Part 19
お待たせしました!ついについに!物語が動きます!!
それでは楽しんでいってください!よろしくお願いします!!
弁当箱に詰められたミニハンバーグを口に運びながら、空模様を見る。空は真っ黒に染まっていて、いつ降ってきてもおかしくないような天気になっていた。心なしかゴロゴロと音を鳴らしているようにも思える。
そんな天気なので、昼御飯を食べ終えると同時に撤退することにした。
結局、良い策など見つからないまま、午後の授業が始まる。何故かズボンのポケット中にあった飴を舐めながら、睡魔と格闘する。ここで眠ってしまったら、昨日の頑張り……、と言っても特別、何もしていないのだが、これまでの努力や神月先生のファインプレー、その全てが無駄になってしまう。それだけは回避しなくては。
1日の授業が終わり、放課後---
廊下を歩いていると、窓から黒髪ロングの生徒が下校する姿が見えた。今なら、その子が誰なのか、ハッキリとわかる。何かいい案が浮かんだ訳じゃない。それでもこのまま彼女を家に帰して、今日が終わりなんて、そんな訳にもいかないのだ。だから、追いかける。廊下を全力で走り抜ける。廊下を走ったことで、体育教師がオレの名前を叫んでいても、軽く受け流して、歩みを止めない。
オレがあまりにも全力で追いかけてくるものだから、絵凪は驚いて、こちらを振り向いた。
「今帰りか?オレも今帰りなんだ。話したいこともあるし、一緒に帰らないか?」
なんだこのナンパのようでナンパの足元にも及んでいないド底辺の誘いは……。全力で走ってきた男が初対面の人に対して発するセリフでもなければ、校門前で初対面の人に言うセリフですらない。完全に変な奴になってしまったのではないだろうか?
絵凪の顔を確認すると、やはりどこか引き気味のような気がする。
「べ、別にいいけど……」
しかし、彼女は意外にも一緒に帰ることを了承してくれた。
そんなこんなで絵凪の優しさも相まって、なんとか共に下校することはできたが、会話が全くと言っていいほどに発生しない。空の暗さも仕事をしていることで、救いようのない雰囲気を放ち始めたではないか。
何か話さなくては、脳内パーソナルコンピューターに、この場を乗り切るための最適な言葉を演算してもらう。
「今日はいい天気だな!」
「は?」
冷たい風が吹き抜けた。もうすぐ6月だと言うのに、吹き抜けた。
「ごめん……。なんでもない……」
それにしても先程、絵凪の「は?」が氷のような瞳と、冷たい表情が適度に助け合って、すごく怖いものに感じた。これがスポーツ作品だったら、イップスになっていたタイミングで間違いないだろう。
一体全体、どうすれば彼女の心を開くことができるのだろうか?だが、そんなことをいつまでも悩んでいられるほど、時間に余裕があるわけではない。タイムリミットは絵凪とオレがお互いの家に向かうその分かれ道までだ。それまでに状況を打開しなくてはならない。
そんな中、走馬灯を見るかのようにノートのことを思い出した。走馬灯とは思い出に浸っているわけではなく、脳が経験した全ての知識を辿って生存するための術を探っているために見るという見解は本当かもしれない。
ノートに書かれていた記録はどれを読んでも、記憶が消えるとかどうとかって話は二の次だったように思えた。確かに記憶がどうということは、記載されてはいたが、その言葉が本当に意味しているのは、そういうことではない。ならば、ノートを信じることにしようと思う。絵凪玲を救いたいという想いを、その想いの積み重ねを。
「なあ、絵凪」
横を歩く絵凪に声をかける。すると、彼女は目を見開いた。
「どうして私の名前を……。今日は一度も会ってないはずなのに……」
絵凪がボソりと呟いた。
「色々あってな、どうにかこうにか、お前のことを覚えておけるようにしたんだ。スゴイだろ?」
「凄いというか……、馬鹿というか……」
絵凪の声はどこか震えているように感じた。なぜ彼女はあからさまに動揺しているのだろうか?そんな彼女にここから何を言えばいいのかなんて、わかりっこない。それでも、思考を止めない。こうなってはヤケクソでもある。意地でも言葉を切らさない。彼女を助けるために。
「オレは君を助けたいんだ。そのためにここまでやってきた」
「なにそれ……。私を助ける?はあ?今更ふざけないでよ。私のことなんて、何も知らないのに勝手なこと言わないで!どうせ……何度仲良くなったって、何度好きになったって!なんにも覚えてないくせに!!」
彼女の言葉に反応するかのように、いや、彼女の心そのものかのように、土砂降りの雨が、雷を鳴らして降り注いだ。あまりの降水量に地面には、あっという間に水溜りができた。
彼女はオレを睨みつけると、そのまま走り出した。しかし、濡れた路面で足を滑らせてしまう。そしてその勢いで車道に身体を投げ出されてしまった。
「いった……」
絵凪がなんとか起き上がり、その場から離れようとするも、転んだ際に足を痛めてしまったようで、思うように立ち上がれなくなっていた。運の悪いことに、彼女の目の前には大型トラックがクラクションを全力で鳴らしながら迫っていた。運転手もなんとか絵凪を轢くまいと、ブレーキを踏み込むも、濡れた路面で止まるどころか、スピードはさらに速くなり、より危険性を上げて、絵凪に直撃しようとしていた。
「これは不味いな。やるしかない!いくぞ『乙女モード』変身」
絵凪を助けるため、オレは乙女モードの力を使うことにした。乙女モード、それは男であるオレが掣踆ペーシェントの不思議な力で、男から女に変身することができるようになるという症状であった。
ワタシはセーラー服の女子へと変身し、絵凪とトラックの間に入り込む。そしてトラックを片手で押さえ止めた。トラックの運転手は止められた時のあまりの衝撃で気絶してしまっていた。トラックのフロントにはボコリとワタシの手形が残っていた。あとで救急車を呼んだ方がいいかもしれない。
ワタシが変身し、トラックを止めるまでの一連の流れを見ていた絵凪は絶句という言葉をとてもわかりやすく、その身体と顔で表していた。
「間に合ってよかったぜ。絵凪、大丈夫か?」
「あなた、一体………」
驚くのも無理はない、というやつである。さっきまで賀晴の男子制服を着ていた高校2年生の男が、いきなりセーラー服の美少女に変身するのだから。この状況を見せられて、驚かない方が稀である。
最初はワタシ自身が一番驚いた。鏡を見た自分の姿が180度変わっていたのだから。いや、180度以上の振り幅はあるかもしれない。
これがワタシの掣踆ペーシェント、乙女モードである。この姿になると、身体能力が飛躍的に上昇するため、通常時でも、それなりに動くことができるのだった。また再生能力が高いのは、この姿の副産物というやつらしい。これは神月先生が話していたことである。
とりあえず救急車を呼び、絵凪を抱え、その場を離れることにした。
「よいしょっと」
人気のない場所でワタシからオレへと姿を戻す。
彼女の顔は涙でなのか、雨のせいなのか、ぐしゃぐしゃになっていた。
「オレは知らない。君の言う通り、君のことなんて何も知らないし、覚えてもいない。だから、だから!知りたいんだよ!人ってそういうもんじゃないのかよ!初めて出会って、可愛い、カッコいい、優しい、そんなところから、この人のことをもっと知りたい、仲良くなりたい、友達になりたい、恋人になりたい、もっと知りたい、全てそこから始まるんじゃないのかよ!」
そう言うオレに対して絵凪もまた、自らの想いの全てをオレにぶつけた。
「私はあなたと他人でいたい!交わりなんてなくったって良い!ほんの少しでもいい!名前を知ってるその程度だって文句は言わない!だってあなたが私の名前を言ってくれたそれだけで、こんなにも嬉しいの……。だから私はただ!!あなたの記憶の中にいたいの!!!」
知らなかった彼女がそんな想いを抱えていたことなんて、考えたこともなかった。彼女がさりげなくオレの前に現れ続けたことには、意味があったのだ。オレが彼女を救うために、ありとあらゆる実験を試みていたように、絵凪もまたオレの記憶に残るための実験を行っていたなんて、思いもしなかった。それが彼女の本心ならば、はい、わかりましたと二つ返事で終わらせられるはずがない。だから、次に返す言葉、
「ダメだ。それを認めるわけにはいかない」
「どうして!?そんなに私のことが嫌いなの!!?」
「違う!そんなわけないだろ!」
彼女の両肩をしっかりと掴んで、続ける。
「オレも君が、絵凪玲が大好きなんだ。だから、記憶の片隅に残ってるだけでいいなんて言わないでくれ。オレは君と必ず明日に行くよ。君のことを知っている、ちゃんと好きだとわかっている明日に」
彼女の涙は止まっていた。
散々雨に打たれた後で、手遅れ感はあるのだが、折り畳み傘を展開し、絵凪を家まで送ることにした。お互いの想いをぶつけ合った後なので、家までの道のりでは会話など皆無ではあったものの、あれだけ思っていたことが伝え、伝わったのなら、もう会話なんていらないのかもしれない。だから、この無言はさっきまでの何を話せばいいのかと悩んでいた無言とは、まるで違うものだ。
「ここが私のお家」
と、絵凪が立ち止まった。
「そっか。んじゃ、ここまでだな」
「うん。ありがとう」
「え?」
「嬉しかったわ。あなたが私のこと、そこまで思っててくれたこと。ありがとう」
いざ、まじまじと御礼を言われると、なんだか照れ臭いものがある。
「おう、こっちこそありがとう。それでさ……」
ここで思い切ってみることにする。思い切って実験⑶に踏み込む時は今しかない。
「何?」
「あのさ、えっと、明日暇かな?」
恥ずかしながらに言うと、絵凪は、
「明日はダメ」
と、即答した。この流れで断られてしまうのかと、完全に不意打ちを食らった気分である。鳩が豆鉄砲を食ったようというのは、このことなのだろう。
絵凪はさらに続ける。
「月曜日からテストなのよ?ダメに決まっているじゃない」
と、絵凪は言い切るが、そこから少し間隔を開けて、言葉を絞り出す。
「でも、テストが終わったら……いつでも空いてるわよ?」
絵凪が顔を赤らめる。なんと可愛らしいことか。
「わかった。じゃあ、テスト明けの土曜日、デートをしよう。それまでに君の問題を解いてみせるよ」
「馬鹿ね。その前にテストの問題を解きなさいな」
そう言って絵凪は、初めて微笑んだ。
今回は私が今作で2番目に書きたかった場面でもあります!じゃあ、1番目はなんだよって?それは今後のお楽しみです。
それでは読んでいただきありがとうございました!次回をお楽しみに!!




