Part 18
ようやく徐々にではありますが、今作も目を通してもらえるようになってきたかなと思える日があったり、なかったりですね(笑)
そしてついに20日!
楽しんでいってください!よろしくお願いします!!
5月20日---
目覚まし時計と見事なまでのデッドヒートを繰り広げた末に引き分け、目を覚ます。いつになったら目覚まし時計に勝利することができるのやら。
カーテンを開けると、外はまだ夜なのかと思わせるほど、暗い雨雲で覆われていた。だが、まだ雨は降っていないようである。
次に学習机に置かれている一冊のノートを持ち上げる。ノートをパラパラとめくり、1枚の写真に写る絵凪を確認し、自分の記憶が昨日から、ちゃんと引き継がれていることを確認する。
ここまで来るのに随分と長い時間を要してしまったが、ようやく実験⑵を成功させることができた。これは過去のオレがどれだけ頑張っても成し遂げることのできなかった快挙である。個人的にはもうこれで満足なのだが、これはまだチュートリアルを終えた程度に過ぎないのだろうと思う。なんとか忘却クロッパーの穴を突いて、今日1日記憶を保持することに成功したが、それは写真で絵凪を確認し、来夢や華村と話すことで意識をたまたま絵凪から外すことができたからというだけのことだからだ。
いよいよ実験⑶に移行するわけだが、ノートの失敗談を見る限り、絵凪本人と接触すれば、間違いなく今日持ち越すことのできた記憶も含めて刈り取られるのだろう。
ここからが本番だ。昨日はカツ丼を食べ、勝利への験担ぎもバッチリなので、今の俺に死角はない!はず……。
洗面所で顔を洗い、トドメに頬を両の手でペタペタと叩いて気合いを入れた。いま気合いを入れても、どうこうなるわけでもないのだが、とりあえず、気合いを入れておこうと思う。
その姿を見ていた瀛は、
「おはようございます、お兄ちゃん。いつもよりもなんだか気合いが入っていますね……!!」
と、声をかけてきた。
「おはよう。今日は大事な日だからな。気合いを入れておこうと思ってな」
「お兄ちゃんにそんな大事な日があったのですか!?」
「まぁな」
そして席につく。
テーブルには昨日、作り過ぎてしまった豚カツが並ぶ。カツ丼用の豚カツに作り過ぎなどあるのだろうか?いつも通り、2人前なのだから、2枚でよかったのではなかろうか。しかし、朝食べる用をあえて作っていたとも考えられる。朝からなかなかのヘビーな気もするが、更なる験担ぎになるなら、これはこれでありというものだ。
そんなことを考えながら、豚カツを一閃。カツ丼として活躍していた頃とは、また違った味わいを感じさせてくれた。瀛の作る料理は、控えめに言って天下一かもしれない。
豚カツを完食し、学校に向かう準備を整える。
「んじゃ、行ってくるな」
「いってらっしゃいまへ!」
家を出て、しばらく通学路を歩いていると、華村と合流することになった。
「あ、美崎君。おはよう」
「おはよう」
と、華村の方を向くと、昨日のことを思い出してしまった。昨日の謎の空気感を味わっての、今日ではなんだか少し気まずいような気がしているのは、オレの方だけなのだろうか?しかし、どうやら、そう思っていたのは、やはりオレだけではなかったようで、華村もいつもとは違ってどこか、よそよそしいというか、なんというかであった。
結局、気まずさが解消されることはないまま、学校に到着してしまう。
ロッカーで靴を履き替え、教室に向かう。
「それじゃあね」
「お、おう」
教室に入り、席に座るがホームルームまでは少し時間があるため、考え事に耽ることにした。
今回の議題は1つ、絵凪玲の攻略についてである。記憶を引き継ぐことに成功したのはいいが、せっかくのアドバンテージを無下にするわけにはいかない。かと言って、臆病になり過ぎても埒が明かないのもまた事実。
おそらくこのアドバンテージは今日1日限定と考えていいだろう。忘却クロッパーの根本を解決していない以上、明日もまた記憶を保持できる可能性は限りなく零に近い。となれば、この機を逃す手はないのだが、いかにして絵凪と接触するかが、大きな問題であった。
過去の美崎昊たちは一体、どのようにして絵凪と心の距離を縮めたのだろうか。残念なことに、その辺の恋愛テクニックに関しては、ノートに一切書かれていなかった。
⑶を実現させたいのなら、そこまで徹底して書くべきではなかったのか?過去の自分の詰めの甘さにガッカリするばかりであった。美崎昊は本当に絵凪玲を助ける気があるのだろうかと、疑問に思えてくる。
「こんなところで躓いてる場合かよ……」
これからどうしたものか、大コケもいいところだ。
幸先の悪い展開に頭を悩ませていると、黄滝が登校してきた。
「よっ。なに頭抱えてんだ?」
「おう。いや、頭を抱えずにはいられないんだよ…」
「マジか、やっぱりお前、頭おかしいのか?」
その言い方はどうかと思う。それではまるで、記憶が云々をすっ飛ばして、単純に頭が変だという解釈になってしまうではないか。
「そう言い方はやめろよ」
「そうなのか?じゃあ、頭大丈夫か?」
言い回しは確かに変わったが、その本質は何一つ変わっていない。着地点に全く納得がいかない。そもそも頭を心配する言葉に適切で優しい言葉など、皆無なのかもしれない。
「それにな、今日はわりかし調子はいい方だよ」
「そうは見えないけど?」
「そもそもコンディションなんて本人にしかわからないだろうが」
「確かにそうだな。人は見かけによらないとも言うしな」
それは少し違う気もするが、言いたいことはわかるので、スルーすることにしよう。
そんなくだるようで、くだらない話をしていると、ホームルームの時間になった。
「おはよう。今日は1限から体育か、なら余計な時間は取らん。さっさと準備に取り掛かれ、以上だ」
神月先生はものの数分、いや、数秒だったかもしれない。教室に入ってくるなり、その一言を残して、すぐに職員室へと帰っていった。
こういった移動教室や体育などで時間を要する際に、ホームルームを短縮してくれる辺りも、神月先生が生徒たちから慕われる要素であるに違いないだろう。
神月先生の厚意に甘えて、着替えを済ませ、グラウンドに集合する。
今日の体育も先週に引き続き、野球であった。
乙女モードという掣踆ペーシェントを患うことになってから、特段、不便というわけでもないのだが、やはり乙女モードを疎ましく思っていることが多い。しかし、全てが全て辛いことなのかと言われると、そういうわけでもなかったりもする。特典その1は、傷の治りが早いことだろう。どんな怪我も忽ち治るというのは、やはり便利なもので、とても重宝している。
そしてもう一つは、身体能力が向上するというところにある。そのため、体育などの授業であっても苦労することなく、それなりにこなすことができるようになった。
以上が便利な点であるが、基本的には必要のないものだと思っている。
そのため春休みの発症時に乙女モードを消し去るために、神月先生にも相談したが、神月先生の知恵を持ってしても、ついに消し去ることはできなかった。それ以来、こうして上手く折り合いをつけて、付き合ってきたわけだ。
そうこうしているうちに、体育の授業を難なく終えることができた。
体育が1限目にあると、その後の授業がこれまた眠くて仕方がなかったりする。そんな経験はないだろうか?まるで頭と机にS極とN極の磁石が付いているかの如く、カクリカクリと、引き寄せられる。ウトウトがピークに達している頃、眠気を覚ますイベントが幕を開けようとしていた。
「さて、この問題、解ける奴はいるか?」
そう、今まさに数学の授業中。ということは、もう言わずともわかると思うが、教卓の前に立って話しているのは、ご存知、神月先生である。
神月先生のお馴染み、問題のお時間に当てられまいと、次々に生徒たちが目を覚ます中、オレは瞼がとりもちで貼り付けられているかのように、目を開けられずにいた。そして寝ている生徒は先生にとって、狙いやすい的でしかなかった。
「美崎ぃ!起きろ美崎ぃ!!」
少しずつ、ヒールのコツコツという足音が近づいているのか、遠のいているのか、凄まじい眠気でわからない。そして普段のアイアンクローが優しく感じられるほど、強烈なゲンコツが脳天に炸裂した。先生、これは体罰なのでは?
「いだぁああ!!?」
「ったく、来週はテストだっつうのに、寝てんじゃねぇよ。オラァ!さっさと解いてみろ!」
眠気は完全に覚めたはずなのだが、視界がぼやけている。これは眠気ではなく、ゲンコツで星が飛んでいるというやつなのかもしれない。
眠気とゲンコツのダメージによって身体は絶妙に気怠くなってしまったが、その身体を引きずって黒板に向かう。そしてゆっくり落ち着いて、出された問題を解く。
黒板に答えを書き終えると、答えを見て神月先生は、
「ちぃ、なんでお前は私の授業、基本的に寝てるか、話聞いてねぇかなのに、いつも解けるんだよ」
どうやら、正解を導き出せたようだ。というか、生徒が生活して悔しがる先生が、まだこの世に存在していたことが驚きである。最近ではテレビのスカッとモノでしか観ない気がしていたのだが……。
しかし、ゲンコツのおかげで、ふと我に返る。もしここで睡魔に負けて、寝てしまっていたとしたら、その瞬間に絵凪のことを忘れ去ってしまっていたのだろうか?学校のど真ん中で?そんな摩訶不思議なことがあるのだろうか?いやいや、既に掣踆ペーシェントなんて摩訶不思議以外の何者でもない事象がある以上、何が起きても不思議ではない。まして、自分自身がその生き証人ではないか。
せっかく持ち越すことに成功した記憶が危うく消えそうになっていたことに、気が付き、ヒヤヒヤしていると、ようやく気付いたかというような顔で、神月先生がオレと目を合わせ、ウインクした。か、可愛い……。ではなくて、ゲンコツは体罰ではなく、先生のファインプレーで助かったということだったのかと、感謝するばかりである。だが、それと同時にゲンコツではなく、いつも通りアイアンクローでもよかったのではないかと、思ったりもしたが、助けてくれたことには、変わりがないので、素直に感謝します。
眠気と意識はリンクしているようで、絵凪のことを思い出してからは、眠気というものはほんのかけらすらも、なくなっていた。
その後、4限までの授業を終え、昼休みに突入した。
なかなかにヒヤヒヤするタイミングもあったものの、朝からここまで、何の進展もないまま来てしまった。
現在の優位性を最大限に活かして、絵凪とのアプローチを試みるべきなので、その作戦を練っている真っ最中である。おそらく今日が絵凪を救うための大切な1日にする必要があることは、間違いないのだが……。
何かあると見せかけて、まだ何も起きませんでしたね(笑)
勿体ぶってすいません、次回からは間違いなく動きがあると思います!
それでは今回も読んでいただきありがとうございました!次回をお楽しみに!!




