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『乙女モード』全開☆のオレと、踊るプリンシパル  作者: 千園参
第1話 You can't remember 《  》 -あなたは『  』を記憶できない-
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Part 1

今回は珍しいジャンルに挑戦してようということで書いてみました!

読んでくれると嬉しいです!よろしくお願いします!!

「どうせ……何度仲良くなったって、何度好きになったって!なんにも覚えてないくせに!!」


 5月20日、梅雨入りにはまだ早いのではと思わせる雨が、かといって、とは言えど、春雨というまででもない、五月雨が容赦なく降り続くそんな中、少女は走った勢いで足を滑らせ道路に投げ出されてしまった。放り出されてしまった。

 足を痛め、動けなくなった彼女の目の前には、大型トラックがクラクションを鳴らしながら迫っていた。キュー!と運転手が必死に、決死でブレーキを踏んでも、濡れた路面の上では無力。タイヤは滑り、全く止まる気配はない。どころか無理なブレーキングによって逆にコントロールを失い、より危険性を増している。

 彼女がもうダメだと諦めようとしたその時、突然として現れた少女が片手で大型トラックを止めたのだった。大型トラックのフロントには手形の凹みがボコり、ベコりと、付けられていた。


 Phase 1

 第1話 You can't remember 《  》 -あなたは『  』を記憶できない-


 それはそれは遡ること5月10日ーーー

 ゴールデンウィークも明け、大型連休が明け、夜が明け、いよいよ1学期も暖機運転から、本格始動しようかという頃合い。いやいや、そんなのは嘘である。皆、連休明けで休みがもっと長ければと、五月病を発症させる患者が多くなる頃合いで間違いないだろう。もちろんこの気怠そうな男もそのうちの1人だ。

 何よりものんびりしている時間が大好きなオレの名前は美崎昊みさきそら、16歳。この春からここ賀晴がはれ高校で進級した、ピチピチの高校2年生だ。トレードマークはこの頭に生えているアホ毛ぐらいなものだろうか。というか、それ以外に取り柄が全くない。取るに足りない。取るまでもない。オレ自身もそれをしっかりと自覚している。そう、本当に何もなかったのだ。高校2年生になる前の春休みまでは---


 重い足取りで、重い足を引きずって登校していると、後ろから勢いよく、背中を叩かれた。

「あだっ」と後ろを振り向くと、振り返ると、そこには赤縁メガネをかけた隣のクラスの学級委員である華村真琴はなむらまことが立っていた。


 華村とは去年まで同じクラスで、彼女はそこで学級委員だったのだが、進級の際にクラスが分かれてしまった。しかし、クラスが分かれた今でも、訳あって、色々あって、紆余曲折あって、こうして、そうして、ああして、どうして、交友関係は続いている。

「朝は大事だよ?シャキッとしなさいシャキッと!」

 彼女は全人類のお手本のような人だ。学生服を着崩さず、髪はボブカットで清潔感があり、成績も学年トップと優秀。そんな彼女に学級委員という肩書きがついたなら、それはもう委員長というアダ名を付けずして、他に一体全体何体をつけると言うのだろうかと、常々そう思っているが本人には言わない。

 彼女はそれほどまでに優等生。優等生が優等生を着て歩いているような優等生、他にも優等生の擬人化、優等生が服を着て歩いている、服が優等生を着て歩いてる、優等生を着た悪魔、棚から優等生、優等生ユウトウセイゆうとうせい。

「はいはい…」

 オレが気だるく返事をすると、華村は---

「『はい』は一回っ!」とテンプレートのように注意する。これがまた見事なテンプレートであり、これほどまでにテンプレートが似合う人が他にいるだろうかと。

「はい」

 2人で通学路を歩く中、オレは気になっていることを尋ねてみることにした。

「華村って今、3組の学級委員だろ?生徒会とかにはならないのか?」

 それに対して華村は---

「うーん、生徒会役員まではいいかなーって」

 顎に人差し指を当て、首を傾げながら話す彼女の姿は、どこか男心をくすぐる何かがあったような気がした。

「へぇーなんか意外だな。そのうちはクラスのトップだけじゃなくて、全生徒のトップに君臨するんだとばかり思ってたけど」

「君臨って、美崎くんは、私をなんだと思っているのよ!それに仮に私が立候補しても誰も私を支持しないもの」

 そう言う華村はどこか儚げな雰囲気を漂わせているように思えた。

「そんなもんかねー」とオレが何気なく返していると、学校に到着した。



 校門を過ぎると、玄関のロッカーで生徒たちが靴を履き替えている。オレもいつものように靴を履き替えようとロッカーから上靴を取り出した時、隣でそれはそれはとても可愛い、可愛らしい、容姿端麗という言葉がよく似合う、容姿端麗という言葉を我が物としたような、歩く容姿端麗といった黒髪ロングヘアの女子生徒が、上靴に履き替え、校舎へと入っていった。


 何故だか、どうしてだか、なんでだか、オレはその子に見惚れてしまっていたのだった。

「ちょっと何、見惚れてるの?」

 華村がムッとしたような、これまた可愛らしい顔で、オレの肩を叩く。

「あー、賀晴うちにあんな可愛い子いたっけ?」

 オレは彼女が歩いていった方角をただただ一点、一点ただただ、ただ見つめながら、見据えながら、華村に尋ねる。

「1組の絵凪さんじゃない。知らないの?」

 何を今更と言わんばかりに、何を当たり前のことを聞いているんだと言わんばかりに華村が答えてくれる。というか、「知らないの?」と言われている時点で、言わんばかりではなく言われているようなものだ。

「あー、全然知らないな」

 しかし、だがしかし、華村が何を当然と思っていてもおかしくはないだろう。何もおかしくはないだろう。あれほどまでに可愛い子ならば、印象に残る子ならば、名前は知らずとも、その存在ぐらいは知っていてもおかしくはないはずだ。それに隣のロッカーなら尚更、尚のこと、見かける機会もあったはずなので、気付くはずなのだが、はずはずはずなのだが、どうしてオレは彼女の存在を知らないのだろうかと、首を傾げるしかなかった。


「でも、絵凪さん1年生の時はもっと明るかったと思ったんだけどなー」

 華村がポツリと呟く。

「マジか」

 オレはそんな相槌を打ちながらも、絵凪のことが妙に、奇妙に、微妙に、絶妙に、気になって仕方がなかった。その疑問は授業中にまで引きずられていた。引きずり回されていた。

「この問題わかる奴いるか?そうだな。よし、美崎。おい!美崎!」

 数学が担当科目のオレのクラスの担任、神月刀真かみつきとうま先生がオレを当てるが、ボーッとしていて反応が遅れてしまっている。しかし、数学はオレの得意科目だから、なんとか急場を凌ぐことができた。

「わかるからって授業をボーッとしてていいわけじゃねぇんだぞ!わかったか美崎っ!」

 と、神月先生がオレのお尻に膝蹴りを入れた。

「痛い!」

 神月先生も容姿が整った所謂、美人先生というやつで長い髪をポニーテールにしているのが、またいいのだが、さっきのキックのように、見ての通りの男勝りな性格が災いし、30に乗っかってもまだ彼氏すらいないということらしい。


「おい、いい度胸だな美崎くぅん。私の説明が随分上手いなぁ美崎くぅん」

 席に戻ろうとするオレの頭を神月先生は、不気味なまでの笑顔で、恐ろしいまでの笑顔で、怖いくらいの笑顔で、ホラー映画に出てきそうな笑顔で、背後からアイアンクローで握り潰す。

「す、すんませんした……」

「分かればいいんだよお美崎君。とっとと席に戻れオラ!」

 そう言ってオレの頭を、ボールを投げるかのように押し出した。オレは痛む頭をさすりながら、席についた。



 その後、なんとか授業をやり過ごし、昼休み---

 オレはいつものように校舎の屋上で、鉄格子越しのグラウンドを眺めながら、お手製のお弁当とそれに付属している、もとい、付属させている紙パック牛乳をストローで啜る。これこそのんびりするのが大好きなオレの昼休みルーティンというやつである。

 このように昼休みを満喫していると、屋上の扉がガチャと音を立てて、開いた。

 屋上にやってきたのは、なんと今朝方の美少女、絵凪玲えなぎあきらだった。その容姿はいつも見ても綺麗なので、そんな気はなくとも、やましい気持ちはなくとも、何も考えていなくとも、思わず見惚れてしまう。

 しかし、なぜ彼女が1人でこんなところにやってきたのだろうか?不思議そうに彼女の動きを目で追った末に---

「友達いないの?」

 と、思わず声に出してしまった。思わず尋ねてしまった。思いが具現化してしまった。気持ちが言葉に表れてしまった。心が漏れ出てしまった。

 すると、絵凪は---

「はぁ?」

 と、可愛らしい顔からは想像できない、全くと言っていいほど想像できない、鋭い睨みを効かせ、冷たい氷のような声でそう言った。氷のようなではない、もはや氷そのものであったかもしれない。

 口を滑らせたオレも悪いがと思いながらも、反省しながらも、戒めながらも、想像していたよりも怖い反応だっただけに、ギョッとしてしまった。


 そして絵凪は屋上の鉄格子のところにある段差を椅子のようにして腰掛けると、太ももの上でおそらくお手製だと思われるお弁当広げ、食事を始めた。その姿は何と言うか、可愛い、シンプルに可愛い、とても可愛い、すごく可愛い、とにかく可愛い、まあ可愛い、そう思うのであった。なるべく見ないようにしたいのだが、気がつくと彼女に視線を奪われてしまっている。目を奪われてしまっている。

 視線に気づいたのか、絵凪が箸を止めた。

「そんなにジロジロ見られると、ご飯が食べにくいのだけれど」

 これまたエッジの効いた声で言う。声で人が殺せるとはこのことかと。

「ご、ごめん。そんなつもりはないんだけれど。それにしてもさ、オレ、君に何かしたかな?」

「どうしてそう思うのかしら?」

 その返しすらも、とても冷たい。冷たすぎる。冷たいを通り越して逆に温かい。

「いや、なんて言うか……。初対面にしては冷たすぎない??」

 オレがそう言うと、絵凪は---

「初対面…ね……」

 どこか含みのある、深みのある呟きをすると、より一層機嫌を悪くし、せかせかと弁当をしまい、バタン!と扉を勢いよく閉め、その場を去っていってしまった。一体全体何体がそこまで彼女の気に障ってしまったのか、全くわからなかったオレはそのまま屋上に1人、静けさに、静寂に、包まれることとなった。



 その衝撃の昼休みが再びオレの尾を引っ張ることとなり、午後からの授業も全く集中することができなかったことは言うまでもないが、一応話しておくとしよう。

 どうしてこんなにも彼女のことが気になるのだろうか。まさか!これが真の恋というやつなのか!?彼女こそオレの運命の人なのかもしれない!!

「こうしてはいられない!」

 そう思ったオレは、玄関で絵凪を待ち伏せすることにした。待ち伏せしてみることにした。

「貴方こんなところで一体何をしているの?」

 まるでクズを見るかのような、冷ややかな目を向けてくる。残念ながらオレはそんな目で踊り出すようなドのつくMではないのだと、自信を持って答える。自信満々に答える。答えてみせる。答えきる。答え抜く。

「残念だったな絵凪」

「何の話をしているのかしら。馬鹿なの?」

 絵凪はそう言うと靴を履き替え、校門へ向けて歩き出した。歩みを進めた。そんな彼女を急いで追いかけて回り込み---

「ちょっまてよ」とか言ってみたりするも、

「どいてくれるかしら?鬱陶しいんだけれど」

 おっと今度はゴミを見る目ときましたか。

「そんな目でオレを開発できると思ったら大間違いだぜ?」

「だから、さっきから何の話をしてるのよ!用がないなら話しかけてこないでくれるかしら?私も暇じゃないの」

 彼女はムキになったように言い放ち、ズカズカと去っていってしまった。

 この時のオレは何も知らない。彼女が抱えている悩みが何なのかも。そして彼女が何故オレに対して、これほどまでに冷たいのかを。

読んでいただきありがとうございました!次回をお楽しみに!!

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