Part 21
ファンタジー要素を盛り込むために、唐突にバトル描写が入ることになってしまいましたが、やはりバトルを描くのは苦手なことが改めてわかりました(泣)
それでは楽しんでいってください!よろしくお願いします!!
物に干渉できないとは言えど、家の中でドタバタしていると、瀛が目を覚ましてしまうので、予め用意しておいた靴を履き、窓から脱出することにした。ここは何階なのかって?心配いりません、ここは8階です。きっと自分がただの人間だったとしたら、こんな危ないことはしないだろう。このような無茶が罷り通るのは、乙女モード様様と言って間違いない。
空中で乙女モードを発動し、セーラー服の美少女に変身する。そして着地。見たかマイケル、このように乙女モードを使えば、8階という高さからジャンプしても、あら不思議!無傷で着地することができるんだぜ?凄いだろ?乙女モード、今だけ特別プライスで販売いたします!もう一度言います、今だけ!そんな冗談を言っている場合ではなかった。
忘却クロッパーが容赦なく、大鎌を振るい、襲いかかってくる。忘却クロッパーの振るう鎌に当たってしまったら、その時点でゲームオーバー、今日の記憶は消滅ということになってしまう。
そんなことがあってたまるものか。もし昨日の記憶が今この瞬間、消滅してしまったら、雨の中で必死に彼女と話したことも、彼女の笑顔も、約束も、デートも、その全てがなかったことになる。もうこれ以上、絵凪との思い出をなかったことになんてさせるものか。
とにかく攻撃を躱しやすくするためにも、空間を広く使える公園に場所を移す。
そこでなんとか攻撃を躱し、相手の隙を伺う。忘却クロッパーは、なかなかに隙を見せてくれない。さすが絵凪のストーカーとでも言うべきだろう。ずっと絵凪に関する記憶を消し続けてきたのだから、そう簡単に倒される気がないのは、見ていてよくわかる。
「ファンクラブ代表だからって、大鎌はズルいんじゃないの?」
忘却クロッパーに言葉を投げかけてみるが、何も返ってこない。どころか、襲いかかってくるのみである。これだから近頃の奴は……。冗談も通じないのは、やり辛くて困る。
しかし、このまま防戦一方では、いつまで経っても解決しないので、そろそろ忘却クロッパーを倒しにかかる必要があるのだが、これまでの流れから考えると、ここの世界感は別に妖怪バトルに重きを置いているわけではない。そのためワタシとて戦い慣れしているわけではないのだ。それじゃあ、何のための乙女モードなのかって?そんなことはワタシにもわからない。
たがしかし、全く戦ったことがないわけでもないのも、また事実。その相手が華村真琴であったことは、また今度、『The strength of the glasses -眼鏡の強度-』にて、ゆっくり話すとしよう。それよりも、まずは忘却クロッパーを倒すことを、第一優先にしなくては。
死神との戦いの中である疑問が生まれる。それは忘却クロッパーの倒し方である。どうすれば忘却クロッパーを倒せるのだろうか。ワタシは攻撃を一発でも食らったら、その時点でゲームオーバーという無理ゲーな訳だが、こちらの勝利条件は一体どうなっているのやら。
ただの一発も攻撃を受けられないというのは、なかなかにゲームバランスが崩壊しすぎていると思う。それにリーチが長すぎて、間合いを詰められないというのも、卑怯である。
「アンタ、さっきからズルいぜ!これじゃあ、勝負にならないだろ!!」
このままではズル過ぎて勝負にならないので、忘却クロッパーに説教をしてみる。だが、何も起きる気配がない。それどころか、ユラユラと浮いた身体を近づけてくる。
この人とは会話にならないことがよくわかった。
「もういいよ!」
そろそろ逃げ回るのも飽きてきたので、いよいよ大詰めに取り掛かる。
「さっ、かかってきなさい!」
忘却クロッパーが大鎌を横一文字一閃。それをジャンプで躱し、跳び上がった勢いを利用して、距離を一気に詰める。これで鎌が当たらない距離まで接近することができた。
忘却クロッパーは体勢を立て直し、大鎌を構え直そうとするが、もう遅い。それよりも先にワタシの拳が炸裂したからだ。
あまりにもユラユラとオバケのような姿をしているため、拳を当てても、感触がないのかと思いきや、その姿は見せかけだったのか、まるでガラスでも突き破ったかのように、忘却クロッパーはひび割れを起こし、そのまま破片となって辺りに飛び散っていった。
「終わった……のか?」
あまりにも呆気ない勝利に、勝利の感触もないまま、忘却クロッパーは消滅してしまった。
飛び散った破片は復活することもなく、消えていく。消えていく破片を眺めて思うのは、絵凪との思い出が消えていくような、そんな儚い思いであった。
ワタシからオレに戻り、余韻という余韻でもないのだが、そんな何かに浸っていると、足音が近づいてくるのがわかった。
足音のする方に首を振ると、そこには神月先生が立っていた。
「よう、無事に解決できたようだな」
神月先生は穏やかな表情でブランコに腰掛けた。
「みたいですね……」
いざ撃破してみると、全く手応えがないもので、未だに解決できたのか不安ではあるものの、専門家である神月先生がそう言うのであれば、間違いなく解決したのだろう。
「ほら」
ボーッとしているオレに神月先生は缶コーヒーを投げ渡してくれた。
「ありがとうございます」
これから寝ようとしている人に対して、コーヒーを渡すというのはいかがなものかとも思うわけだが、喉も渇いていたので、有り難く飲むことにした。
コーヒーを飲み、一息ついたところで、なぜ解決した実感が湧かないのかということについて、薄々気付き始めることになった。
「記憶が戻らないのだろう?」
そしてオレが確信を得る間も無く、神月先生が答えを出した。
「はい、何も。全く、何も思い出せないですね……」
「一度起きてしまった事象、つまり刈り取られてしまった記憶に関しては、そのままのようだな」
そう言って神月先生は、クールにブラックコーヒーを飲み。
記憶が戻ってくるなんて希望を抱いていた訳ではない。それでも、全く期待していなかったわけでもない。数パーセント程度は信じていたのだ。もしかすると、解決し終えた時に、全ての記憶が返ってくるのではないかということを。これではハッピーエンドには程遠いではないか。解決しても、彼女のことを思い出す人間は誰1人いないということなのだから。現状は何一つ変わらないのだから。これ程までに残酷なことがあるだろうか。
「それで?何も思い出せないでいる今のお前は、絵凪のことが好きなのか?果たして好きだと言えるのか?」
神月先生が質問する。でも、その質問には即答することができた。記憶は確かに跡形もなく掻き消されてしまったけれど、忘却クロッパーを持ってしても、消すことができなかったことがある。それはこの想いだ。
ノートを書き記し、過去から繋いできた1つのバトン。記憶を消されたことで、そのバトンを何度も失くし、見失ってきたが、それでも今日この瞬間に辿り着くことができたのは、他ならない、
「はい、オレは絵凪のことが好きです」
「ふふ、そうか。いや、すまん。どうやら野暮な質問をしてしまったようだな。今日はもう遅い。というか、早く帰って寝ろ。朝になってしまうぞ?」
「え、いま何時ですか?」
神月先生が腕時計に目をやる。そしてその腕時計を見せつける。
「午前3時だ」
「もう朝じゃないですか……。ったく散々だな……」
時間を聞いてしまったことによって、何故だかどっと疲れが出てきたような気がした。
「あと月曜日からはテストだ。掣踆ペーシェント解決に尽力したからといって、内申点が上がるわけじゃないからな。テストは頑張るように。それじゃあな」
そう言い残して、神月先生は帰っていった。
雨上がりの空には、綺麗な星が輝いていた。それを眺めながら家に帰る。その時に思った。
確かに過去の美崎昊は帰ってこない。だけれど、昨日の美崎昊だけは死守することができた。それだけでも大きな成果なのではないかとも思う。
絵凪はきっと過去のオレが帰ってくることを願っているのかもしれない。何も知らないオレが現れたところで、ガッカリするだけかもしれない。今のオレを求めていないかもしれないなんて考えると、正直辛いものがある。過去はとても大切なものだから、それは仕方のないことだと思う。でも、それはこれから続いていく未来に比べればほんの一部なのではないか、それはこれから上書きしていけばいいのではないかと、開き直ってみたりもする。
なんにせよ、絵凪を大切にできるのは今の美崎昊しかいないのは、変えようのない真実なので、彼女を過去のオレ以上に幸せにできるように、過去一を叩き出せるように頑張ろうと、心に決めたのだった。
同日午前11時---
「ふわーあ、おはよう」
結局あれから帰って、まともに眠ったのは午前5時のことになった。考え事もしていたこともあって、なかなか寝付けないことにプラスして、缶コーヒーがボディブローのようにジワジワと効いていたのではないかとも思う。
そんなわけで今日が土曜日で本当に良かったと思った。今日ほど今日が土曜日で良かったと思った日はないだろう。
「おはようございます、お兄ちゃん。今日は随分とお寝坊さんなのですね?」
普段は遅くても8時には目を覚ましているため、昼間近の起床は瀛からしても、珍しいと感じてもおかしくはない。
「昨日の服が変わっていたことといい、お兄ちゃん最近変なのです!」
そことそこを抱き合わせてくるとは、なんと感の鋭い妹なのか。確かに昨日から珍しいイベントが続いていたのは、否定できない。瀛は料理人だけでなく、名探偵にもなれる可能性を秘めているようだ。
「それにお兄ちゃん、なんだかご機嫌なのです。変です」
「ん?そうかな?」
自分ではそんな気はないのだが……。いや、ご機嫌なことは否定しない。何故なら、言うまでもない。1ヶ月に渡って続いた忘却クロッパーとの戦いが終わり、絵凪を助けることができたのだから、これが嬉しくないはずがないのだ。
顔が自然とニヤけてしまうのが、自分でもわかるが、どうしても止める術がない。
「お兄ちゃんがニヤけています!?まさか熱でもあるのではないですか!!?」
何も知らない瀛は慌てふためいている。
「大丈夫だっての!」
「大丈夫に見えないのです!」
絵凪の一件が終わって、なんだか久しぶりに日常に帰ってきたような、そんな気がするのだった。
それからなんとか瀛を誤魔化し、自室に戻った。
ここは一つ、テスト勉強をしなくてはならない事だけは、わかっているのだが、なんだか頭がボーッとしていて、何もする気にならない。
「参ったなー。よし!仕方ないから、寝るか!」
テストのことは明日の、日曜日の美崎昊に任せるとしよう。今日のことの引き継ぎはノートに書かなくても、もう大丈夫。だってこれからのことは、絵凪のことも、何もかも、全て記憶できているのだから。
あと3、4話ぐらいで絵凪玲編は完結となります。ようやくここまで漕ぎつけたかと、感慨深いものがあります。そして残りの3、4話の中に私が書きたかったタイトルに関する伏線も含まれていますので、お楽しみに!
それでは今回も読んでいただきありがとうございました!次回をお楽しみに!!




