を叩き出したのだなと、容易に想像できる。

 オレは頭文字Mイニシャルみーなので、こういう時、とにかく順番になるまでに時間がかかる。教卓から帰還する者たちが、絶望的な顔であったり、歓喜の顔であったりを浮かべる中、未だにどんな顔をして待てば良いのかわからない。

 そしてとうとうオレも教卓に向かう。神月先生が用紙を差し出してくれたので、それを両の手でしっかりとキャッチし、引き取る。しかし、思うように引き抜けない。おかしい。一体どうしたものか、引き抜く力を少し強めてみる。それでも抜き取ることができない。このままでは引っ張るなー!服伸びるー!現象が起きてしまうではないかと、先生の手元を見ると、その手にはかなりの力が加わっているように思えてならない。というか、思えるというより、力が入っていると断言できるほど、力んでいる。

「あの……先生?後ろもつかえていますし、テストを返して欲しいんですけど………」

 すると、神月先生はため息をついた。何故?

「美崎ぃ、お前には正直一番ガッカリしている」

 と、ハッキリと言われてしまった。これがオレの苦手科目、地理学科ならまだしも、この時間この空間は数学科のはず。数学ならば、テストの点数的にも100点満点とは言わずとも、自身はそれなりにあったのだが、何故このような発言に至るのか。その辺の意味合いも含めて早くテストを返して欲しいのだが……。

 しばらくの膠着こうちゃく状態を破るかのように、テストの答案用紙が破れた。

「え?そんなことあります?」

 勢い余って尻餅をつく始末。

「いだっ」

 そして神月先生の手を離れた問題の点数が書かれている1/2の用紙がユラユラと滑空する。それをなんとか掴み取り、点数を確認する。

 用紙には95点の文字が確かに刻まれている。この点数を確認できたことで、さらなる謎が深まる。ガッカリとは一体どこにガッカリする要素があったのか。

「先生……これは一体どういうこと……なんでしょうか……?」

 恐る恐る質問してみる。

「私はお前にガッカリしている。何故だか、わかるか?」

 と、先程と同じ前置きをした後で、質問を質問で返されてしまった。

「いえ、皆目検討も付きません……」

「そうか……。残念だ。お前なら100点を狙えると思っていたが、こんな結果で私は残念だ」

 そこ!!?95点でも十二分に褒められる点数ではなかろうか。ましてや、ここは進学校でもなんでもない、ただの普通科高校だ。そこで95点は学年内で比べても高い点数だと喜んで良いレベルだと、そう思っていたのは、オレだけだったのか!?そんな馬鹿な……。

「お、オレも……なんだか………残念です………」

 こうして頭にハテナを立てると共に、真っ二つに破れた答案用紙を握りしめ、自分の机に戻ることになった。椅子に座るなり、何とも度し難い気持ちに苛まれる。なぜ高得点を叩き出したのにも関わらず、このような気持ちにさせられなければならないのか。

 そんなこんなで気持ちは終始晴れることはなく、全ての授業が終了することになってしまった。


 そして放課後---

 ロッカーに向かうと、玲が一足先に待っていた。彼女はいつ何時も、時間厳守な人であった。

「お待たせ」

「待ちすぎて疲れたわ」

「え、そんなに!?」

 昼休みは不機嫌になっていたので、どうなることかと思ったが、なんとかいつもの玲さんに戻ってくれていたので、ホッと胸を撫で下ろす。

「そういえば、玲さんはテストどうだったんだ?」

「私?私はいつも通りよ」

「いつも通りと言いますと?」

「いつも通りったら、いつも通りよ。いつも通り、90点台よ」

 玲さんは別にドヤ顔をするわけでもなく、本当に当然のことだと言いたげな顔でもなく、自慢げですらない。本当に()()()()()だったのだ。聞いたこっちが馬鹿だったということなのだろうか?

 そんなザ・高校生の青春みたいな帰り道も、あっという間に終わりを迎える。

「それじゃあ、私こっちだから」

「おう」

「また明日ね」

 と、玲さんが可愛く、胸の前で小さく手を振る。これがまた奥ゆかしいと言うかなんと言うかで可愛い。控えめに言ってオレの彼女は最高である。惚気話をすいません……。


 家に到着すると、可愛らしい妹の瀛が出迎えてくれる。

「おかえりなさいまへ!ってお兄ちゃんどうしたのですか?」

「ん?何がだ?」

「顔が変です!!」

 瀛が物凄い勢いでオレの顔をディスる。これはいよいよ反抗期ということなのだろうか?少しショックを受けながらも、何故そういう発言に至ったのかの経緯を尋ねてみる。

「妹よ、顔が変ってどういう意味だ?事と次第によっては、お兄ちゃん泣くぞ?」

「いえいえ!そういう意味ではなくてですね!そういう意味なんです!」

 どういう意味だよ!と叫びたくなる返しが飛んできた。

「い、妹よ……もっと詳しく、具体的に説明しておくれよ……」

「は、はいです!お兄ちゃんの顔が変なのです!」

「それはもうわかってるから!どう変なのか言ってくれ!」

「お兄ちゃんがヒステリックなのてす!!」

 父さん、母さん、今日もオレたち兄妹は平和に暮らしているよ?

 結局のところ、瀛が何を言いたかったのか、それはオレが世にも奇妙なニヤケ面で帰ってくるものだから、そこに違和感を感じた瀛が思わず、顔が変だと叫ぶ経緯に至ったのだという。

 そういう話になってくると、オレにも落ち度があるような気がしてならない。おそらくニヤケ面になっていたのは、帰宅直前に見た玲の可愛さのせいで間違いない。通りで道行く人から顔を見られると思っていたが、こういうことだったとは………。

「それでお兄ちゃんは何故、ニヤニヤしていたのですか!?」

「実はな、瀛……。お前に言わなければならないことがあるんだ」

 神妙な面持ちで切り出すと、瀛も固唾を飲んだ。

「実はお兄ちゃんな、彼女ができたんだ」

「今日はエイプリルフールじゃないですよ?」

 全く信じていないようだ。エイプリルフールと返してくるとは、我ながらよくできた妹である。

「いやいや、本当なんだって」

「そんな馬鹿なです」

「いや、そんな馬鹿なことがあるんだっての」

 こんな言い合いを繰り返したが、話は平行線を辿るのみだったため、このことは一旦忘れて、ようやくの晩御飯へ移ることにした。

 テーブルに並べられていたのは、冷やし中華であった。

「冷やし中華、始めました!というやつなのです!」

「本当だな。さて、食べるかっ!」

「「いただきます!」」

 冷やし中華をズルズルとひと啜り。暦の上では初夏ということなので、暑くなってきたところに、冷たく、程よい酸味が身体に染み渡っていくのがわかる。

「おお、美味い!」

「それは何よりなのですっ!」

 顔が変だ何だというくだりが、帳消しになる美味さであった。

 晩御飯も食べ終え、テストが終わった今、テスト勉強なんて苦行も必要がなくなったので、さっさと寝ることにした。


 6月1日---

 顔を洗い終えてリビングに行くと、そこにいるのが当然かの如く、連続10日目の10(テン)デイズアニバーサリーの鯖の塩焼きが置かれている。ここまで来ると、もうただの鯖ではないことぐらいオレでもわかる。鯖はもう家族の一員と言っても過言ではないのだ。

 いや、過言だろと誰かツッコんで欲しいところだが、そこはいい。

「さて、いただきます」

 飽きてきたからなのか、将又、本当にそうなのかは今となっては確認のしようもないことなのだが、鯖の味がしない。これは何かの掣踆ペーシェントだったりするのだろうか?いやいやいや、乙女モードだけでも厄介だというのに、これ以上厄介を増やしてたまるものかと、鯖を平らげ、学校に向かう準備をする。

「よし、行ってきます」

「いってらっしゃいまへ!」

 今日はいつもより少しだけ早く家を出ている。これならば可愛い可愛い彼女を待たせることもないだろう。そんなことを考えながら待ち合わせ場所に行くと、曲がり角で誰かにぶつかってしまった。

「あいた!」

 オレとぶつかった相手が尻餅をつく。

「ごめん、大丈夫か?」

 慌てて手を差し伸べると、その相手は来夢であった。

「来夢じゃないか。急いでるみたいだけど、こんなとこで何してんだ?」

「すいません、ぶつかってしまって、今日日直なんです。そのことをすっかり忘れてて、急ぐのでボクはこれで失礼します!」

 と、来夢は学校へ向けて駆けていった。

 来夢とぶつかった時、気づくべきだったのかもしれない。来夢が走ってきた方向にラーメン屋が存在しないことに………。待ち合わせに急いでいたオレは、その違和感を拾えるほどの余裕がなかった。

 こんなイベントも相まって、結局、オレは待ち合わせ時間を少し遅れて到着することとなった。

「遅いわよ!」

「すんません!」

 この時のオレは玲の忘却クロッパーを解決したことで、平和が戻ってきたと勘違いしていただけに過ぎなかったのだ。束の間の平和を破り、再び何かオレの元に起きようとしていることなど、知る由もない。

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