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おひさしぶり(すぎる)です、こんにちは。
グラナシエール系物語の続き、三作目です。このお話から読んでも分かる感じにはしていますが、時系列的には『星空の魔道書と灰色の竜』の数ヶ月後、から始まっています。
詳細は、あらすじ欄をご確認下さい。
そして一作目、発売中です! と宣伝してみる……どうぞ宜しくお願い致します。
僅かに透ける黒いベールと黒い衣、色とりどりの星がまたたく夜空のように宝石類が鏤められたアクセサリを身に着けた占者が、漆黒の玉に両手をかざした。
全てを黒に塗りつぶす闇の中、微かな、今にも消え入りそうに煌めく砂塵のような光が浮かび上がる。
占者は光の動きをじっと見つめながら、謡うように語りだした。
「──グラナシエール。グラナ・エトワ・シエール。無数なる星々の宙。消えゆきかけし星々を拾い上げ、創りあげられた世界。その始まりは、終わりなる追憶の果てに」
* * *
空を覆い尽くさんばかりの枝葉が生い茂る森の中を、俺は全力で駆け抜けた。それも必死に。
マジで必死だ。何故なら、いま足を止めれば確実に死が待っているからだ。
俺の名前は、宵月。
冒険者協会に登録されている番号は、No.0028769I。
所属パーティは【蒼銀の風】。
職業は、冒険者の間では数える程しかいないと言われている【魔導学者】。
武器は魔導書【アルグリフィの研究書】。上位元素を研究しすぎて身を滅ぼした研究者が綴った本、と言われている。ちょっと気持ち悪、いや、不穏な出自の魔導書ではあるが、今俺が持っている武器の中では一番強いのだから仕方がない。
現在の状況を手短に説明すると──怒る魔物の追走から絶賛全力逃走中である。
なにがどうして、こうなった。
突如、地面が振動するほど大きな咆哮が、森の中に響き渡った。
「っつう……」
あまりの音量に、耳の奥が痛くなる。それに加えて、なにやら大きなものが木々をなぎ倒し、草むらを押しつぶしながら進んでくるような音。
「ぜえ、討伐対象が二匹もいるなんて、はあ、聞いてないぞおお!? 依頼書には、『魔物討伐 一体』って、書いてあったじゃないかあ! 詐欺だ! 抗議だああ!!」
「「コーギだー!」」
大きな柴犬みたいな耳が頭の上についた幼い双子の犬人族の姉妹、レフとライが、声を綺麗に揃えて俺の言葉を復唱した。双子は小さな身体を軽々と跳ねさせながら、俺の両脇を走っている。ケープの裾からのぞいているふさふさの尻尾は、怖いからか、ちょっとだけ内側に丸まってしまっている。
「うーむ。抗議するのは難しいと思うぞ、宵月。依頼書には、『一体 だけ』とは書いてなかったからな」
俺の背後を走るパーティリーダーのジェイスから、冷静かつ的確なつっこみ、いや、返答が返ってきた。いつもながら非常に落ち着いている。ていうか、なんでこの切羽詰まりすぎてる状況でそんなにも落ち着いていられるのか。
問い質したくなって振り返ると、蒼銀色のばさばさの髪に着古した黒いコートを着た背の馬鹿高い青年が、馬鹿でかい剣を肩に担いで走っていた。余裕の表情で。その無駄にあり余ってる体力と筋力、俺にも少し分けろよコン畜生。
その青年の、更に後ろへ視線をずらすと──
木々と同じ高さ位まで頭をもたげた、二つ首の大蛇みたいな姿をした魔物が間近まで迫ってきていた。
「ぎゃあああ!? うそお、追いつかれた!? ニョロニョロ移動なくせになんでそんなに速いんだよ!!」
場所固定で出没する魔物は、その場所のみが縄張りでもある。故に、そこから外れたものをわざわざ飛び出してまで追ってくることはない。だから森から脱出できさえすれば逃げ果せるはずだったのだけれど……想像以上に、相手の移動速度が速すぎた。
「宵月、止まれ。ここで応戦する。援護を頼む。レフ、ライ。目と口を交互に狙え」
「あああもう! わかったよ! 了解、援護する!」
「わかった! レフ、目、ねらう!」
「わかった! ライ、口、ねらう!」
俺とチビ達は、ジェイスの指示に従ってそれぞれ行動を開始した。
立ち止まって弓を構え始めた双子を横目で確認しながら、俺は魔導書を構えた。
「我、アイテールを通して、土の元素へ干渉!」
右手に持った魔導書のページがパラパラと捲られ、うっすらと発光しはじめた。ページの上の中空に、薄黄色の光の線が正六面体を描き始める。
「堅き砂塵を集め、何ものをも通さぬ守護の盾となさん。──【不屈なる石盾】!」
魔物の前に、地面から大きな石柱がいくつも勢い良く突き出して、それはまるでバリケードを作る様に交互に重なっていった。
予想通り、大蛇の巨体が石柱のバリケードにぶつかり、一時的に止まった。
だが、一時的にだ。石柱からは嫌な軋み音が微かにきこえてきている。詠唱の短い中レベル魔術だから、そう長くは持たない。
「「代わりばんこ、うつー!」」
レフとライが、交互に弓を撃ち始めた。双子の得意な、二方向から交互に撃つ撹乱系の弓技だ。
顔面集中波状攻撃を受けた魔物が、これはたまらんと言うかの様に鬱陶しそうに唸りながら首を振り始めた。動きが鈍った。
俺は直感した。
今だと。
体力には自信はないが、直感には自信がちょっとだけある。
「ジェイス!」
「ああ」
ジェイスが返事と同時に重剣の柄を両手で握り直し、魔物に向かって駆け出した。
魔物が気づいて構え直す前に、ジェイスが辿り着いた。常人ではあり得ない速さで接近し、大きくて重そうな剣を軽々と下から上へ振り上げる。
空気を割り裂くような音がして、大蛇の首が裂けて、空中に大きな弧を描いて、飛んだ。
相変わらずの常人離れした力技だ。たった一撃で、大型の魔物の首を飛ばすなんて。まあ確かに彼は──半分だけ、人ではないのだけれども。
濡れたような青黒い鱗に覆われた巨体が、ぐらりと傾き、千切れた草葉と砂煙を巻き上げながら地響きと共に倒れた。
ジェイスが大剣を振って、刀身についた血糊や埃を吹き飛ばしてから、背中の鞘に納めたのが見えた。
「終った……のか?」
ジェイスが頷いた。
「「やったー!」」
チビ達がぴょんぴょんと跳ね回る。
俺は安堵の息を吐きだしながら、魔道書を閉じた。
「……ふう。【スワンプ・ヒュージサーペント】、討伐完了。証明品の大毒牙を二つ、いや四つ入手して、冒険者協会に報告しに行こう。それから、二匹分の報酬も要求しよう!」
「そうだ、肉も持っていくか? 聞いた話だと、結構美味いらしいぞ。歯ごたえのある鶏肉みたいで」
「お肉!」
「食べる!」
双子の耳としっぽがピンとたった。ちぎれんばかりに尾を振りながら、キラキラした瞳でこちらを見つめてくる。よだれも垂れそうになっている。
俺は引きつった笑みをにこりと返しながら、青年と双子に向かって、首を大きく横に振った。
「食べない。売って、ちゃんとしたお店のご飯を食べる」
ブーイングが一部から飛んできたが、俺は構わず素材回収の指示を出した。だって俺は好んで蛇なんて食べたくはない。ただでさえ匂ってくる泥臭さと生臭さで、胃液が込み上げてきそうなのに。
俺はやれやれと溜め息をつきながら、素材回収作業に参加すべく、嫌々ながら大蛇の元へと足を踏みだした。




