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『乙女モード』全開☆のオレと、踊るプリンシパル  作者: 千園参
第1話 You can't remember 《  》 -あなたは『  』を記憶できない-
15/30

Part 15

2日で1部分を書いているペースになってきましたね。なんとか上手い具合に物語も折り返せているかなと思うのですが、読まれていない感じを見ると、飽きられてしまったということなんですかね(汗)

それでは楽しんでいってください!よろしくお願いします!

 地面に叩きつけられた牛乳は、ストローを伝って下界に垂れ流れて、床をみるみる内に、白く染めていく。

 それから少しの間隔を開けて、牛乳が床でくたびれていることに気がついた。

「あ、」

 その一連の様子を、黒髪ロングの美少女は、冷ややかな目で見ていた。食べ物を粗末にしてごめんなさい……。

 地面に横たわる牛乳を見て、あたふたしていると、そんなことに目も暮れず、黒髪ロングの美少女は、鉄格子の下にある段差にゆっくりと腰掛け、スカートとニーソックスによる絶対領域の上で、お手製だと思われる弁当を展開し、黙々と食べ始めた。

 そんな状況下において、しばらく放置された汚くも思えてきた牛乳と、黒髪美少女の綺麗な食事を、首を振って交互に見ることしかできなかった。オレは一体何をやっているのだろうか?

 そんなことを考えると、一気に馬鹿馬鹿しくなり、オーバーヒート気味だった頭もようやく、冷静になってきたというものだ。

「はーあ」

 鉄格子にもたれかかり、わざとらしい溜息をつくと、クスッと言う笑い声のようなものが、黒髪少女から聞こえてきたような気がした。彼女の方に目を向けると、彼女はサッと、顔を逸らした。

「今笑った?」

 とりあえず、尋ねてみる。すると、彼女は素早く表情をリセットさせ、鋭い目つきで、

「いえ、笑ってないわ。今のどこが面白くて笑うところがあるのよ?」

 と、高圧的な態度を取られてしまった。怖い、怖すぎる。背筋にゾクりと何かが走り抜けたようだ。

()()()()()()()()!」

 オレは、そう口にした。しばらくの沈黙が屋上を丸呑みにした。そしてハッとした時、自らが発した言葉の違和感と、目を見開き、驚いたような表情を見せる黒髪少女の姿に気が付いた。

「オレ……今なんて……」

 戸惑っていると、黒髪少女の顔は、紅葉のように真っ赤に染め上がっており、とても可愛らしいものだった。

「今、私の名前……どうして……忘れてるはずなのに……」

「えっと……君は……」

 さっき言ったはずの名前が出てこない。どうしてこんな大事な時に、何も出てこないのかと、脳内パーソナルコンピューターを呪った。

「君は、誰だっけ?」

 彼女に名前を尋ねると、彼女はまるで魔法が解けたかのように、我に返り、潤んでいた瞳は凍てつきを取り戻してしまった。

 そして弁当を片付け、その場を早足で退散していってしまった。出て行った時、扉をバタンと力強く閉めたのが印象に残った。彼女が屋上を出て扉を閉めると、扉の前で、モジモジと立っていた来夢と黒髪少女がすれ違ったことは、扉の向こうの出来事であるため、当然知らない。さらにその時、おっとりした来夢の目と、黒髪少女の氷のような瞳が、衝突していたことなど、知っているはずがないのだ。

 考えなくてもわかる、彼女を傷つけてしまったということは。それと同時に彼女がノートに書かれている絵凪玲ではないかという仮説も立てることができた。あくまで仮説ということが重要である。何故なら、ノートに書かれた絵凪という特別な関係の人ではなく、もしかすると、単にオレのことが好きな女の子という線も捨てきれないからであった。

 教室に戻ると、ここであることに気がついた。それはクラス写真である。オレのスマホや、そのほか絵凪のことを考えている人間が撮った写真から、絵凪が消滅してしまうのであれば、何も考えずにただ撮られたクラス写真であれば、その存在を残すことができるのではないだろうか?これは試す価値がありそうだ。


 善は急げということで、放課後に神月先生の元を訪ねる。しかし、このような話は職員室でできる内容でもないので、誰も使っていない教室で話すことになった。

「私に何か用か?」

「はい。絵凪玲が写っているクラス写真ってあったりしませんかね?」

「えらく急だな。そんな物を求めてどうするつもりだ?変態にでもなるのか?それなら黙って渡すわけにもいかないし、それに少し教育も必要だと思うが、どうだろうか?」

「いやいやいや!違います!話を聞いてください!!」

 必死に否定する。

「ほお?なら、話してみろ」

 そしてノートに書かれている実験報告の話を交えながら、写真が必要な理由を丁寧に答えていく。

「なるほど、本人を直視してしまうと、ドキドキして話しかけられないから、写真で己の欲求を済ませようってわけか。発想が変態丸出しだな」

「いや……、全然なるほどできてないですよ……。なんてこと言うんですか……」

 そう返すと、神月先生は高笑いして喜んでいる。喜ぶのはいいことなので、止めはしないが、その喜び方は悪趣味過ぎるのではないだろうか。

「なるほど、そういうことなら仕方ないな。ちょっと待ってろ」

 そう言うと、先生は席を立ち上がった。今度は本当に納得してくれたようだ。それから絵凪が在籍している1組の担任に話を通してくれたようで、予備の写真をコピーして紙媒体でオレの前に出された。それを受け取ろうと手を出すと、神月先生は紙をサッと引っ込め、受け取りを空振りさせられた。

「ほーら、お前が喉から手が出るほど、欲しかった絵凪の写真だぞ?」

 紙をピラピラと目の前で、波打たせ、勿体ぶる。この人、こんなに面倒くさい人だっただろうか?

「どうした?欲しくないのか?欲しいなら、それ相応の頼み方ってのがあるんじゃないのか?」

 ニタニタとした、いやらしい顔で紙を見せびらかしてくる。一体どうしろと言うのか。土下座を御所望なのだろうか、それとも自主的に靴を舐めれば満足するのか?

「オレにどうして欲しいんですか?」

「いちいち、私が教えてやらなければダメなのか?私は別に誠意を見せろなどと言っているわけではないぞ?普通にお願いすればいいだけの話だろう。お前さては、何か変な想像をしているな?」

 謀られていたというわけのようだ。

「絵凪を助けるために、その写真が必要なんです。それをください。お願いします」

 と、手を伸ばす。すると、先生はあっさりと紙を渡してくれた。果たして、この下りは必要だったのだろうか。絶対に必要なかったと思うのだが、もうこの事は考えないようにしよう。

「それと先生に聞きたいことが、もう一つあります」

「なんだ?」

「掣踆ペーシェントについてです。掣踆ペーシェントは、心的要因が起こることが多いって以前言ってましたよね?」

「言ったな。それがどうかしたのか?」

「絵凪にも、何か忘却クロッパーを引き起こすことになったわけがあるのでは、と思いまして、何か知っていたら教えてくれませんか?」

 問いに対して、先生は少し考える素振りを見せてから、個人情報を護るために閉ざしていた、重い口を開いてくれた。

「絵凪の両親は2人共に外資系企業に勤務していてな、側から見れば、お金持ちのお嬢様というやつだ。しかし、それはあくまで見た目の話。お菓子の家と似ているな。お菓子の家、考えると幸せになるが、その実態を考えると、苦労が絶えない。そもそも生活性がない、蟻に壊される可能性すらあるなどなどな」

 なぜ今、お菓子の家を例えに出したのだろうかと疑問に思ったが、先生はとても真剣に言葉を進めていくので、そんなことは気にせずに、話に聞き入る。

「絵凪の家は皆、見た目の話しかしないが実態は幸せとは、かけ離れているもののようだな。両親は海外での仕事が多いため、1年の殆どを家にいない。それ故に絵凪は独りぼっちということになる。2人の仕事の邪魔はできないと、いい子ちゃんを演じてはいたものの、まだ成熟していない心を騙し続けることに耐えられるほど、お利口ではなかったんだな」

 神月先生は教室の窓からグラウンドを眺めて、絵凪の家庭環境を教えてくれた。ここまで話してもらえれば、もう答えは出ているようなものかもしれない。

 忘却クロッパーを生み出した原因、絵凪は隠しきれない孤独を感じるようになっていたのだろう。全く両親に構ってもらえないという気持ちは次第に、自分はもしかすると忘れられているのではないかと、そう思うようになった。人は厄介な生き物で、嫌なことが思い浮かぶと、それを取り払うのはなかなか難しいのだ。そしてそこからはトントン拍子というわけだ。絵凪の思いが強くなればなる程、絵凪のことを思う人たちから絵凪に関する記憶を奪っていった。

 皮肉なことに絵凪のことを覚えておける人間は、絵凪のことをどうでも良いと考える者たちだけになってしまったのだ。なんと残酷な話か。

 美人で頭も良く、お家はお金持ち。全てが揃っているように思える彼女にも、彼女しか知り得ない悩みがあった。しかし、そんな家庭の事情を誰に相談できただろうか?そんな話、誰にも言えるはずもなかったのだ。だから、彼女は抱え続けた、自分の我慢という器が既に溢れかえっていることにも気付かずに。忘却クロッパーを砕く方法があるとするならば、それは抱えきれない思いを、重いを、一緒に抱えるということなのかもしれない。

 傷つきたくないと心を閉ざした彼女の心に、寄り添うことこそが大事なのだ。

「先生、ありがとうございました」

 小さく頭を下げ、教室を後にしようと振り返る。

「忘却クロッパーの原因は大方見当がついたって顔だな。だがな、おそらく事はそう簡単にいかないぞ。それこそ、お前が持っているノートに書かれているように、乙女モードの力が必要になるタイミングが出てくるはずだ。お前にできるか?」

 神月先生がオレを引き留める。

「正直言って、乙女モードはあんまり使いたくないですからね。その時が来てみないとちょっと……。その時、もし乙女モードを使えなかったとしたら、絵凪への気持ちは所詮その程度だったってことでしょうから」

「そうか。まぁ絵凪をどうするかはお前に任せる。今回は私が解決に乗り出すまでの事例ではなさそうだしな。この一件が片付いたら、報告書だけ書いてくれ」

「え?」

「当たり前だろう?掣踆ペーシェントの情報を集めるのも私の仕事だぞ。忘却クロッパーが如何なるものなのかを、最もその身で体験しているのは、お前くらいだろうからな。お前の貴重な意見をレポートにまとめてくれ。期待しているぞ」

 そんな期待はいらないのだが……。さっきまでかいていなかった謎の汗を額から垂れ流すことになってしまった。それに加えて、今なら鏡を見ずともわかる、自分の顔が引き攣っていることぐらい。

 もし最悪レポートに困ったら、このノートを献上することにしよう。絵凪を助けることができれば、こんな恥ずかしいものなど家に置いておけないからだ。

「さて、帰るか」

 教室を後にし、この日は家にまっすぐ帰った。そして明日に備えて、寝るのだった。ちなみに今日の晩御飯がカレーうどんだった事は言うまでもないのかもしれない。

あと数部分で絵凪玲編もいよいよ完結です!長かったような短かったようなという気分ですね。しかし、もう終わりだからと、気を抜かずに頑張りたいと思いますので、よろしくお願いします。

それでは今回も読んでいただきありがとうございました!次回をお楽しみに!!

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