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『乙女モード』全開☆のオレと、踊るプリンシパル  作者: 千園参
第1話 You can't remember 《  》 -あなたは『  』を記憶できない-
13/30

Part 13

年が明けて、仕事も年度末に向けて忙しくなってきたので、なかなか執筆が思うようにできなくなってきましたが、なんとか頑張っていきたいと思いますので、よろしくお願いします!

それでは楽しんでいってください!

「それでは僕はこれで失礼しますね」

「おう、またな」

 来夢は走りながら、可愛く手を振った。それに対して手を振り返す。なんと可愛らしい少年なのだろうか。

 来夢が扉を開けると、扉のすぐ横に絵凪が立っていたことなんて、知る由もない。

 もう絵凪のことはここでちゃんと諦めて、これからは来夢がヒロインで良くないか?きっとオレ程度の物語なら、それで丸く収まりそうなのだが。やはりダメだろうか。ダメに決まっている。

 牛乳を吸い尽くし、角ばっていた紙パックがペシャンコに萎れたところで、屋上を後にした。

 それからは午後の授業に移ったのだが、授業中、あることが気になった。もし明日、実験が失敗して絵凪のことを忘れてしまったら、この先どうなるのかということだ。

 実験は途中で止まってしまうということになるのだろうか?そこから実験再開の見込みは立つのだろうか。いや、きっと明日を何事もなかったかのように過ごすのだろう。そこに絵凪という少女はいない。そんなことを永遠と繰り返していくしかない。それだけはもうダメだ。どうにかして実験が失敗しても、明日へと繋いで行かなくては。


 放課後---

 特に予定もないので、スーパーマーケットで買い物を済ませて帰宅する。

「ただいまー」

「お兄ちゃん、おかえりなさいまへ!」

 長引きに長引いた筋肉痛も、ようやく完治したようで、本調子全開の瀛がお出迎えにやってきた。

 そこからいつもなら風呂に入り、晩御飯を食べるという流れだ。部屋中にはカレーのスパイシーな良い香りがお腹の産声を誘う。だが、今回は自室に向かう。それに珍しさを感じた瀛は、不思議そうな顔を浮かべる。

 自室で行うこと、それは今日のセーブである。今日、学校で起きたことをノートに書き残し、明日ノートを机の上に置いておくことで、それを引き継ぐ作戦だ。

 1つ疑問なのは、なぜ過去のオレは、そんなことが思い浮かばなかったのかということだ。

 このノートに書かれている通り、絵凪から症状の説明を受けていたのだとしたら、これぐらいの対策は取れたようにも思えるのだがと、不思議でならない。

 しかし、こういった閃きは環境下や置かれている状況、立ち位置だけでも、大きく変わるものなのかもしれない。立ち位置が変わるだけでも、モノの見え方や捉え方が変わるように、その時は全く思い付きもしなかったことが、後になって考えてみると、何故こうしなかったのかと後悔するのは人間の常だ。

 何度も記憶を失ったことで、今日のオレがようやく、この答えを導き出したということなのだろう。

「さてと」

 ノートをパラパラとめくり、実験が書かれたページを開こうとした時、別のページに何かが書き込まれていることに気がついた。

 そのページを開く。なんと、そこには()()()()の美崎昊が、行ってきた実験の全てが記されていた。実験報告書とでも言うべきか。

 遊園地に行ったこと、水族館に行ったこと、動物園に行ったこと。その時々に見せる絵凪の反応、自分自身の心理描写。オレの知らない、オレが失ってしまった絵凪玲に関する記憶、その全てが書き込まれていた。残念ながら、その書き込みは、4月末から飛んで、5月12日に一度だけ書かれたことを最後に更新は途絶えていた。

 実験は今日始まったものだとばかり思っていた。だが、それは違った。4月、今より1ヶ月も前から絵凪を救うための作戦は実行されていたのだ。



『4月26日、この日は絵凪玲という1組の女子生徒と友人になった。まだ確証はない。だが、おそらく彼女は掣踆ペーシェントに侵されている。症状は彼女に関する記憶が周囲の人間から綺麗さっぱり抜き取られるといもののようだ。この掣踆ペーシェントだけは、病院で治せるものではないことは、同じく掣踆ペーシェントのオレが一番わかっている。どうにかして彼女を救いたい。

 しかし、この記憶が明日27日に引き継がれるのかすら、わからない。だからこそ、今できることをこのノートに書き記し、明日へと繋げようと思う。

 この日は遊園地に遊びに行くことになった。知り合ったばかりの玲は、どことなく暗い顔をしていて、元気がなくなっていたが、遊園地で時を過ごすにつれて、彼女は笑うようになった。普段はクールで、どこか近寄り難い見た目をしている彼女だが、笑顔はとても可愛らしいことがわかった。これだけでも今日を共にした甲斐があったというものだ。この記憶が明日残ってくれればいいのだが、、、。



 4月27日、26日として書かれた記録のことは何一つ覚えていない。当然、絵凪玲が誰なのかすらも、朝にはわからなくなっていた。そもそもわからないことにすら気付いてもいなかった。その事実を知ったのは、昼休みのことだ。玲はとても和やかな表情で、まるで親友にでも声をかけたかのように話しかけてきたのだが、その時のオレは彼女のことを初対面だと思っているため、なぜ彼女がオレのことを知っているのかと、驚きを隠せなかった。しかし、その場で昨日、彼女とデートした際に撮られたであろう写真を見せてもらったことで、玲が今日話したことは全て本当なのだと、信じる他なかった。

 そしてもう一度、彼女のことを1から知り直し、デートへと繰り出すことにした。

 今日は水族館にやってきた。テクテクと歩くペンギンを見て、微笑ましそうにする姿や、イルカショーで無邪気に喜ぶ彼女に、自然と惹かれる自分がいることに気がついた。

 今度こそ彼女を覚えていたいのだが、、、。



 4月28日、机に置かれたノートを見ても、絵凪玲の存在を何一つ思い出せない。二度に渡り、彼女とデートしたようだが、そんな記憶は全くない。昨日のことなのに、何も思い出せない。どうして何も思い出せないのか。

 しかし、ノートに予め目を通しておいたことによって、玲と初対面しても動揺することなく、会話をすることができたが、初対面の人を相手に、友達のように振る舞うのには限界があり、どうしてもよそよそしいような、ぎこちないような態度になってしまっている。おそらく、そのことに関しては玲も気付いていたことだろう。それでも彼女は、そのことを決して態度には表さず、友達として接してくれた。これではどちらが助けているのかわからない。

 なんだかんだを済ませた後、動物園に出かけることになった。キリンにゾウ、そしてパンダ。可愛い動物たちと触れ合う彼女は、とても可愛く、その可愛さは動物以上であった。記憶などない、あるのはノートにオレの字で書かれた、嘘か本当かわからないメモのみ。それで今日知り合ったばかりの玲にどうしてここまで惹かれるのだろうか?だがしかし、玲のことを好きになればなるほど、辛さも増していった。

 オレはあと何回、彼女に初めましてを言わなければならないのだろうか。あと何度、玲を傷つければ、この連鎖は終わるのだろうか。

 もうオレでなくてもいい、誰か彼女を助けてくれ、、、。



 5月12日、ノートを更新する。4月29日からのゴールデンウィークを挟んだことで、絵凪との関係が完全に途絶えていたようだ。4月26日からの話を絵凪本人から聞いたことで、彼女を助ける術を考えようとノートを開いたところ、過去にオレ自身が書いた、この日記と《絵凪玲を救う方法》を発見した。どうやらこのノートには、過去の美崎昊に向けられた絵凪の笑顔が詰まっているようだ。当然のことながら、ノートに書かれている事柄など、何一つ覚えてなどいない。しかし、今度こそ過去のオレ達が心から望んだ絵凪玲の救済を実行する時だ。』



「これが過去のオレ……」

 日付を見るに、どれもついこの間の出来事だというのに、全く思い出せない。

 どの瞬間もノートに描かれた美崎昊は絵凪玲のことを大切に思っている。そして今も……。これまで16年の人生の中で、これ程までに誰かを大切に思ったことがあるだろうか。きっとこれが初めてのはずだ。

 その時その時を生きていた昊たちは、彼女の純粋な可愛さに魅せられてきた。今日だって、その例に漏れない。

 オレは絵凪玲に一目惚れしている。きっとこれだけ彼女のことを想っていれば、明日記憶を保っていることはどう考えても難しいだろう。

「やれやれ、オレは一体何をやってるんだか。こんなんじゃ全然ダメだよな……」

 自分に呆れつつも、その心はとても穏やかで、温かいもののように感じた。

 ノートを眺めて微笑んでいると、その様子をドアの細い隙間から瀛が覗き見していた。

「お兄ちゃんは一体どうして、ニヤニヤしているのでしょうか……」

「瀛、部屋を勝手に覗くなっての」

「だって、今日のお兄ちゃんは変なのです」

「どの辺がだ?」

「いつもなら帰ってすぐに、お風呂に入るのに、今日はまだお風呂にも入らず、ノートを眺めてニヤニヤしているのんですよ!?これが変でなくて、何が変だと言うのですか!?」

 瀛はセリフの勢いで、後ろにのけぞった。

「まさか、熱でもあるのですか!?」

 さらに追い討ちをかけてくる。

「もうわかったわかった。風呂に入るよ」

 ノートを鞄にしまい、浴室へと向かう。

「妹よ、これからは兄の部屋を覗き見るのは止めろよ?」

「何故なのです!?やはり見られて、やましいことをしているからなのですか!?」

「いや、そうじゃないんだよなー」

 瀛はオレが不良にでもなったと思っているのだろうか?

 しかし、これ以上何かを言っても、話が余計にややこしくなりそうなので、黙って風呂に入ることにした。

 そこからはいつも通りだ。風呂を上がると、テーブルには、先程からずっと匂いがしていたカレーライスだ、と思っていた時期がオレにもありました……。

 なんとスープカレーで、お供はナンだった。

「ナン……だと!?」

 ナンだけに何だと、わかってくれただろうか。

「テレビでやっていたので、ウミはナンとカレーが食べたかったのですよ!」

「なるほどね。それでナンを作れるお前が凄いよ……」

「えへへ、もっと褒めてください!」

「偉いぞー」

「言葉に少し棒を感じる気もしますが、それは良いのです。食べましょう!」

 テーブルにつき、手を合わせ、ナンをスープカレーに染み込ませた。何が凄いか、それは2人暮らしを始めてから以降、瀛が作る料理にハズレがないということだった。

「おお、美味いな」

「お口に合って、よかったのです」

 瀛はえっへん、というような振る舞いを見せた。

 瀛には間違いなく才能がある。それも天才という才能だ。テレビを見て、出てきた料理を食べたい、作ってみたいと思うことは、よくあることだろう。しかし、そこから、いざ作るとなった際にナンの失敗もなく、作り上げることができる人間が、果たしてどれほどいるだろうか?瀛の才能は正しく料理人に向いていると、そう思えてならない。

 だが、それを決めるのは、あくまでも本人だ。

「瀛、お前将来なりたいものとかあるのか?」

 瀛は迷わず、すぐさま答えた。

「お兄ちゃんのお嫁さん!」

 聞かなかったことにしよう。

「ちょっと待ってください!お兄ちゃんから話を切り出したのに、聞かなかったフリをしないでください!」

 今日も美崎家は平和だよ、父さん、母さん。

度々登場する妹の瀛ですが、彼女にも当然の如く、今後スポットを当てようと思っています。

それでは今回も読んでいただきありがとうございました!次回をお楽しみに!!

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